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医療DX:全国医療情報プラットフォームの概要
医療DX令和ビジョン2030の中核であるプラットフォーム創設の現状と対応について
令和5年6月2日、政府の医療DX推進本部で「医療DXの推進に関する工程表」が決定し、全国医療情報プラットフォームの構築に関するロードマップが公開されました。医療DX令和ビジョン2030の柱の一つであり、今後医療従事者の業務効率化や患者サービスの向上において重要な存在となる全国医療情報プラットフォームについて、医療機関のメリットや対応事項を解説します。
はじめに ~医療DXビジョン2030の概要~
全国医療情報プラットフォームは、2022年5月に発表された「医療DXビジョン2030」において、今後医療DXを進める上での骨格となる取組として提唱されました。
当該ビジョンでは、その推進に至る背景として、
①少子高齢化の進行に伴う医療機関の負担増加に対応する必要性
②次の感染症危機の際に迅速に対応可能な体制を構築できる必要性
②次の感染症危機の際に迅速に対応可能な体制を構築できる必要性が挙げられています。
その各々の実現においては
・医療業務のデジタル化
・保険・医療情報(介護含む)の利活用
が必要とされており、その基となるデータ収集の迅速化や収集範囲の拡充、データ共有による医療の「見える化」の実現に資する仕組みが必要とされています。
その上で、取組みの方向性として以下の三点が挙げられています。
- 国民自らの健康寿命延伸に向けた取組みと、医療提供時の診療の質の向上・治療等の最適化の推進
- 医療情報に係るシステム全体として、次の感染症危機の際に必要な情報を迅速・確実に取得可能な仕組みの構築
- 医療情報の適切な利活用による、関係分野の産業振興と人材の有効な活用
上記の背景・方向性を受けて、その骨格となる具体的な取組みとされたものが「全国医療情報プラットフォームの創設」になります。
※本稿では詳細に触れませんが、その他の骨格となる取組みは次の通りです。
・電子カルテ情報の標準化、標準型電子カルテの検討
医療機関同士等でのデータ交換・共有の円滑化に向けた、データ交換規格の標準化(HL7-FHIRの利用)
上記標準規格に則った、小規模医療機関向けの標準型クラウド電子カルテの開発
・「診療報酬改定DX」
現在、ベンダ毎に開発している診療報酬算定・患者負担金計算機能を共通算定モジュールとすることによる、診療報酬改定時の開発業務の効率化
共通算定マスタ整備・電子点数表改善等と併せて、診療報酬改定時の医療機関のシステム改修コスト負担・対応業務負担の軽減を図る
全国医療情報プラットフォームとは
全国医療情報プラットフォームの将来像は図1の通りです。
データの発生源として医療保険者・医療機関の他、自治体・介護事業者が加わっています。また、収集する情報として電子カルテ情報が追加される等、一人の患者の情報を、より網羅的に収集可能な仕組みとなっています。
収集した情報は、データ発生源でもある医療機関・自治体・介護事業者が、必要に応じて必要な情報を利活用可能になることが想定されています。また、患者自身が自身の情報にアクセス可能になる他、同意の下でPHR事業者に自身のデータを提供可能となることが想定されています。
上記によって得られるメリットを、患者・医療機関のケース各々で纏めると次の通りとなります。
患者
- 患者自身が、自らの健康や治療状況を正確に把握することが困難であった状況から、マイナポータル経由で自分の医療・介護情報にアクセス可能な状況への変革が見込まれます。これにより、健康意識の向上に繋がる効果が見込まれます
- 併せて、患者同意の下で自分の医療・介護情報をPHR事業者に提供することが可能となります。PHR事業者が、睡眠データや食事データ等ライフログデータと組み合わせることで、より健康増進に繋がるサービスの提供に繋がることが期待されます
医療機関
- 患者同意の下、他医療機関での患者情報・診療情報を参照可能となります。例えば問診票への記載が漏れていたアレルギー情報を医師が把握することで、初診患者であっても安全な処置・投薬が可能になる等、医療安全の向上に繋がります
- これまで紙やDVD等でやり取りすることが多かった診療情報提供書等の医療文書の電子的なやり取りが可能になります。これにより、提供元での印刷・メディア作成等の作業、提供先での取込み・転記作業の削減に繋がる他、患者による搬送中の紛失等のリスク低減が見込めます
