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病院の移転・建替えの進め方と押さえるべきポイントについて

病院の移転・建替えにおいて特に押さえたい4つのポイント

建物の老朽化やM&Aによる病院統合、地域医療の将来を見据えた再編など、病院の移転・建替えを検討するケースは様々あります。今回は、病院の移転・建替えの基本的な進め方や検討のポイントについて解説していきます。

病院の移転・建替えの基本的な進め方とポイント

建物の老朽化やM&Aによる病院統合、地域医療の将来を見据えた再編など、病院の移転・建替えプロジェクトを検討するケースは様々あります。病院の移転・建替えは、数十年に1度あるかどうかのビッグプロジェクトであり、大きなコストがかかるため、後戻りのないように綿密な計画を立てることが重要です。

まずは、病院の移転・建替えの基本的な進め方・流れについて紹介します。

病院の移転・建替えの基本的な進め方・流れ

以下の順番で病院の移転・建替えは検討されます。

①基本構想の策定
②基本計画の策定
③基本設計
④実施設計
⑤施工
⑥移転(現地建替えの場合は無し)

①~⑥について、項目によっては同時に実施されるケース(例えば①・②が同時に策定される等)もありますが、基本的な流れはこの順番です。

病院の移転・建替えのポイント

移転・建替えは数年をかけて行われるため、検討すべきことは多々ありますが、中でも重要になるポイントを以下の通り整理しました。

 

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次章からは各ポイントについて解説します。

プロジェクトの成功を決める事業性の検討

「段取り八分、仕事二分」という格言がありますが、病院の移転・建替えプロジェクトにおいても段取りが最も重要です。基本構想や計画を検討する前には、必ず事業性の検討を行います。

特に、「病院を移転・建替えた後に本当に経営は回るのか」の点については必ず検討すべきです。検討せずにプロジェクトをスタートさせることは、後戻りのリスクや移転・建替え後の事業破綻につながります。そのため、このタイミングである程度予算を固める必要があります。今の事業規模であれば、どれくらいの建築費や医療機器等整備費用がかかるのか、毎年いくらの売上げが上がれば問題なく返済していけるか等、予算感を把握します。

少し踏み込んで、新病院における入院料や各種加算といった診療報酬の見直しなどの検討をすることも推奨します。特に、面積要件のある施設基準(例:疾患別リハビリテーション料や特定集中治療室管理料など)については、事前に把握しておかなければ後から算定することができなくなります。実際に、建物が建った後に面積要件が問題になり、算定が出来なかったという病院もあるので、段取りの時点から把握することが重要です。

また、年々建築費は高騰しています。実際に施工するのは、事業性の検討から数年先になるため、将来の建築費がどうなっているかまで考慮し、固い事業性の検討を行うことが求められます。

基本構想・計画に入る前、段取りの段階で、どこまで綿密な事業性の検討ができるかが移転・建替えプロジェクトの成功を決めるといっても過言ではありません。

発注方式は個々の事情に合わせて決める

病院の移転・建替えプロジェクトにおいて、建物の質や使い勝手、予算、開院までのスケジュールは全てが重要です。とはいえ、個々のプロジェクトにおいては特殊事情が違うため、費用を気にせず建物の質を追及するケースや、補助金申請に合わせて開院スケジュールを必ず守らなければならないケース等様々あります。

以下は、主な発注方式を3つに分けて整理しています。

 

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建物の質を追求するにあたっては、設計者の能力による部分も大きいですが、設計・施工者分離発注方式を選択し、設計段階で施主の想い・要望を十分に反映させた図面に反映させた上で施工に進むことが出来ます。

ECI(Early Contractor Involvement)方式は、実施設計の段階から施工者の技術を生かすことが出来ます。現地建替えで少しずつ施工を進めていく場合等工法的に困難さがある場合は、技術協力をもらいながら進めることが出来るため、後戻りを少なく最小限に抑えることが可能です。

