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デロイト トーマツ ヘルスケアが考える未来医療

「バーチャルホスピタル× PFM 」編

2023年以降は、トラディショナルで労働集約的な医療現場や教育現場においても、画期的なデジタル技術のGo to marketが始まるエポックメーキングな時代に突入します。2022年までのメタバースは、ゲーム領域におけるコミュニティ形成やショッピング等が多くを占めていましたが、ついにバーチャルホスピタル(メタバース病院)が登場し、今後の展開に期待が高まっています。

医療・教育に変革をもたらすデジタル技術

2023年以降は、トラディショナルで労働集約的な医療現場や教育現場においても、画期的なデジタル技術のGo to marketが始まるエポックメーキングな時代に突入します。2022年までのメタバースは、ゲーム領域におけるコミュニティ形成やショッピング等が多くを占めていましたが、ついにバーチャルホスピタル(メタバース病院)が登場し、今後の展開に期待が高まっています。

ユーザーのリテラシー向上や法整備等、普及に向けた課題はありますが、VR、AR、MR等XR技術、メタバース技術といったデジタル空間とリアル空間を接続し、現実世界の制約を克服しうる技術が「通信規格のXG化」や「民間衛星通信サービスのエリア拡充」を受けて、真のデジタルインフラになる可能性があります。その結果、ユニバーサルサービスである「国民皆保険システム」や「義務教育システム」は飛躍的な質の変化をもたらすことが可能となり、新しい国・都市の再定義に新技術の活用が期待されています。

本稿では、医療現場で期待されるデジタル技術の利活用シーンについて触れつつ、バーチャルホスピタル構想・メタバース病院の方向性について紹介します。

1.医療現場で主にXR・メタバース等の活用が期待されるシーン

①治療・リハビリテーション・介護における治療やケア

  • VR等を活用した精神疾患の治療、Ⅰ型糖尿病等慢性疾患治療、認知症予防やリハビリテーション等における仮想空間上の体験を通じた治療やケアの提供。
  • また、患者が治療に先駆けて必要な検査を理解できるよう事前に体験の機会を提供、医療従事者のカンファレンス時の情報共有を効率化する。

②遠隔医療等による診療サポート

  • 遠隔診療における触覚等による診療サポート、遠隔手術におけるベテラン医師による術中ガイド、専門医との視野を共有する。

③病院経営の視点から見たPFM

  • PFM(Patient Flow Management)を仮想化し、患者と医療従事者双方に可視化することにより業務効率を高める。入院前から患者情報を収集し、ベッドコントロールや退院調整を仮想空間上でシミュレートし、効率的なマネジメントを実施する。

④医療従事者の「経験」の共有や医療教育現場の質向上

  • 2次元の映像によるトレーニングや実習ではなく、XRや仮想空間にて医療従事者が模擬的な条件を設定し、リアリティのある効果的な体験を可能にする。
  • ベテラン医療従事者の手技や経験を疑似体験し、学びの質を向上する。

⑤治療やリハビリ投入量のシミュレーション

  • デジタルツイン上のシミュレーションによる、長期フォロー時のリスクシミュレーション(服薬管理/検査値モニタリング)、リハビリテーション投入量のシミュレーション等、医療の質の改善やオペレーションを改善する。

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2.XR、メタバース技術等の拡大における課題

最新技術の医療領域への導入フェーズでは、ニーズに反して常に慎重な反応にさらされます。現時点ではいくつかの課題が指摘されています。

  • HMD(ヘッドマウントディスプレイ)等機材の普及率、
  • セキュリティの確保、
  • 患者リテラシーの向上、
  • 法整備 等

諸外国政府はヘルスケア領域を含めたメタバース技術の産業利用促進に向けて、既に基盤となる法規制の整備と産業支援策の両面から様々な施策を講じつつあり、市場拡大が見込まれる2030年に向け体制整備を進めています。

一方、日本では諸外国に一歩で遅れている状況ですが、まずはデジタル空間においても模倣品の販売や譲渡を禁止する不正競争防止法など知的財産関連の6本の改正法が2023年6月に参院本会議で可決、成立しており、今後はヘルスケア領域の議論が望まれます。

3.バーチャルホスピタル構想におけるメタバースの活用の方向性

●患者の予後予測

メタバース技術はデジタルツイン技術と合わせて活用の幅を広げることが期待されています。デジタルツイン技術とは、仮想空間上に現実に存在する空間を忠実に再現し、現実のデータを元に仮想空間でシミュレーションを行うことが可能な技術であり、結果は現実のビジネスや政策に反映することができるため、既に工場の生産ラインや都市開発等に活用されつつあります。デジタルツイン技術を活用した仮想ベース空間では、物理ベース空間では取り扱いが困難な事象を様々な条件設定でシミュレーションを行い、影響を予測できるため、蓄積された患者情報から、患者の予後を予測することも期待されています。

●Patient Flow Managementによる経営効率向上

バーチャルホスピタル構想ではメタバース/デジタルツイン技術を利用することで、患者の利便性や医療の質の向上だけではなく病院の経営改善への活用も期待できます。入院前から患者情報を収集・術前マネジメントを行うことで術前リスク管理を実施、ベッドコントロールや手術枠調整を最適化することや、入院前から後方連携の見通しを効率的に立てることでシームレスに連携させた退院調整が可能になります。術前の手術中止リスクを最低限に減らし、業務の効率化をしながら病床稼働率を上げていくことは経営的メリットに大きな影響をもたらします。

●医療計画・介護保険事業計画の策定プロセスへの活用

メタバース/デジタルツイン技術は行政が行う医療介護計画のプランニングにも応用できると考えられます。場所や時間の制約を超えた情報提供、サービス提供が可能となるため、地域全体の医療機能分化と診療連携を促進するコア技術として有効です。地域の医療介護データをデジタル空間で統合し、活用できる状態にすることによって、都道府県が2次医療圏単位で作成する医療計画と、市町村単位で作成する介護保険事業計画の連動性をとりやすくなります。特に少子超高齢化社会への対策が必要な地方において、医療計画・介護保険事業計画の策定プロセスにデジタル技術の積極的な活用が期待されるところです。

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本件に関するお問合せ先

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 
柚木 大介|シニアマネジャー
湯澤 あや、高 彬良(医師)

E-mail : dthc_surveyinfo@tohmatsu.co.jp

※上記の社名・役職は 2023/7時点のものとなります。
 

デロイト トーマツ ヘルスケア
今後のヘルスケア領域におけるデジタル技術やメタバース技術の普及に向けて
渡辺典之|パートナー
持続的な医療提供体制のためにデジタル技術は欠かせない存在ですが、利用促進には幾つかの課題を克服する必要があります。医療現場への最新技術の導入は常に慎重な姿勢で臨む必要がありますが、画期的な技術の採用検討に躊躇は禁物です。デロイト トーマツ ヘルスケアは、デジタルツイン、メタバース、XR等の最新技術を積極的に研究し、クライアントや業界全体の持続的な発展に貢献していきたいと考えます。

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