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対談:医師事務作業補助者の活躍を推進した評価制度とは

岐阜県総合医療センターが構築した医師事務作業補助者の評価制度のポイントを読み解く

2024年4月の「医師の働き方改革」施行に向け、医師事務作業補助者の有効性が注目されています。医師事務作業補助者の有効活用にあたり課題を抱える医療機関が多い中、地方独立行政法人 岐阜県総合医療センターでは、いち早く人事評価制度の構築に取り組み、医師の働き方改革への貢献を実現しました。本記事では、同病院のプロジェクト推進をサポートしたデロイト トーマツ ヘルスケアのメンバーが、桑原院長、飯田副院長、小池医事課長、医師事務支援部の二宮主任、総務課人事労務担当の増元主査に、人事評価制度構築の経緯やポイントについてお話を伺いました。

医師事務作業補助者の獲得競争の激化に先手を打ち、人事評価制度の検討を開始

左から、有限責任監査法人トーマツ 吉岡拓也、同 稲葉正敏、岐阜県総合医療センター 飯田真美副院長、同 桑原尚志院長、有限責任監査法人トーマツ 渡辺典之
 

デロイト トーマツ:貴院は約3年前の2020年から人事評価制度の構築に着手されましたが、いち早く検討に着手された背景や理由について教えていただけますでしょうか。

飯田副院長:当院では、2008年の医師事務作業補助体制加算の創設以降、医師事務作業補助者(Doctor’s Assistant、以下「DA」)の採用と診療科への配属を進めてきました。しかし、勤続年数を重ねても給料が上がらないことや頑張っても正職員にはなれない等の理由から、DAはモチベーションが上がらず、スキルもなかなか上がらないという状況でした。このような中、医師事務作業補助体制加算の点数は診療報酬改定の度に増点の評価をされていたことから、近い将来にDAの獲得競争が激化するのではないかと考え、給与アップ等の処遇改善を含めてDAの評価制度の検討を開始しました。

桑原院長:医師の働き方改革を推進する中で、医師事務作業補助者は医師の業務時間をダイレクトに減らすことができるため、どんな医師にもウェルカムな存在です。今後DAの獲得競争がさらに激化することを予想し、一歩先んじた対策を取らないとDAの確保や在籍するDAのモチベーション維持がより困難になると考えたところが発端でした。

※岐阜県総合医療センターの皆様 

人事評価制度の構築は、その前提となる業務整理から取り組んだ

デロイト トーマツ:実際の検討は、何から始められたのでしょうか。

飯田副院長:まずはDAの業務整理から着手しました。DAを評価しようにも、そもそもDAの業務内容は各診療科に任せられていたため、詳細には把握ができていませんでした。そこで、医師事務支援部内にワーキンググループを作り、業務内容の調査をスタートしました。実際に調査を行うと、診療科ごとに様々な業務が実施されており、繁忙度にも差があることがわかりました。また、DAの業務の中には他の職種が実施した方が効率的な業務も一部見つかりました。しかし、明らかとなったDAの膨大な業務から本当にDAが実施すべき業務をどのように整理すれば良いか、その後の評価制度の構築をどのように進めれば良いか、検討は行き詰まりました。そのような中、タイミング良くコンサルタントからの案内が届き、業務整理から人事評価制度の構築までを専門家として支援いただくことにしました。

評価制度構築までの道のりは険しく、決して平坦ではなかった

デロイト トーマツ:実際に人事評価制度の構築を進める中で、困難や課題はありましたでしょうか。

飯田副院長:はい、構築の過程でいくつもの課題に直面しました。例えば、DAが実施していた業務のうち、他職種が実施した方が効率的な業務の移管を医師事務支援部が行いましたが、簡単には進みませんでした。これを解決するためには、第三者であるコンサルタントからの客観的な提案が有効でした。もちろん他部署とは何度も業務移管の交渉を重ねることになりましたが、結果的にDAの仕事のあり方を他部署にも理解してもらう良い機会になりました。

