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医師の働き方改革が収益に与える影響と効果 VOL.1

「医師の働き方改革」が収益に与える効果を考察したいと思います。

これまで医師の働き方改革の成功事例を見ても、医師の負担軽減や効率化にはつながったという成果は聞こえますが、その先の収益が安定化した、増大したという事例はあまり話題に入ってきません。令和6年は、診療報酬改定と医師働き方改革の法施行が同時に施行される年であり、「医師の働き方改革」という視点に絞って、収益に与える影響を整理しておきたいと思います。

医師の働き方改革が収益に与える影響や効果VOL.1

■地域医療体制確保加算が未算定の場合、地域医療介護確保基金や特別償却制度で収益向上を目指しましょう。

令和6年の診療報酬改定における医師の働き方改革に直接または間接的に関連する主な改定事項は次の通りと思料します。これらの改定事項は、各医療機関で直ちに把握され、医事課を中心に試算されていることと思います。

  • 地域医療体制確保加算の施設基準の見直し(客観的な労働時間記録の蓄積、B水準でも段階的に時間外休日労働時間を年1,860時間から引き下げること)
  • 特定集中管理料等の施設基準の見直しと管理料5・6の新設(管理料1~4の専任医師が宿日直当番兼務を行うことは不可とされた)
  • 医師事務作業補助体制、看護補助体制などの点数アップ
  • 処置及び手術の休日・時間外・深夜加算1の施設基準の見直し(交代制またはチーム制の必須化)

上記の診療報酬の中で、地域医療体制確保加算が算定できていますでしょうか。地域医療体制確保加算は、入院初日に620点が入院料に加算され、仮に新規入院患者が延べ年8,000人であれば、約5,000万円/年(8,000×620×10円)程度の増収になるかと推察されます。しかし、実際には、施設基準のうち、救急医療のハードルが高く、算定を見送られているケースも多いかもしれません(「(2)ア 救急医療に係る実績として、救急用の自動車又は救急医療用ヘリコプターによる搬送件数が、年間で2,000件以上であること」)。

ただ、当該加算を算定していない場合、都道府県の補助金事業(地域医療介護確保基金の地域医療勤務環境改善体制整備事業)の活用が可能であることはご存じでしょうか。例えば、東京都の場合、直近の令和5年度の基金交付(*1)の要件を確認すると、救急医療では、「救急用の自動車又は救急医療用ヘリコプターによる搬送件数が、年間で1000件以上2000件未満であり、地域医療に特別な役割がある医療機関」となっており、地域医療体制確保加算で求められている救急医療実績において年間2,000件以上は要件とされていません。また、交付額は、東京都や大阪府では1床あたりの標準単価で試算でき、それなりにインパクトのある金額になり得ます。令和6年4月1日時点では、まだ令和6年度分の地域医療勤務環境改善体制整備事業の詳細は公示されておりませんが、救急医療実績で地域医療体制確保加算が算定できていない医療機関にとっては、ぜひ情報を収集していただければと思います(逆に、当該補助金事業は、地域医療体制確保加算を取得している医療機関は対象となりませんのでご注意ください)。

なお、上記基金の補助対象は、東京都の場合、「勤務医の負担の軽減及び処遇の改善に資する計画に基づいて実施する取組であれば、全て補助対象となる」と記載されているため、ICT投資や短時間勤務要員の経費などへの投資も補助対象とすることができるものと解釈できます。例えば、勤怠システム費用について考えてみましょう。令和6年の診療報酬改定では、地域医療体制確保加算の施設基準に「原則として、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること」という要件が加えられました。そのため、何等かの勤怠システム又はアプリケーションが必要になろうかと思います。勤怠システムに関して、ランニングコストは職員数によって異なりますが、仮に1人辺りのシステム費用が月500円程度だとすれば、医師以外も含めた職員が1,000人の場合、年600万円(毎月50万円)の支出と試算できます。一方で、初期費用については様々です。クラウド型ならばかなり抑えられ、ベンダーによっては0円というケースもあるようですが、自院保有型にすると初期費用は数百万~1千万円以上というケースもあります。これらの経営負担を、地域医療介護確保基金で軽減できる可能性があると推察できます。

また、30万円以上のシステムを導入した場合、働き方改革の推進に係る特別償却制度(*2)による税制メリットも得られます。具体的には、取得の初年度に普通償却費(定率・定額)に加え、特別償却割合(取得価格の15%)を前倒しして減価償却費として計上でき、手続としては管轄税務署に計画書を添付して申告します。医師の働き方改革に係る経費について、診療報酬分は医事課で対応されていると思いますが、診療報酬以外にも活用できる施策があることをぜひ院内でご検討いただきたいと思います。

なお、勤怠システム導入にあたっては、インターバルやその間の実働時間及び代償休息付与・未消化時間の管理ができるものを選定いただくことをお勧めします。上記の管理は、B水準や連携B水準、C水準の医療機関である場合、令和6年4月以降、医療監視(立入調査)の確認事項対象とすることが厚生労働省より明示されており、取組不十分の場合には罰則等の適用も示唆されています(*3)。インターバルや代償休息管理において、システム導入までの一時的なつなぎが必要な場合は、Excelの簡易的な管理表をご提供することも可能ですので、デロイトトーマツヘルスケアまでご相談ください。

【補足】(*4)

インターバル及び代償休息については以下をご覧ください。

■インターバルとは?

