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地域医療における地域包括医療病棟再編の活かし方
高齢者救急患者の受け入れ、急性期治療とリハビリ在宅復帰
令和6年診療報酬改定では新たな入院料として地域包括医療病棟入院料が設けられました。地域包括医療病棟では高齢者の救急患者を受け入れ、急性期治療と同時に早期の充実したリハビリテーションを提供することで、患者の在宅復帰を推進することを目的としています。本稿では地域包括医療病棟の施設基準等について解説するとともに、病院経営に対する影響や地域医療再編・病床再編への活用方法について紹介します。
地域包括医療病棟新設の背景
令和6年2月14日に中央社会保険医療協議会・総会から診療報酬改定に関する答申が公表されました。今回の診療報酬改定では、医療従事者の確保や賃上げのためのベースアップ評価料、医療DXの推進を目的とした加算等、数多くの診療報酬が新設されましたが、その中でも特に注目されているのが、地域包括医療病棟入院料の新設です。そこで、地域包括医療病棟入院料が新設された背景について整理したいと思います。
わが国では少子高齢化が進展しており、国立社会保障・人口問題研究所の推計においても、2040年までは一貫して生産年齢人口(15歳~64歳)は一貫して減少する一方で、75歳以上は2030年頃まで、85歳以上人口は2040年頃まで増加すると見込まれています。
高齢者人口の増加が進む中で、ここ10年間の救急搬送人員を年齢別・重症度別に比較をすると、高齢者の救急搬送人員は増加しており、中でも軽症(入院が必要のないもの)・中等症(命の危険はないが入院が必要なもの)が増加していると報告されています。
出所:厚生労働省 中医協総会第495回入院(その2)についてP23より抜粋(https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001166176.pdf)
救急搬送された高齢者患者のうち、入院が必要となった患者は急性期病床に入院することとなりますが、急性期病床に入院した高齢者の一部は、急性期の治療を受けている間に離床が進まずADLが低下し、急性期病床から回復期病床に転棟・転院となり、やむなく在宅復帰が遅くなってしまうケースがあることが報告されています。
また、急性期病床でも早期リハビリテーションの重要性は理解されているものの、実際ADLを維持していくためのリハビリテーションや介護対応の機能・体制が整備されていないのが現状となっています。
出所:厚生労働省 中医協総会第495回入院(その2)についてP39より抜粋(https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001166176.pdf)
加えて、急性期医療を担う医療機関の中には一部救急の受入が少ない医療機関があり、患者の増加に伴い救命救急医療を担う三次救急医療機関であっても軽症患者を診療せざるをえず、重症患者の診療に支障を来す可能性があることも懸念されています。
高齢者に多くみられる疾患の代表例として誤嚥性肺炎や尿路感染症がありますが、それらの疾患については、急性期一般入院料1(看護師配置7:1)を算定している病床と地域一般入院料1(又は2)(看護師配置13:1)を算定している病床では医療資源の投入量の差がそれほど大きくはないというデータが示されていることから、高度急性期・急性期医療の中心を担う病院でなくとも十分対応が可能であることが示唆されています。
出所:厚生労働省 中医協総会第495回入院(その2)についてP33より抜粋(https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001166176.pdf)
以上のような背景があり、今後も増加が見込まれる高齢者救急患者を中心に対応する病棟として、診療報酬改定で地域包括医療病棟が新設されました。
地域包括医療病棟と地域包括ケア病棟の違い
まず、地域包括医療病棟の施設基準について確認したいと思います。
地域包括医療病棟入院料の施設基準では、特定機能病院や専門病院ではなく、急性期充実体制加算の届出を行っていない地域で急性疾患等の患者に包括的な入院医療及び救急医療を行うに必要な体制を整備している病院(2次救急医療機関又は救急告示病院、常時必要な検査や画像撮影が可能な体制を有する病院等)であることが求められています。そして、看護師の職員配置基準は10:1以上で、最小必要数の7割以上が看護師とされています。
上述の通り、高齢者の救急医療を中心に対応していくことが求められる病棟であることに加え、一定程度の看護師の配置及び救急医療への体制が求められていることから、地域の急性期医療や救急医療を担う中小規模の総合病院で地域包括医療病棟が編成されることを期待されていることがうかがえます。
また、地域包括医療病棟では、高齢者入院患者のADL低下による在宅復帰の遅れという問題を解消していくためにも常勤のリハビリテーション技師2名以上、管理栄養士1名以上の常勤配置が求められており、急性期病床よりも充実したリハビリテーションの体制が必要となります。
そして、このような治療・ケアからリハビリテーション、口腔衛生管理、栄養管理を一体的に行い、入院患者の平均在院日数は21日以内、在宅復帰率80%以上、入院時からのADL低下患者割合が5%未満という実績要件をクリアしていくことが求められます。
さらに、具体的な入棟対象患者像として、一般病棟用の重症度、医療・看護必要度の基準を用いて延べ患者数のうち「A3点以上、A2点以上かつB3点以上、又はC1点以上」に該当する割合が16%以上(必要度Ⅰの場合)又は15%以上(必要度Ⅱの場合)であるとともに、入棟患者のうち入院初日に「B3点以上」に該当する割合が50%以上であること、当該保険医療機関の一般病棟から転棟したものの割合が5%未満であること、救急用の自動車等により緊急に搬送された患者又は他の保険医療機関で救急患者連携搬送料を算定し当該他の保険医療機関から搬送された患者の割合が15%以上であることが求められています。
