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事例紹介
地域医療再編の新潮流
公立病院と民間病院が一体となった医療機能再編事例
広島県は2022年11月に、広島都市圏の8つの病院の再編計画などを盛り込んだ医療提供体制の今後の方向性を示す基本構想を公表しました。この構想においては、県立病院と民間病院を経営統合し、新病院を整備したうえで、その他病院と医療機能再編を行う方向性が示されています。広島県はなぜ民間病院を含めた医療機能再編を行うことを検討するに至ったのでしょうか。その背景にある課題、課題解決に向けた取組をご紹介いたします。
1. はじめに
地域医療構想において、今後の人口減少・高齢化に伴う医療ニーズの質・量の変化や労働人口の減少を見据えた、質の高い医療を効率的に提供できる体制を構築することが求められており、今後ますます医療機能再編が進むことが想定されます。
総務省が公表する再編・ネットワーク化の事例(2023年3月時点)によると、2015年度から2021年度までの再編事例は21件あり、そのうち3件が民間病院を含むものでしたが、2022年度以降の再編事例は39件に増加し、そのうち8件が民間病院を含むものになっています。ここで注目すべきは、公立病院と民間病院が連携して医療再編を行う事例が増えていることです。これは、将来的な課題である人口減少、高齢化、医療ニーズの変化、医療スタッフの不足などに対応するために、より効率的で質の高い医療が提供できる体制を構築する必要があるためです。
上記のように再編事例が増えている中でも、広島県の事例は、公立病院と複数の民間病院が再編する新しい取組になっています。広島県は、2022年11月に広島都市圏の病院の再編計画などを盛り込んだ医療提供体制の今後の方向性を示す基本構想を公表しました。この構想においては、県立病院と民間病院を経営統合し、新病院を整備したうえで、その他病院と医療機能再編を行う方向性が示されています。本稿では、広島県がなぜ民間病院を含めた医療機能の再編を模索したのか、その背景にある課題と取組をご紹介いたしします。
2. 広島県の医療提供体制における主な課題
広島県の医療提供体制にはいくつかの主要な課題が存在しました。
医師不足の顕在化。特に中山間地域の医師不足に対する懸念
広島県の総人口は、2015年の約284万人から、2045年には約243万人まで減少し、高齢者の比率も35%を超えるなど、人口減少と少子高齢化が予測されています。高齢者人口増加に伴い、医療・介護ニーズが高まる一方で、広島県内の医師不足が顕在化していました。特に中山間地域においては、医師の高齢化や後継者不足により、医療提供体制の確保が困難な状況でした。
非効率的な医療提供体制による様々な弊害
広島都市圏では医療資源が集中し、基幹病院が重複する医療機能を有するなど、非効率的な医療提供体制が続いていました。特に救急医療において、救急患者の適切な受入先が迅速に決まらない問題が存在し、これは長い間の課題となっていました。新型コロナウイルス感染症の拡大初期には、医療資源の分散や医療機能の未分化などが露呈し、コロナ患者の受入に限界が生じました。この他にも、新たな高度・先進医療技術への対応、医療デジタル化の推進など、広範な課題に直面していました。
3. 課題解決に向けた取組
基本構想の策定
広島県の課題を踏まえ、広島県地域保健対策協議会保健医療基本問題検討委員会は「高度医療・人材育成拠点ビジョン」を提言しました。このビジョンは、医療機関の再編により県民に高い水準の医療を提供するとともに、医療人材の供給・循環の拠点を整備することを提言するものです。このビジョンの提言を踏まえて、広島県は、新病院に必要な医療機能や広島都市圏における医療機能の分化・連携・再編の方向性等を示した「基本構想」を取り纏めました。
医療機能の再編
広島都市圏の病院の医療機能再編については、以下の方針に基づき、関係医療機関と協議や交渉が進められています。
- 県立病院と複数の民間病院が経営統合したうえで、1,000程度の新病院を整備
- 新病院に高度急性期・急性期機能を集約
- 地域医療構想の実現に向けた広島都市圏の病院の回復期機能の強化
- 地域完結型医療を実現するための連携のあり方の検討
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新病院の役割
新病院は、高度・急性期医療を担う基幹病院として、「政策的医療」、「高度医療」、「人材育成・循環機能」の3つの役割を担うことが期待されています。
- 政策的医療:救急、小児、周産期、災害医療、新興・再興感染症への対応など、県民の医療ニーズに応える
- 高度医療:広島都市圏を中心とした医療機能の分化・連携を通じて、医療資源や様々な症例を集積し、県民に高度な医療を提供する
- 人材育成・循環機能:中山間地域の医療を支えるため、医療人材の供給と循環の仕組みを構築し、持続的な医療提供体制を確保する
新病院の整備と医療機能再編により期待される効果
新病院の整備と医療機能再編により、以下のような効果が期待されています。
- 症例の集積による治療成績の向上
- 多くの医師が集まることで、県外からの医療専門家が増加
- マンパワーの充実により、救急患者の迅速な対応
- 新興感染症対応能力の向上
- 医療従事者の負荷軽減
- 医師の地域偏在の解消
- 高額医療機器の効率的な運用
4. 新病院の運営形態について
新病院の運営形態については、新病院に期待される役割や求められる機能等を実現しつつ、再編統合対象となった病院職員の処遇等に配慮する必要があるため、非常に多くの議論がなされました。
新病院に求められる運営形態に関する要素
新病院の運営形態は、政策医療、高度医療、医療人材の育成・循環機能に加え、複数の医療機関との再編統合を伴うため、以下の3つの要素を備える必要があります。
- 政策医療の実施を担保することができること
- 予算執行、定数管理、給与制度等において柔軟な対応が可能であること
- 持続可能な病院経営のための仕組みが担保されていること
適切な運営形態の決定
「高度医療・人材育成拠点の運営形態のあり方検討会」の有識者は、新病院の運営形態について、「一般地方独立行政法人(非公務員型)」が望ましいと提言しました。広島県はこの提言を受けて、新病院の役割の達成と持続可能な経営を確保するための仕組、財源、効率的な運営、医療機関との再編・統合に関する人員の受け入れなどを包括的に評価し、2023年9月に高度医療・人材育成拠点の基本計画において「一般地方独立行政法人(非公務員型)」が最適な運営形態であると結論づけました。
5. おわりに
広島県事例のように、複数の医療機関との再編統合に加え、公立・公的病院および民間病院の医療連携・役割分担を検討していくためには、以下のような要素を総合的に検討する必要があります。
- 医療提供のあり方の検討:新病院の医療機能や周辺医療機関との連携のあり方の検討
- 統合条件の検討と交渉:病院の譲渡条件の検討、統合に向けたスケジュール管理
- 職員の労働条件の検討:医療従事者の配置や待遇に関する条件の検討
- 運営形態の検討:持続的な病院経営や統合条件の実現を可能とする運営形態の検討
- 事業計画の検討:新病院の整備に係る投資額や収支シミュレーションの検討
医療機関の統合支援や医療機能の再編支援など、多くの支援実績を有するデロイト トーマツ グループでは、様々な領域の知見を有する実務経験豊富な専門家を有していることから、医療に関わるあらゆる課題解決に向けた取組の助言ができる業務体制を整えています。十分なリソースや時間がない場合、具体的な改善策の策定が難しい場合など、お悩みがある場合は、ぜひご相談ください。
執筆
有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 ヘルスケア
※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2023/10
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