医師の働き方改革においてB水準・連携B水準・C水準の適用対象となる医師について、勤務シフト等で事前に次のインターバル予定を確保しなければならない(A水準は努力義務)。

① 始業から24時間以内に9時間の連続した休息時間(15時間の連続勤務時間制限)…日勤及び宿日直許可のある宿日直

② 始業から46時間以内に18時間の連続した休息時間(28時間の連続勤務時間制限)…宿日直許可のない宿日直

※C-1水準が適用される臨床研修医の場合、②は始業から48時間以内で24時間の連続した休息時間
 

■代償休息とは?

上記の予定された9時間または18時間の連続した休息時間中にやむを得ない理由により発生した労働に従事した場合は、当該労働時間に相当する時間の代償休息を、当該労働の発生日が属する月の翌月末までに付与することが求められている(宿日直許可のある宿日直中の連続9時間インターバル中に実働があった場合は配慮義務)

※C-1水準が適用される臨床研修医の場合、②の宿日直許可のない宿日直で発生した労働時間に対する代償休息付与は認められていない。また、①の場合に発生した労働時間に対しても臨床研修医募集時に代償休息を付与する旨を明示しなければならない。

※B水準や連携B水準、C水準の指定を受けるには、医療機関勤務環境評価センターの審査を受ける必要があるが、同センターの評価項目25(必須項目)において、少なくても月1回は、代償休息の付与対象となる医師及び労働時間を抽出する必要がある(*5)。
 

(*1)参考:東京都保健医療局_地域医療勤務環境改善体制整備事業
(*2)参考:厚生労働省_医療提供体制の確保に資する設備の特別償却制度について(令和5年度税制改正事項)
(*3)参考:厚生労働省_医師の働き方改革 2024年4月までの手続きガイド
(*4)参考:厚生労働省_医師の勤務間インターバルと代償休息について
(*5)参考:令和5年5月 公益社団法人日本医師会 医療機関勤務環境評価センター_医療機関の医師の労働時間短縮の取組の評価に関するガイドライン(評価項目と評価基準)解説集

■時間外労働を引き下げたという成果が出れば、地域医療体制確保加算だけでなく、助成金の申請も漏れのないように。

令和6年の地域医療体制確保加算の改定において、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な方法で勤務時間の記録を残すことが加えられましたが、当該加算で追加された要件は他にもあります。令和6年度1,785時間以下、令和7年度1,710時間以下という時間外休日労働の上限規制に関する施設基準も追加されました。令和3年時点ですでに医師の時間外労働短縮目標ラインが厚生労働省から公示されており、時間外休日労働時間の上限の年1,860時間は段階的に引き下げられ、今後さらに令和9年には1,635時間以下、令和15年には1,185時間以下と示されています(*6)。

地域医療体制確保加算における時間外休日労働時間については、令和5年11月の中央社会保険医療協議会総会でも議論されており、支払側からは、「時間外労働が月80時間以上の割合が2020年から2022年にかけて増加しており、加算による長時間労働減少の効果がない等から廃止すべき」という厳しい意見が出ています。このような議論がなされている以上、毎年度の確実な労働時間短縮という成果が求められる流れは今後、より厳しくなっていくでしょう。ただ、時間外休日労働の上限規制に対応した医療機関は、働き方改革推進支援助成金も申請することが可能です。当該助成金は都道府県労働局に申請します。令和6年度分はまだ公示されていませんが、令和5年度(令和6年3月8日支給申請期限)の助成金案内(*7)によれば、最大930万円の助成額受給が可能となっていました。具体的には、事業実施前に36協定で月80時間超の設定をしていて、実施後に時間外・休日労働時間数を月80時間上限に設定できた場合に150万円~250万円の助成金が設けられ、勤務間インターバルも9時間以上11時間未満で100万円、11時間以上で150万円という設定があります。入院基本料等と比べれば決して大きな額ではないかもしれませんが、働き方改革という労力をかける上で得られる効果はぜひ逃さずに享受いただきたいと思います。

(*6)参考:厚生労働省_医師の労働時間短縮等に関する大臣指針について(令和3年8月第13回 医師の働き方改革の推進に関する検討会)
(*7)参考:厚生労働省_働き方改革推進支援助成金(適用猶予業種等対応コース)

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執筆

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ヘルスケア

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2024/4

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