以上の施設基準からもわかる通り、増加する高齢者の救急患者を当該病棟で積極的に受け入れるとともに、3次救急に対応する高度急性期医療機関の負担軽減の実現を図り、地域包括ケアシステムをより一層推進することを狙っています。
一方、地域包括ケア病棟の施設基準では、看護師の配置は13:1以上と比較的緩やかな配置が許されており、リハビリテーションに関する実績要件はADLではなくリハビリテーションの実施単位数が1日平均2単位以上、在宅復帰率については72.5%以上(入院料3・4等では70%以上)、救急実績に該当するものとしては3月で9人以上等が求められています。
特に在宅復帰率については、地域包括医療病棟ではその計算式に回復期リハビリテーション病棟への退院が含まれていますが、地域包括ケア病棟では回復期リハビリテーション病棟への退院は含まれていないことに注意が必要となります。
地域包括ケア病棟も地域包括医療病棟と同様に患者の在宅復帰を目指した病棟と位置付けられていますが、主な対象は、急性期治療後の患者(ポストアキュート)の対応と在宅で療養を行っている患者の急性増悪(サブアキュート)の対応、在宅復帰支援が必要な患者となります。
実際、令和4年度入院・外来医療等における実態調査の結果を見ると、地域包括ケア病棟への入院経路は予定入院と外来初再診後の緊急入院(いわゆるウォークイン患者の緊急入院)が80%以上を占める一方、救急搬送後に直接入院するケースは5.7%と非常に限られており、地域包括ケア病棟は比較的在宅で療養する患者を支える入院機能としての色が濃いことがわかります。
以上のことから、地域包括医療病棟と地域包括ケア病棟の違いは、地域包括医療病棟は高齢者を中心とした救急患者を対象に急性期入院医療を提供し、手厚いリハビリテーション等でADLを維持・改善し、早期の在宅復帰に繋げる『地域の急性期病床』、地域包括ケア病棟は在宅で療養する患者や急性期後の在宅復帰の支援が必要な患者にリハビリテーション等でADLを改善し、しっかりと在宅復帰に繋げる『地域の回復期病床』と整理することができます。
地域包括医療病棟の収益性
地域包括医療病棟では入院基本料や入院基本料等加算、検査や画像診断等(一部のものは除く)がその入院料に含まれることになりますが、リハビリテーション及び精神療法や手術、麻酔等の費用は包括範囲外となっています。加算として包括範囲から除かれているものの代表例としては、救急医療管理加算や地域医療体制確保加算等が挙げられます。
そこで、40床の病棟で、地域包括医療病棟入院料と地域包括ケア病棟入院料で在宅からの緊急入院で20日間入院した場合について、簡易的に採算性を試算してみました。
試算条件としては、地域包括ケア病棟入院料1(又は2)でリハビリは全て脳血管疾患等リハビリテーション料2を平均3単位/日で算定した場合とします。
表のとおり、地域包括医療病棟の場合は、入院料の点数が地域包括ケア病棟よりも高いことと、リハビリテーションを出来高で算定できることが収益上のメリットとなります。一方で、看護師・看護補助者関連の加算に関してはそれほど2つの病棟で大きな収益差はないことがわかります。
地域包括ケア病棟では1日当たり約3.5万円程度の収益となっており、入院単価面では今後も大きく上振れることは想定し難い状況ですが、地域包括医療病棟入院料では、1日当たり最低ラインとして約4.2万円の入院単価を期待することができると考えられます。
表:地域包括医療病棟入院料と地域包括ケア病棟入院料の収益性の簡易比較
地域包括医療病棟の活用にむけた病床再編イメージ
地域包括医療病棟の新設背景や施設基準、地域包括ケア病棟入院料と比較した際の収益性等から考えると、地域包括医療病棟が活用できる病床再編パターンは、以下のような病院がまず当てはまるのではないかと考えられます。
【地域包括医療病棟への病床転換が有効となりそうな病院像①】
内科系疾患の患者構成において誤嚥性肺炎や市中肺炎、尿路感染症、心不全等の症例が他の疾患と比べ相対的に多い急性期病床を有する病院では、DPC制度と比較しても入院期間トータルの収益は地域包括医療病棟の方が高くなることが予測されます。仮に入院期間を14日とした場合で、上記の3つの疾患について特別な検査や処置がない場合、収益性は地域包括医療病棟が高いことが示されています。
【地域包括医療病棟への病床転換が有効となりそうな病院像②】
看護師確保が困難となり、急性期病床のダウンサイジングや回復期へ機能転換への検討をしている病院においても、地域包括医療病棟への転換は地域医療ヘの貢献と採算性の面からも高いことが推測されます。
地域包括医療病棟は看護師配置が10:1であることから、仮に7:1の看護師配置をしている病院であれば急性期機能の病棟を異なる看護師配置で運用することが可能となります。患者の重症度、医療・看護必要度に応じた入棟病棟を決定しやすくなることに加え、看護師不足により病床稼働率が制限されているような場合であれば、稼働可能病床を増やすこともできるため、地域医療への貢献という側面でも大きな期待を持つことができます。
高齢者の増患に伴い軽症・中等症の救急患者は今後も増加が見込まれることから、地域における医療資源を適切に活用し、持続可能な地域医療提供体制を維持していくためには、病院間の機能分化・連携強化がますます重要になります。
今回新設された地域包括医療病棟を持続可能な地域医療提供体制の構築に向けた再編におけるキーパーツとして位置づけ、各病院で病床再編・機能転換の議論を進めていくことが求められます。
執筆
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ヘルスケア
※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2024/4
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