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医療法人における健康経営

人的資本経営、Well-being等の様々な経営手法が注目されているなか、今回は健康経営について紹介します

健康経営の概念は、従業員などのフィジカル・メンタル・社会的健康管理を経営的な視点で考え、そして戦略的に健康増進を実践することで、企業全体としての労働生産性向上や組織活性化、最終的には社会価値の向上への貢献が期待される経営戦略の一種になります。また、健康経営の概念は、取り組む企業の成長とともに進化しています。以降のセクションで健康経営の最新の取り組みについて紹介します。

健康経営とは?

健康経営とは、企業が従業員に対して健康増進施策を実行し、心身の健康により活力が向上し、生産性が向上し、最終的には業績に貢献する好循環の仕組みづくりのことを指しています。

過重労働による従業員の健康被害が社会問題となったことが健康経営のきっかけです。

従業員の病気や怪我が増えることで、企業の医療費負担が高騰し、経営へのインパクトが大きくなってきました。そのため、メンタルヘルス対策や健康診断の実施など、健康保持・増進・予防を目的とした施策を、従来からの医療保険者(健康保険組合等)に加え、企業も行うようになりました。そして、2013年に閣議決定された日本再興戦略で「健康寿命の延伸」が柱の一つとして掲げられたことが加速につながったと言われています。

経済産業省・厚生労働省が推進しており、健康経営に自発的に取り組む企業の顕彰制度を実施し、企業理念として定着するよう働きかけています。

健康経営の顕彰制度について

「健康経営」の顕彰制度は、2014年度に健康経営銘柄選定制度」、2018年度に「健康経営優良法人制度」を創設しており、大規模法人部門の上位層には「ホワイト500」、中小規模法人部門の上位層には「ブライト500」の冠を付加しています。健康経営に取り組んでいる企業は、当該顕彰制度に参加することで、自社の健康経営推進度を可視化し、社内外の各ステークホルダーである、従業員個人、人事部署、経営層、投資家、求職者、取引先、金融機関、さらには社会全体への影響を及ぼしています。

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出所:経済産業省『健康経営とは』ウエブサイト、2024年3月28日更新、「健康経営の推進について」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/240328kenkoukeieigaiyou.pdf

健康経営に係る政策動向について

健康経営に係る政策動向を解読すると、健康経営における発展の道は関連概念との融合に随伴していることが分かります。健康経営はESG経営や人的資本経営等、「人」をより重要視する社会観念の転換潮流に乗る最も有効的な手段の一種として捉えることができます。顕彰制度への参加、すなわち官が整備した公的評価を受けられる環境において、優良群に公的な認定評価が付与されることによって、企業へのインパクト投資のポテンシャルについてPR効果を拡大させていくことは、近年の投資市場において注目を浴びている「人的資本経営」や「Well-being経営」への通り道となっています。

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出所:経済産業省『健康経営とは』ウエブサイト、2024年3月28日更新、「健康経営の推進について」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/240328kenkoukeieigaiyou.pdf

医療法人における健康経営の進捗について

健康経営顕彰制度への参加企業数は年々増加している状況のなか、医療法人、社会福祉法人、健保組合の参加社数は令和元年度から令和3年度まで増加し続け、令和4年度では少し減少したものの、令和5年度では過去最大の参加数に達しています。

令和5年度健康経営顕彰制度規模別参加状況

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データソース:健康経営度調査結果集計データ(平成26年度~令和5年度)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkokeiei_data.html
 

顕彰制度に参加している大規模医療法人の認定評価取得状況を分析すると、ほかの業種と比べて健康経営度調査評価の点数が低いことが分かります。そのなかでも、側面3「制度・施策実行」の偏差値が全業種平均より2.9点下回っていることから、健康経営の各分野における施策の全面性に欠如している現状が読み取れます。

令和5年度健康経営度調査評価側面別得点比較(大規模部門)

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データソース:経済産業省 『健康経営度調査結果集計データ』(平成26年度~令和5年度)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkokeiei_data.html
 

また、総合評価得点を階層別にみると、大規模部門の健康経営度調査に参加している医療法人・社会福祉法人・健保組合は中得点層(総合評価得点上位40~60%)と中・下得点層(総合評価得点上位60~80%)に半分程度集中していて、中・上得点層が不足しているが分かります。他業種における大規模主体の健康経営推進参入はほぼ飽和しているのに対し、当該業界の参入から評価の底上げが問題になります。