設計・施工一括発注方式は、DB(Design Build)方式ともいわれています。設計から全て施工者が行うため、事業期間の短縮が可能であり、設計者や施工者の選定も1回で済ませることが出来ます。また、プロジェクトの早い段階で施工までの契約が締結されるため、全体予算の把握が容易になります。

どの発注方式も一長一短がありますが、建替えプロジェクトを進めていくうえで、何を一番重要視するか見極めた上で、発注方式は選択することを推奨します。

収益への影響を最小限に抑えた移転計画

病院を新しい土地に移転する場合には、プロジェクトの最終章である移転計画は非常に重要です。移転計画は大きく以下の3つに区分されます。

①診療機能の移転計画
②医療機器等物品の移転計画
③患者移送計画

診療機能の移転計画では、「現病院ではいつ診療を終えるか」「新病院でいつから診療を始めるか」といった計画が中心になります。医療機器等物品の移転や患者移送があるため、数日は診療をストップさせなければなりません。診療をストップするということは、その分収益を上げることが出来なくなるため、影響を最小限に抑えるために、長期休日に合わせて移転を行うことが望ましいです。(例:GW期間、年末年始等)

医療機器等物品の移転計画では、現病院で使用している医療機器を新病院に移転する日程等の計画を立てます。特に、放射線機器等大型機器を移設する場合は、シールド工事も含めて2週間以上かかる場合もあるため、診療機能に大きな影響を与えます。その期間は、グループ病院や近隣病院に検査の協力依頼をすること等も含めて検討する必要があります。また、手術関連機器を移転する場合は、現病院でいつまで手術対応を行うのか、新病院でいつから手術対応を開始するのか、手術は収益に大きく影響する部分なので綿密な計画が必要になります。

患者移送計画は、プロジェクトの最後です。患者の状態に応じて、「歩行可能患者・車いす患者・担架移送患者・重症度の高い特別な移送患者(IABP装着等)」に区分し、それぞれを移送する車輛の手配、院内移送ルート、院外移送ルートを計画します。それ以外にも緊急時のために、除細動器の配置や救急対応場所の確保等患者移送当日までに検討する内容は様々あります。場合によっては、患者移送当日までに、極端に患者数を減らして安全性を担保するケースもありますが、患者を減らした分収益は下がります。また、新病院で運用も不慣れな中で、新患を増やしていくことも大きな負担になるため、ある程度は患者数も維持しながら患者移送を完了させることが理想的です。

設計・施工期間に病院がすべきことは経営の見直し

設計や施工が進んでいる間、病院では新病院での運用に向けて新しいシステムに合わせた運用フローを検討したり、委託業務を見直したりとやることは多々あります。

一方で、おおよそ新病院の機能や部門の方針が固まった時だからこそ、改めて経営の見直しをすることを推奨します。

事業性の検討をする際に、少し踏み込んで新病院における入院料や各種加算といった診療報酬の見直しなどの検討をすることも推奨します、と述べましたが、このタイミングで具体的にチームを立ち上げ、取組みを進めるべきと考えます。事業性を検討できたとはいえ、新病院になって経営が現状と同じように安定するか、収益をあげられるかは新病院になってみないとわかりません。未知数です。新病院に向けて足元の経営力を強化するタイミングが、この設計・施工期間です。

また、新病院立上げは多大なコストがかかるプロジェクトです。このタイミングでスタッフにも病院経営というものを考えていただき、経営の意識を醸成出来れば、新病院開院後は今以上に経営力が強化されることと思います。

最後に

冒頭に述べた通り、病院の移転・建替えは、数十年に1度あるかどうかのビッグプロジェクトであり、大きなコストがかかります。だからこそ、今一度自院の経営に目を向けていただきたいと思います。

建替え・移転はゴールではなく、その後続く新病院の運営に向けたスタートです。

デロイト トーマツでは、病院の移転・建替えはもちろん経営力を強化するアドバイザリーやコンサルティングのメニューも豊富に取り揃えております。お困りごと等ありましたら、是非ご連絡ください。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2023/09

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