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調査レポート
こども若者シェルターの充実に向けた取り組み
国が取り組む、困難な状況にあるこども・若者への新たな居場所や支援とは?
保護者からの虐待等により困難な状況にあるこども・若者への新たな居場所として、我が国では「こども若者シェルター」の推進に向けた取組が進んでいます。そのような折、当法人は、令和5年度子ども子育て支援推進調査研究事業として「こども・若者の居場所の確保に関する実態把握のための調査研究」を実施しました。この記事では、当該調査研究での学びをもとに、「こども若者シェルター」に関する動向を紹介します。
安全な居場所のないこども・若者たち
近年、都市部では「トー横キッズ」「グリ下キッズ」と呼ばれるこども・若者たちが、夜の街をさまよう姿が問題視されています。彼らは家庭での虐待や不和といったさまざまな理由から逃れ、夜の繁華街などを一時的な避難所として選びます。しかし、こうしたこども・若者が犯罪やトラブルに巻き込まれるケースが増えており、たびたびメディアでも報道されてきました。
このような状況は、「トー横キッズ」や「グリ下キッズ」だけに限りません。家庭内の虐待や問題によって居場所を失い、中には、車中泊やインターネットカフェ、路上で過ごすこども・若者もいます。この背景には、こども・若者が一時保護や施設入所などを望まない、あるいは年齢的に支援の対象外となってしまうため安全な居場所が確保されないといった現状があります。
このような困難な状況にあるこども・若者たちは、危険な状況に置かれ、特に、性犯罪や暴力などの被害に巻き込まれるリスクは非常に高くなります。こども・若者たちが家庭に戻ることができない場合、社会からから孤立し、行き場を失うという悪循環が生じます。必要な支援が届かないまま、ますます深刻な状況に陥ることも懸念され、こども・若者が昼夜を問わず安心して過ごせる居場所を確保することが喫緊の課題となっています。
困難な状況にあるこども・若者の居場所となる民間シェルター
こうした困難な状況に置かれているこども・若者たちの支えとなってきたのが、民間シェルターです。民間シェルターは、家庭内の虐待や問題から逃れてきたこども・若者を受け入れ、安全な居住環境の提供を通じて、彼らが安心して生活できる場となります。このように、こども・若者の居場所として重要な役割を担う民間シェルターでは、多岐にわたる支援が実施されています。以下に、民間シェルターで実施されている具体的な支援を、令和5年度子ども子育て支援推進調査研究事業「こども・若者の居場所の確保に関する実態把握のための調査研究」において実施した調査結果(以下、「令和5年度調査研究」という。)から、一部を紹介します。
<民間シェルターで実施されている支援(代表的なもの)>
1. 相談支援やカウンセリング:
民間シェルターでは、こどもや若者が安心して過ごせるよう、心理的なケアを大切にしています。日頃からの相談支援はもとより、家庭での虐待などを経験した場合には、心に深い傷を抱えている場合も多く、専門的なサポートが求められるケースがあります。シェルターの中には、臨床心理士やカウンセラーを配置して、相談やカウンセリングを実施することもあります。
2. 身の回りの生活支援:
こどもや若者が日常生活に必要なスキルを身につけるための支援を行っています。自立した生活を送るためには、衣食住の提供に加えて、家事や買い物の仕方といった基本的な生活スキルの習得が欠かせません。シェルターのスタッフは、こども・若者と一緒に日常の活動を行い、そうしたスキルを身に着けるサポートをする場合もあります。
3. 学習支援・就学支援:
学校に通うことができない状況にあるこども・若者に対しては、スタッフが学習支援を実施したり、学校との連絡調整を行ったりといった支援が提供されています。また、進学希望のこども・若者に対し、進路相談や奨学金申請といった就学のためのサポートも実施しています。
4. 就労支援:
求人や職を探すためのハローワークに同行するといった、若者が収入を得て社会に出るためのサポートを実施します。シェルターの中には、就労支援事業者機構と提携して支援を実施したり、職業訓練所を併設していたり、就労先の紹介を行ったりする施設もあります。
5. 通院や行政手続などの同行支援:
病院や行政機関への同行支援を実施しています。健康管理や医療支援が必要な場合、スタッフが病院へ同行し、適切な医療を受けられるよう支援しています。また、行政手続に不慣れな若者に対しては、必要な手続のサポートを行い、彼らが公的支援を受けられるようにするなど、実生活でのサポートも行われています。
6. 退所後の支援:
シェルターでは、退所後もこども・若者が安心して生活を続けられるように、アフターケアにも力を入れるところが多いです。退所後の生活で不安を抱えるこども・若者に対して、定期的な相談の機会を提供し、再び困難な状況になることがないようサポートしています。
民間シェルターでは、上記のようなこども・若者を支えるための支援やサービスを組み合わせて、一人ひとりのこども・若者のニーズに従って柔軟にサポートを実施しています。
令和5年度調査研究において実施したアンケート調査やヒアリング調査において、実際に民間シェルターの支援を受けたこども・若者からは、「最低限の衣食住が保障されて安心できた」「安全な場所で過ごせてよかった」「自分の話を真剣に聞いてもらえて心が軽くなった」「相談する相手がいて助かった」といった声が多く寄せられています。これらの声は、民間シェルターが単なる避難場所であるだけでなく、こども・若者にとって心の拠り所であり、こども・若者の成長と自立を支える重要な存在であることを示しています。
民間シェルターが抱える課題とは?
