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医療機関におけるスマートフォン導入

医療機関におけるスマートフォンの導入は、PHSの代替としてだけでなく、業務効率の向上やコミュニケーションの円滑化に繋がります。スマートフォンの活用事例や、導入検討の進め方についてご説明します。

スマートフォンの導入が検討される背景

2023年3月末の公衆PHSの廃止から1年以上が経過し、徐々にPHS端末の入手が困難になってきていることから、医療機関内での連絡手段としてスマートフォンの導入を検討されている医療機関が多くあるのではないでしょうか。また、医療現場の人手不足の深刻化や、医師をはじめとする医療現場の働き方改革に向けた動きを受け、PHSの代替としてだけでなく、業務効率化やDXの入り口としてスマートフォン活用への期待感が高まっています。一方で、スマートフォンの導入で何ができるのか、導入に向けて何から始めたらよいのかがわからないという声も多く聞かれます。

本稿では、スマートフォンを導入することで実現できること、導入の進め方、留意事項についてご説明します。

 

スマートフォン導入で実現できること

まず、各システム会社から展開されているソリューションの一部機能の内容と、想定される利用シーンについてご紹介します。

<コミュニケーション機能>

■音声通話

PHSに代わる音声での連絡手段となります。スマートフォンでは、クラウドを利用した電話帳の一括管理・共有機能もあり、内線表から調べて電話をかけたり、各自が電話帳に登録したりといった作業の手間を省くことも可能です。

■チャット

チャット機能を利用することが可能です。チャット機能を利用することで、受信側のタイミングでの伝達事項の確認、複数人への一斉連絡や既読確認、写真の共有等が実施可能です。また、外来診察中の医師に検査結果を至急確認してもらう、救急の受け入れ可否について医師に一斉送信して確認する、口頭では伝え難い状況の伝達(傷口の状態等を動画や写真で共有)等、音声通話だけでは困難だったコミュニケーションが可能となり、迅速で正確な情報伝達により、意思決定スピードが上がり、職員のストレス軽減や患者サービスの向上にも繋がります。

■Web会議

PC端末がない状況でもWeb会議が可能です。医療機関では、職員一人一台PC端末が支給されておらず、会議を対面で実施することが必須となることがありますが、スマートフォンの導入に伴い、会議室が確保できない状況でも、また、感染症の感染リスクを気にすることなく、カンファレンス等の会議をオンラインで実施することが可能です。

<医療情報連携機能>

■ナースコール連携

従来のPHSでのナースコール連携同様、スマートフォンでもナースコールの受信が可能です。電子カルテとの連携により患者氏名、部屋番号を表示し、病室に設置されているカメラとの連携により、ベッドサイドに行く前に患者の様子を確認することもできます。

■電子カルテ・PACS連携

電子カルテやPACSと連携し、カルテ情報や検査結果画像の参照が可能となります。ノートPCよりも手軽に持ち運びができ、1人の患者に複数人のスタッフで診療にあたる際にそれぞれ手持ちのスマートフォンで効率的に業務が行えることから、検温や血圧測定の記録、バーコード認証による注射や処方の実施等、ベッドサイドでの記録・実施業務にも活用されています。

■音声入力

音声入力の機能の利用が可能です。医療用語も適切にテキスト変換が行うことができ、記録作成の業務効率化の効果が期待されます。看護記録に利用されている事例が大半ですが、メモ代わりに使える機能もあり、リハビリスタッフが訓練の合間にメモを作成し記録に反映させる、インフォームドコンセントの記録を音声と併せてテキストデータでも記録する等、様々な職種の業務効率化につながる活用が期待できます。

<その他>

■端末管理

管理者によるスマートフォンの一括管理を行うことが可能です。アプリケーション・設定情報の配布、アプリケーションのダウンロード制限、役割・部門毎の利用制限等を行うことができ、端末管理の効率化を図ることが可能です。また、紛失時の位置情報取得や、遠隔ロックの機能もあり、セキュリティ対策を強化することが可能です。

他にも、薬剤検索、勤怠管理、外国語翻訳等、様々な機能を実装させることができ、機能の組み合わせのバリエーションは様々です。

また、上記のコミュニケーションツールとしての利用や、医療情報連携は、院内の利用だけではなく、院外での利用にも範囲を広げることが可能です。外出先の職員と内線通話やチャットによるコミュニケーションが可能で、外出先からの電子カルテの参照も行うことができ、一刻を争う救急の場合でも迅速に情報共有が可能です。また、PACS連携は、スマートフォンだけでなくタブレット端末も導入し、遠隔読影にも活用されています。

 

スマートフォン導入に向けた考え方

スマートフォン導入の流れは、「一括導入」、「段階的な導入」の主に2つのパターンが考えられます。どちらの方法で導入を進めていくかは、現状の課題やスケジュール、予算を踏まえて決定します。

1年以上のスケジュールと十分な予算が確保できる見込みがあり、ナースコールのハードウェア更新時期と電子カルテの更新時期を同時期に予定されている場合や、スマートフォンの導入をDX推進の目玉として掲げたいという目的がある場合等は、一括導入が考えられます。一つのプロジェクトとしてスケジュールを設定することで、各種規程の整備も一度に行えて、段階的な導入に比べて煩雑さが軽減されます。一気に目に見えて運用が変わることで、エンドユーザーが業務改善をより実感し易くなるメリットもあります。一方で、一度に運用が大きく変わることによる業務負担もあるため、導入タイミングや運用設計において考慮が必要です。また、多くの機能を実装することでのセキュリティ対策や、インフラ整備計画の検討が長期化するケースもあり、十分なスケジュールの確保を推奨します。

段階的な導入が想定されるケースとして、PHS端末の故障件数が増えていて院内通話端末としてスマートフォンの導入が急務であるという場合や、電子カルテのデスクトップPC・ノートPCに加えて持ち運び易いスマートフォンを使用したいという場合、一括導入の希望はあるものの予算確保が難しいという場合等が挙げられます。段階的に導入することで、検討開始から初回導入まで短期間で進めることができ、即効性の高い業務効率化が期待できます。また、コストが分散されるため、予算承認等のハードルが低くなることが考えられます。しかし、都度規程の見直しや、都度端末設定作業を行うといった管理面での業務が増えることが想定されます。先行導入の範囲により、スマートフォンとPHSを2台持つ運用をする期間もあり、運用が煩雑になる懸念もあります。

スムーズに導入を進めるため、導入目的に合った方針を決定し、しっかりと情報収集をした上で計画を立てることが重要です。

 

その他留意点

ここまで、ソフトウェア、ハードウェアの調達、それに伴うインフラや規程の整備について述べてきましたが、外部に持ち出す運用も想定した端末である点や、機微な情報をやり取りするという特性上、システム的なセキュリティ対策に加えて、エンドユーザーのセキュリティ意識も重要である点にご留意ください。また、院外で連絡を受けて業務を行った場合の労務管理の方法についても取り決める必要があります。

利便性の向上に伴い、適正な利用とそのための認識の統一やルール整備が求められます。

 

おわりに

デロイト トーマツ グループでは、電子カルテをはじめとする病院情報システム導入の支援の多くの実績があり、モバイル端末の導入のご支援も可能です。PHSからの切り替えを検討しているもののどのように進めたらよいかわからない、業務の効率化が急務である等のお悩みがありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。

執筆

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ヘルスケア

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2024/9

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