デロイト トーマツ:医師の理解はスムーズに得られたのでしょうか。

飯田副院長:評価制度の構築と同時に推進していたバックアップ体制の構築については、現場の医師の反発がありました。当初DAは各診療科に配属されていたことから、各科の医師は「自分達で育てた自科のDA」という意識が強く、1人のDAが複数科を担当することには、なかなか理解が得られませんでした。しかし、各科の部長に対して「DAの業務が属人的になると、急に担当のDAが休んだ際に他のDAでは誰もその医師をサポートできず、医師の負担が高まってしまう」等、バックアップ体制のメリットを繰り返し丁寧に説明し、理解いただくように努めました。振り返ると、医師事務支援部として組織的にバックアップ体制を構築するというコンセプトをブレずに守り切ったことがポイントだったと思います。

デロイト トーマツ:DAの方々にとって人事評価制度の導入は大きな変化だったと思いますが、制度の構築中に苦労されたことはありましたか。

二宮主任:はい、確かに現場のDAにとっては大きな変化でした。まず「評価制度」と聞くと、「マイナス評価を受けるのではないか」と感じるDAも中にはいました。今回の評価制度はDAの日々の努力を評価するものであると理解してもらうため、何度も説明会を開催したり、個々のDAに「きっと良くなるから」とメッセージを伝え続けたりしました。もちろん評価制度自体の納得度がないと検討が進まないため、そこは院内だけで作成したものではなく、コンサルタントという第三者からの助言があったと示したことがDAの納得度を高めることにつながりました。また、DAの中には実際にこの制度が実現できるのかと懐疑的な方もいました。これについては、人事労務担当にも説明会に参加してもらい、医師事務支援部だけではなく、病院全体として取り組みであることを示せたことが良かったのだと思います。

※小池清則医事課長(左)、医師事務支援部 二宮はるみ主任(右)


デロイト トーマツ:賃金に関する規定等も変更することになったと思いますが、どのようなことに苦労されましたか。

増元主査:賃金に関する規定等を変更するにあたり、具体的な規定の中身を決めていくことがポイントでした。特に、賃金の額については、他の職種等とのバランスを踏まえたものにする等、一筋縄ではいかないところがありました。解決のポイントとなったのは、DAの等級を6段階に分けることや常勤へのキャリアパスを作ること等、評価制度の具体的なコンセプトを医師事務支援部がデロイト トーマツと一緒に予め検討していたことです。このコンセプトのおかげで、各等級の金額設定の検討が大きく進んだと感じています。

※左から、総務課人事労務担当 増元主査、飯田真美副院長、桑原尚志院長 

評価制度の導入はDAに好評、医師のタスク・シフト促進にも大きく貢献した

デロイト トーマツ:実際に評価制度を導入した後のDAさんの反応はいかがでしたか。

二宮主任:DAの反応は大変良好でした。資格取得へのモチベーションが高まり、資格保有者数が1.5倍に増加しました。また、自身のキャリアが上がる要件が明確になったことで、何をトレーニングしたら良いかが明確になったことも良かった点です。実際にDAの実施できる業務が制度導入前から20%ほど増加し、医師のタスク・シフトにも大きく貢献できたと感じています。また、最近では、医師に対して「こんな業務もできるので、もっと言ってください」と積極的に働きかけるDAも出てきました。

デロイト トーマツ:評価制度導入後の医師の反応はいかがでしたか。

飯田副院長:医師からも好評です。ある診療科の医師については、外来患者を30人診察するのに、1時間の短縮効果がありました。このような好ましい効果が出たことが、さらにDAの励みなるので、継続してDAに向けてフィードバックしていきたいと考えています。