令和4年度健康経営度調査評価結果別分布比較(大規模部門)

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データソース:健康経営優良法人(中小規模法人部門)申請書集計データ(令和元年度~令和5年度)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkokeiei_data.html
 

中小規模法人部門の医療法人の優良認定率は2019年度から2023年度まで年々上昇しており、2024年度の参加法人は38社に増加し、優良認定率は1.2%下降しました。また、中小規模部門の最優秀群である「ブライト500」の認定率は2020年度制度創設以来、年々低下していることから、業界全体としての概念関心度と取組度合いが薄れていることが分かります。

中小規模法人部門優良法人認定率

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データソース:健康経営優良法人(中小規模法人部門)申請書集計データ(令和元年度~令和5年度)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkokeiei_data.html
 

健康経営度調査評価の結果に基づいた上記の現状分析によると、医療法人業界全体における課題は「健康経営」への取り組みの本気度が業界全体として停滞していることが分かります。従業員の健康状態の可視化とその結果に対する重視度、さらには現状改善に係る健康・福利厚生施策の手厚さが業界特質であるにもかかわらず、人事施策の1つとして「健康経営」の顕彰制度を十分活用できていないことが懸念点です。既存資源が十分活用されていない点が最大なボトルネックであるため、健康経営推進に向けた業界ソリューションとしては、健康経営概念に対する関心度の引上げ、働き方改革やコラボヘルス等の関連概念に係る取組みを健康経営のシステムに落とし込む、つまり「自分事化」が必要になります。

医療法人における健康経営の導入まで

医療業界の抱える最も深刻な課題、人手不足の原因としては、少子高齢化による労働力の減少や、育児や介護、治療と仕事の両立の困難によるキャリアの中断などが挙げられます。医師や看護師の人手不足による現場における業務負担の増加、またそれによる働く環境の悪化、そして更には離職という悪循環に至る現状に対して、「健康経営」の導入は医療・看護職の離職を食い止める一つの策として捉えられます。

コラボヘルスや働き方改革、Well-being経営等における取組みを「健康経営」に適応させることからスタートする医療法人の健康経営導入は、人事顕彰制度によるPR効果を実感させることがきっかけづくりになります。そこから既存の施策を健康経営の分野に適応させ、さらには健康経営の文脈に沿って「自分事化」させていくように、経営者の無関心から関心、関心から行動までの変容段階が本気度を引き上げていくプロセスになっていきます。

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健康経営のPDCAサイクル構築について

健康経営導入のファーストステップとしては、PDCAサイクル構築の計画を立てることです。まずは経営者・担当者が健康経営に係る概念を理解したうえで、健康経営宣言を策定し、社内外への普及啓発を行います。その健康経営宣言に沿った実行計画を策定し、健康施策の実行、モニタリングを行います。モニタリングでは、ストラクチャー、プロセス、アウトカム、アウトプットを測定し目標値との乖離が生じている場合は、改善プラン立案、実行します。年度単位で、モニタリングした結果に基づく次期計画へ繋がるPDCAサイクルが基本となります。

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健康経営を的確に推進するためには、現状を把握し、実施や結果をモニタリングする仕組み、そして、健康経営を取組ことによって得られる効果が必要です。健康経営推進の仕組みづくりに際して、現状の従業員が抱える健康「課題」、健康経営の仕組みや体制などの「ストラクチャー」、健康施策を実施した結果の「アウトプット」、そのアウトプットの測定等の「モニタリング」の仕組み、健康施策を通じて得られた効果などの「アウトカム」の5つの視点が必要です。

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健康経営自己診断ツールについて

本稿ではデロイト トーマツが考えている簡易版の健康経営自己診断ツールを紹介します。以下のチェックツールは経済産業省の健康経営度調査票、健康経営推進のPDCAサイクルに基づき、「健康経営の明文化」「経営者の理解度」「部隊の専門度」「健康増進・職場活性化」「両立支援・女性活躍」「効果検証」の6要素から構成しております。健康経営の取組状況を把握する、自己診断ツールを活用していただくことをお勧めします。

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本稿に関するお問合せ先:

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ヘルスケア

竹内 友之|パートナー
折本 敦子グレイス|ディレクター
楊 桜博|コンサルタント

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。2024/6

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