困難な状況にあるこども・若者にとって、重要な役割を担う民間シェルターですが、運営上の課題も確認されています。令和5年度調査研究の調査結果を参考に、以下のとおり民間シェルターにおける運営上の諸課題をまとめました。
<民間シェルターの運営上の課題>
1. 資金面の課題:
多くの民間シェルターは、寄付や公的助成に頼る形で運営されており、安定した資金の確保が難しい状況にあります。シェルターの中には、財源不足に悩み、運営の継続やサービスの質に影響が出ているところもあります。財政的な不安定さが、スタッフの雇用やプログラムの実施を制約し、長期的な支援の継続を難しくしています。
2. 人材確保の課題:
民間シェルターでは、困難な状況にあるこども・若者を支援するために必要な専門性のあるスタッフが不足しています。特に臨床心理士やソーシャルワーカーなどの専門職が十分に確保できていない場合があります。低賃金や過酷な労働条件が離職率を高め、スタッフの安定した確保が難しいという課題もあります。
3. 施設(物件)の問題:
シェルター運営に適した施設(物件)の確保について、広さや設備を備えた施設環境や物件確保が資金との兼ね合いで厳しい場合があります。シェルター利用者に快適で安全な居住空間の提供するため、施設の改善の必要性を感じているものの、移転やリフォームのためのコストが大きいことが課題となり、対応に困難を抱えているシェルターもあります。
4. 民間シェルター内での制限やルールにおける課題:
加害者による追跡の懸念などから、こども・若者の安全を確保するために設けた制限やルール(例えば、外出制限や通信機器の持ち込みの禁止など)が、逆にシェルター利用者のストレスになることがあります。極力ルールを最低限に留め、こども・若者のニーズに沿えるよう、柔軟な対応をしているシェルターもあれば、制限がある中でも快適に過ごせるよう工夫しているシェルターもあります。
5. 支援内容における課題:
民間シェルターで提供される支援は、日々の相談支援や日常生活の支援、退所に向けての支援や調整など多岐にわたり、入所中の支援に限らず、退所後のフォローアップやアフターケアができる長期的な支援体制を必要としています。また、シェルター利用者のこども・若者のニーズは多様です。こうした様々な支援内容に対応できるためのリソースを民間シェルターが用意できるよう、制度面や資金面でのシェルターへのサポートが求められています。
6. 周知・啓発に関する課題:
民間シェルターの存在やシェルターにつながる方法についての情報が、こども・若者に十分に行き届いない場合があります。令和5年度調査研究のこども・若者へのインタビューにおいては、シェルターの入所に至らない理由として「(シェルターに)不安や怖いといったイメージがある。」との声が寄せられました。また、シェルターの存在自体を知らず、必要な支援を受けられない状況にあるこども・若者の存在も調査研究内では指摘されており、シェルターの周知や広報活動の強化、また、地域に密着した支援ネットワークの拡充が課題となっています。
7. 制度上の課題:
民間シェルターの支援には、未成年者の保護や親権に関する法的な側面が密接に関係しています。親権者との調整や法的手続を適切に進めるための法的知識が必要であり、ケースの状況に応じて試行錯誤しながら対応している現状があります。また、18歳以上の若者への支援に関して、就学に係る支援が受けられないなどの制度上の問題もあり、現行の法制度の下で、こども・若者の状況や、ニーズを踏まえた適切な対応のあり方について、一定の整理が必要とされています。
令和5年度調査研究のこども・若者へのインタビューには、こども・若者が民間シェルターに求めるものとして、「シェルターでの生活における自由度」や「通信機器の利用」、「よりよい住環境」、「食事や住居の負担軽減」、「プライベートの確保」、「楽しみもある場所」などの声が寄せられました。こうしたこども・若者のニーズを民間シェルターは把握しているものの、上記の運営上の諸課題から、なかなか全てのニーズに対応することができず、民間シェルターが提供する支援・サービスとこども・若者のニーズとの間にギャップが生じている現状があります。
新たな居場所、「こども若者シェルター」の整備に向けて
民間シェルターの支援の現状や運営上の課題などを踏まえて、こども家庭庁は、虐待等で家庭等に居場所がないこども・若者がそのニーズにあわせて必要な支援を受けられ、宿泊もできる安全な居場所等を確保するため、令和6年度から「こども若者シェルター・相談支援事業」を創設し困難な状況にあるこどもや若者を支援するために「こども若者シェルター」の整備を進めています*1。
この取り組みの一環として、「こども若者シェルターに関する検討会」が設置されました。2025年3月までにこども若者シェルターの運用に関するガイドラインを策定するとして、現在議論が進められています*2。
この検討会では、家庭内の虐待や問題から逃れたこどもや若者が安全に過ごせる居場所を提供し、包括的な支援を行うための検討がなされています。また、現行の支援体制の評価が行われ、既存の民間シェルターで提供されている支援の質やその効果が分析されているほか、運営資金の確保方法、物理的な施設環境、スタッフの専門性など、多角的な視点から民間シェルターの運営状況を把握し、それらの改善点などについても議論されています*3。
このように、こども家庭庁は、こども・若者が安心して生活できる居場所の確保を目指し、将来的な自立を支える包括的な支援体制を構築しようとしています。「こども若者シェルター」の整備は、こどもや若者が安全に過ごせる新たな居場所の選択肢を提供する重要な施策です。この取組により、困難な状況にあるこども・若者への支援において重要な役割を担ってきた民間シェルターへの支援体制の充実が期待されますので、今後の動向にも注目していきたいと思います。
*1 参考:「こども若者シェルターに関する検討会」(こども家庭庁ウェブサイト)
(https://www.cfa.go.jp/councils/kodomo-shelter) 2024年9月4日閲覧
*2 参考:「第1回 こども若者シェルターに関する検討会【資料2】今後のスケジュールについて」(こども家庭庁ウェブサイト)2024年9月4日閲覧
*3 参考:「こども若者シェルターに関する検討会 議事録」(こども家庭庁ウェブサイト)2024年9月4日閲覧
執筆
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ヘルスケア
※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2024/9
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