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ヘルスケアスタートアップの現状と課題解決に向けた取組の検討

政府はスタートアップ5か年計画を定め、スタートアップへの投資を今後5年間で1兆円行うという目標を掲げるなど、スタートアップ政策を推進している。その中でも、特にヘルスケア産業の市場規模は増加傾向にあり、ヘルスケアスタートアップの一層の活躍が今後期待される。これらを踏まえ、ヘルスケアの規制対応等の特異性に対応した実効性のあるスタートアップ支援策やエコシステム構築に向け、いかなる施策を講じていくべきか、ヘルスケアスタートアップの現状を示しつつ検討したい。

はじめに

政府はスタートアップ5か年計画を定め、スタートアップへの投資を今後5年間で1 兆円行うという目標を掲げるなど、スタートアップ政策を推進している。その中でも、特にヘルスケア産業の市場規模は増加傾向にあり、2025年時点の市場規模は約33兆円と、2020年度比で5兆円増加することが見込まれている。さらに、近年、デジタル技術の浸透、ヘルスケア関連企業の水平分業体制の導入により、ヘルスケアスタートアップの一層の活躍が今後期待される。

これらを踏まえ、ヘルスケアの規制対応等の特殊性に対応した実効性のあるスタートアップ支援策やエコシステム構築に向けた戦略が求められる。今後、いかなる施策を講じていくべきか、ヘルスケアスタートアップの現状を示しつつ検討したい。

 

ヘルスケアスタートアップの定義

業種・領域観点に基づき4つの類型により「広義のヘルスケア」の範囲を定め、そのうち製薬・再生医療、機器、病院・クリニック業務支援領域以外を「狭義のヘルスケア」として整理し、「狭義のヘルスケア」に該当するスタートアップをヘルスケアスタートアップと定義した。また、「広義のヘルスケア」に該当するスタートアップを医療系スタートアップと定義した。

本稿においては、ヘルスケアスタートアップをフォーカスすべき対象とし、医療系スタートアップに含まれるその他類型は、比較対象の位置づけとする。

ヘルスケアスタートアップの現状

ヘルスケアスタートアップは他領域と比べて裾野が広く、かつ、参入障壁が相対的に低いことから、直近の10年で新規起業企業件数は大幅に増加しており、製薬・再生医療、機器、病院・クリニック業務支援と比較しても急速な増加傾向が見られる。

国内における医療系スタートアップの総調達額と調達社数は、コロナ禍の2021年に大きく落ち込んだが、総調達額は2022年に最高額となっている。

一方で、医療系スタートアップの資金調達額をレンジ別に見た場合、ヘルスケアスタートアップの資金調達額は5億円未満の企業が半数以上(約74%)を占め、そのうち1億円未満の少額調達企業が39%と最も多くなっている。ヘルスケアスタートアップにおいては、創業初期に資金調達に成功するも、その後計画どおりの成長が達成できず、後続の資金調達に苦戦している可能性がある。

ヘルスケアスタートアップのEXIT企業においては、その約3分の2がM&AによるEXITとなっている。その他の類型と比較しても、自社単独でIPOを目指すのではなく、成長段階の途中で大企業の参加に入ることが経済合理的である、という経営判断が下されている可能性がある。

また、様々な業種の大企業がヘルスケア領域に参入しており、新規市場参入や事業強化の有効な手段としてM&Aを位置づけ、医療系スタートアップの取り込みを図っている。ヘルスケアスタートアップの買収側企業の業種は、サービス業・卸売業・小売業や情報・通信業等が多くなっている。

ヘルスケアスタートアップのIPO時時価総額は、病院・クリニック業務支援の企業と同様に、時価総額が100億円以下の企業割合が大きく、機器や製薬・再生医療と比較して規模が小さくなっている。

ヘルスケアスタートアップの重点課題と課題解決に向けた打ち手案

ここまでに記載したヘルスケアスタートアップの現状を踏まえ、以下の4つの重点課題を設定した。創業期には外部連携によるプロダクト開発・エビデンス取得が、成長期には適切なプレイヤーと連携した販路開拓が、ヘルスケアスタートアップをスケールアップするうえで重要な論点になると考える。

① 現場の課題やニーズをとらえたプロダクト開発

  • 現場(想定顧客)の課題を捉え、それを解決できるプロダクトを開発するとともに、プロダクトの効果を示す有効なエビデンスを取得する

② 効果的なスケールアップ

  • プロダクト完成後の市場開拓を、自社及び販売パートナー連携を通じて、効果的に進め、売上高を成長させる

③ 国内大企業によるM&Aの促進

  • スタートアップの成長にとって、大企業の保有アセットの活用が有効である場合には、国内大企業によるスタートアップのM&Aを促進する

④ グローバル展開の促進

  • 国内市場等を一定獲得したスタートアップについては、その先更なる成長を目指すために、より市場規模が大きなグローバル展開を促進する

しかし、現状は、ヘルスケアスタートアップが自助努力によって産学官のステークホルダーとの連携することでスケールアップしているのが実態であり、創業期・成長期といった各フェーズにおいて、医療機関、投資家、大企業、行政機関及び研究機関等といった様々なステークホルダーと積極的に連携を行い、各段階における経営課題を解決することでスケールアップに成功するケースが少ない状況である。

そうした実態を踏まえ、ヘルスケアスタートアップが、経営課題の解決のために適切な関係者と交流・連携ができるエコシステムを形成するとともに、更なる成長を遂げるため機会の提供を政府機関が率先して取り組む必要がある。

また、創業期には「アイデア着想や実証の場としての病院の提供」や「ニーズをとらえた最適なマッチング機会の提供」が、成長期には「海外市場へアクセスするための接点の提供」や「アクセラプログラム等のコミュニティの提供」がなされるなど、成長の類型や段階に応じて生じる経営課題を解決に導く適切なエコシステムが、ヘルスケアスタートアップエコシステムの目指すべき姿であり、4つの重点課題の解決に寄与するものと考える。

以上がヘルスケアスタートアップの現状、現状を踏まえた4つの重点課題とその課題解決に向けた打ち手案になる。ヘルスケア市場の拡大が有望視される中、ヘルスケアスタートアップがスケールアップに成功するためには、ヘルスケアの規制対応等の特異性に対応した実効性のあるスタートアップ支援施策及びエコシステム構築が求められる。

執筆

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ヘルスケア

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2024/9

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