今後はDAのさらなる増員や常勤化、スキルアップを推進

デロイト トーマツ:今後の展望や課題があれば教えてください。

飯田副院長:医師事務支援部としては、さらにDAを増やしたいと考えています。NCD(National Clinical Databaseの略)登録等の業務も増加しており、現状の業務を行うだけでもDAが不足している状況です。新卒採用なども含めて増員を進め、外来が忙しい診療科へのサポートをより充実させる等の対応を進めていきたいと考えています。

桑原院長:さらにDAのスキルアップをサポートできる仕組み等を継続的に模索し、DA本人のモチベーションを高める方法を検討していく予定です。指示待ちではなく、積極的に医師に提案してもらえるDAを増やしていきたいと考えています。

小池医事課長:DAからの常勤採用「第1号」を誕生させたいと考えています。非常勤のDAから実際に常勤へ登用されることが院内に示せると、他のDAもモチベーションを高めてくれるのではないかと思います。実現に向けた検討事項はいくつもありますが、引き続き、進めていきたいと考えています。

これから評価制度の構築に取り組む他病院へのアドバイス

デロイト トーマツ:医師事務作業補助者の評価制度構築を検討されている他病院様へのアドバイスがあれば、教えていただけますでしょうか。

桑原院長:やはりDAの業務整理からスタートすることが重要だと思います。そして、DAの立場に立って、どうしたらDAを適正に評価できるか、病院とwin-winの関係を作れるかを考えることが重要だと思います。これらは短期間ではなかなか解決できるものではないので、しっかりと時間をかけて検討した方が、良い成果につながると思います。

飯田副院長:取り組みの大前提として、院長に旗振り役、または、大きな後ろ盾になっていただくことが重要だと思います。また、医師事務作業補助者の中に主任のような推進役を置き、評価される側の医師事務作業補助者たちに何度も粘り強く周知し続けることも重要です。その他、病院全体として真剣に取り組んでいることを示すため、事務局の人事労務担当に説明会に参加してもらうことや、院内から反対意見が挙がっても、当初の目的やコンセプトをブレずに守り切ること等がポイントだと思います。

デロイト トーマツ:本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。先進的な取り組みの背景や成功のポイント等をお伺いでき、大変参考になりました。引き続き、貴院の取り組みを応援しております。

Interviewee Profile:


■桑原 尚志(岐阜県総合医療センター 理事長兼院長)

1982 年岐阜大学医学部卒業。同小児科学内講師、国立療養所長良病院(現:国立病院機構長良医療センター)、岐阜県総合医療センター副院長などを経て、2022 年から現職に就任。
 


■飯田 真美(岐阜県総合医療センター 副院長・内科部長・医師事務支援部部長)

1981年岐阜大学医学部卒業。同第2内科(循環・呼吸病態学)、米国ジョンズ・ホプキンス大学研究員、岐阜女子大学教授、中濃厚生病院内科を経て、岐阜県総合医療センター内科部長、2018年同副院長に就任。

■小池 清則(岐阜県総合医療センター 医事課長)

■二宮 はるみ(岐阜県総合医療センター 医師事務支援部 主任)

■増元(岐阜県総合医療センター 事務局総務課 人事労務担当 主査)

Interviewer Profile:


■渡辺 典之(有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部 ヘルスケア パートナー)

医療・介護事業者に対する経営戦略の策定や組織再編、M&A、マネジメント変革などのアドバイザリー業務に従事。地方自治体病院の経営評価委員を務める他、外部での公演を多数担当。

 


■吉岡 拓也(有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部 ヘルスケア ディレクター)

医師の働き方改革や人事評価制度構築、教育研修等の人事関連業務に従事。厚生労働省が進める働き方改革に関連する業務なども担当。

 


■稲葉 正敏(有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部 ヘルスケア)

公立急性期病院を中心に、人事評価制度の構築の他、経営改革の計画策定・実行支援や電子カルテ更新、建物の増改築などに従事。民間企業の医療分野参入に係るアドバイザリー業務にも従事。

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