※上記何れも、患者同意の必要性等の理由で、利用にはオンライン資格確認等システムの導入が前提となっている点、留意が必要です
医療DXの推進に関する工程表について
では、先述の全国医療情報プラットフォームの実現時期はどのようになっているのでしょうか。2023年6月2日に、内閣官房により「医療DXの推進に関する工程表」が公開され、全国医療情報プラットフォームを含む医療DX全体のロードマップが示されました。
各医療機関での対応が必要となる、主たる取組みをピックアップして纏めると以下の通りとなります。
電子処方箋
2023年1月より本稼働となった電子処方箋は、周知広報や電子署名に係る対応を経て、2025年3月までに、オンライン資格確認を導入した概ねすべての医療機関・薬局に導入することを目指すこととされています。
電子カルテ情報共有サービス(仮称)
所謂「3文書(診療情報提供書・退院時サマリー・健診結果報告書)6情報(傷病名・アレルギー情報・感染症情報・薬剤禁忌情報・検査情報・処方情報)」を、医療機関・薬局間で交換する仕組みです。2024年度中に、電子カルテ情報の標準化を実現した医療機関等から順次運用を開始することとされています。また、その開始に向けて、電子カルテ導入済みの医療機関に対して標準規格対応に係るシステム改修や更新を推進することも、併せて触れられています。
電子カルテ情報の標準化等
先述の3文書6情報に加えて、2023年度に透析情報及びアレルギーの原因物質コード情報、2024年度に蘇生処置等、及び歯科・看護等領域の関連情報について、各々標準規格化を行うこととされています。併せて、救急時に医療機関で患者の必要な医療情報が速やかに閲覧できる仕組みの整備を2024年度中に行うこととされています。
標準型電子カルテ
標準規格に準拠したクラウドベースの電子カルテについて、2024年度中に一部医療機関での試行的実施を目指すこととされています。診療報酬改定 DXとの連携等も検討しつつ、遅くとも 2030年には概ねすべての医療機関(現在未導入の医療機関含む)で、必要な患者の医療情報を共有するための電子カルテの導入を目指すこととされています。
おわりに ~医療機関に求められること~
ここまで、全国医療情報プラットフォームの目指す方向性やその効果、今後の工程について解説してきました。2023年度中から開発を開始する予定の全国医療情報プラットフォームは、徐々に機能を拡大しながら、患者のみならず、医療機関の皆さまの業務改善へ寄与することが想定されるものとなっています。
但し、当該取組みが効果を発揮するためには、何よりも多くの医療機関等が全国医療情報プラットフォームを利用することが必須となります。そして、各医療機関等で全国医療情報プラットフォームを利用するためには、電子カルテシステムの機能改修や、各種コード標準化の対応等、費用面・運用面で一定程度の負担を医療機関等が負う必要があるものと想定されます。
各医療機関で、これらの取組みに無理なく対応するため、先述の「医療DXの推進に関する工程表」と自施設の中長期的なシステム運用計画を突合し、各取組みの推進や予算化等のタイミングを予め検討しておくことを推奨します。特に、今後数年で電子カルテシステム等の更新を予定している場合、新システム稼働時点とその後に取組む医療DXの内容を整理し、費用や要員に係る計画を策定する必要があると考えます。また、工程表自体も、進捗により見直される可能性があるため、随時その動向をウォッチいただければと考えます。
医療機関のシステム運用において、政策動向の影響力がこれまでになく高まっている中、当法人も政策動向をも見据えた、医療のデジタル化やDX推進サービスの提供に力を入れております。このようなコンサルティングサービスの活用も含めて、本稿が皆さまに医療DXへの取組み方をご一考いただくきっかけとなれば幸いです。
執筆
有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 ヘルスケア
※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2023/06
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