最新動向/市場予測

診療報酬改定DXの動向について

国の診療報酬改定DX取り組み方針について

総理大臣を本部長とする政府の「医療DX推進本部」では、自由民主党政務調査会による「医療DX令和ビジョン2030」の提言を受け、医療DX実現に向けて、①「全国医療情報プラットフォームの創設」、②「電子カルテ情報の標準化等」、③「診療報酬改定DX」の取組みを並行して進めています。先月の②「電子カルテ情報の標準化等」の動向に引き続き、本稿では、③「診療報酬改定DX」の取組方針について解説します。

診療報酬改定DXに取り組む背景と実施内容

診療報酬改定がある年は、ベンダーや医療機関・薬局・訪問看護ステーション(以下「医療機関等」という。)において、2月から5月頃にかけて短期間で集中的にソフトウェアの改修や国の解釈通知等の対応を行う必要があり、大きな業務負荷が生じているのが現状です。こうした課題に対応するため、ベンダーや医療機関等がそれぞれ行っている作業を可能な限り、国で一本化するとともに、作業負荷の分散・平準化を図ることが検討されてきました。

本件の最終ゴールは、進化するデジタル技術を最大限に活用し、 医療機関等における負担の極小化をめざすため、共通のマスターコード及び共通算定モジュールを提供しつつ、全国医療情報プラットフォームと連携すること、さらに中小病院・診療所等においても負担が極小化できるよう、標準型レセプトコンピュータを提供することも検討されています。

厚生労働省の診療報酬改定DX方針(案)では、最終ゴールをめざして、医療DX工程表に基づき令和6年度から段階的に以下の4つの取組みを実施することが示されています。

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参考:第3回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム(令和5年4月4日)資料2及び、第4回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム(令和5年8月30日)資料3

1)~3)の取組みを実行することにより、これまで各ベンダーで行っていた窓口負担金を計算するソフトウェアの開発・改修作業は一本化されます。一方で、従来どおり医療機関内部の情報システムとの連携を図るための作業は必要になることから、4)の取組みとあわせて作業期間を確保することも必要な対応と考えられています。

今回は、国がこれから開発、整備を行う1)~3)の取組内容について、「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チームで公開されている資料の内容から詳しく見ていきます。

1)共通算定モジュールの開発・運用について

共通算定モジュールは、診療報酬の算定と患者負担金の計算を行うソフトウェアのモジュールを提供するものになると考えられます。厚生労働省の診療報酬改定DX方針(案)では、共通算定モジュールは4つの要素(①共通算定マスタ、②計算ロジック、③データの標準化、④提供基盤(クラウド原則))で構成することが示されています。具体的な開発内容については、これらの要素を踏まえ、調査研究事業における調査結果や保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)の関係者との協議を踏まえた検討が行われています。

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出所:第3回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム(令和5年4月4日)資料2
URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32511.html

また、共通算定モジュールの開発・運用は、社会保険診療報酬支払基金(以下「支払基金」という。)において保有する、マスターや電子点数表などのプログラムを活用することが、効率的な開発に結び付くと考えられることから、支払基金が主体となって行うことになっています。今後、令和5年度中に開発に着手し、令和7年度にモデル事業を実施した上で、令和8年度に共通算定モジュールの導入効果が高いと考えられる中小規模の病院を対象に提供を開始し、徐々に対象病院を拡大する予定となっています。また、医療機関等の新設のタイミングや、システム更改時期に合わせて導入を促進することや、費用対効果を勘案して普及を加速させるための政策の実施も検討されています。診療所向けには、一部の計算機能より、総体的なシステム提供による支援の方が、コスト削減効果が高く得られると考えられるため、標準型電子カルテと一体型のモジュールを組み入れた標準型レセプトコンピュータをクラウド上に構築して利用可能な環境を提供することも検討されています。

2)共通算定マスタの整備と電子点数表の改善について

1)共通算定モジュールの開発・運用でも述べたとおり、支払基金において保有する既存資産であるマスターや電子点数表等を、共通算定モジュールにおける患者負担金計算の処理でも活用することが検討されています。共通算定モジュールでの患者負担金計算に必要なマスターとして、電子レセプト請求に用いられている「基本マスター」を拡張した「共通算定マスター」を整備することが診療報酬改定DX方針(案)で示されており、運用開始時には支払基金からマスターとして公開、配布されることになると想定されます。電子点数表については、これまでどおり審査支払機関におけるレセプト電算処理システムや医療機関の医事会計システム等での算定チェックに利用することに加え、共通算定モジュールにおける算定チェックにも利用することを想定した改善が図られるものと思われます。また、併せて、国や地方単独の医療費助成事業(以下「地単公費」という)に係るマスターの作成及び運用ルールについても、自治体や国保連合会を主な構成員とした作業チームを設置し検討が行われている状況です。地単公費、予防接種、母子保健に関する事業の手続の際に活用できる、マイナンバーカードを利用した情報連携を実現するためのシステム:Public Medical Hub(PMH)を利用し、地単公費適用後の患者負担金が正確に計算できるようにすることで、地単公費の現物給付化を実現することも検討されています。

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出所:第4回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム(令和5年8月30日)資料3
URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34874.html

3)標準様式のアプリ化とデータ連携について

医療機関等では、診療計画書や同意書など診療行為に必要な各種帳票を発行しており、これらの帳票の中には、診療報酬改定に伴い見直しが必要になるものがあります。また、入院基本料や医学管理料、病棟入院料など、施設基準について地方厚生(支)局に届け出るための届出様式についても、電子申請に対応した様式が少なく、紙の届出様式で申請することが多いのが現状です。これらの対応も、医療機関等やベンダーにおいて診療報酬改定に伴う作業負担の一因として考えられています。このような課題に対応するため、診療行為に必要な各種帳票の様式の標準化を行い、アプリとして提供することや、施設基準届出等の電子申請をシステム改修により更に推進することが検討されています。

おわりに

診療報酬改定DXの各種取組方針の内容についてこれまで解説してきましたが、電子カルテ情報の共有等、政府の医療DX推進本部で並行して検討が進められている施策が複数あり、順次機能提供が予定されています。

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出所:第2回医療DX推進本部 (令和5年6月2日)資料3
URL: https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/iryou_dx_suishin/dai2/gijisidai.html

国からの機能提供の都度、病院情報システムの改修を行うことは、業務や既存システムへの影響、財政面で課題になることも予想されます。今後の病院情報システム導入、更新のタイミングにおいては、これらの政策動向を踏まえて、医療DXへの取組みについて院内検討を進め、対応できるようなシステムの選定をする必要があると考えます。

デロイト トーマツ グループでは、国・地方自治体での医療ICT施策の支援実績、医療機関における病院情報システム導入検討の支援実績、それらを通しての多くの病院情報システムベンダーとの情報共有体制を有しています。

医療DXへの取組みや病院情報システム導入検討の支援についてのご相談がありましたら、気軽に当法人まで、ご連絡いただければと思います。

執筆

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ヘルスケア

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2024/2

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