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タイの医療市場の現状と将来性~医療制度の特徴と医療事情の動向~

ライフサイエンス・ヘルスケア 第1回

タイの医療市場の現状と将来性について、タイの医療制度、医薬品市場、医療機器市場の動向の観点から3回にわたって解説する。1回目の今回はタイの医療制度の特徴と医療事情の動向について紹介する。

Ⅰ. はじめに

東南アジアでは、人口やGDPなどが拡大していることに加え、国民所得も上昇しており、先進国と同水準の医療を求めるニーズが高まっている。中でも、医療水準に関してタイは東南アジアで最も発展している国のひとつとなっている。2000年以降、タイでは社会保障制度の改革による国民の医療環境の変化、医療ツーリズムによる外国人の医療ニーズの取り込みにより近年注目を集めている医療市場である。また、タイでは生活習慣の変化に伴い心疾患やガン患者が増加しており、最先端の医薬品、医療機器のニーズが高まっている。

このような背景において、欧米諸国や日本の医療関連企業は東南アジアの医療拠点になりうるタイ市場への参入を検討しており、東南アジアの医療ニーズの取り込み、現地製造による低コスト化、原材料・製品の現地調達による安定供給を狙っている。

そこで、タイの医療市場の現状と将来性について、タイの医療制度、医薬品市場、医療機器市場の動向の観点から3回にわたって解説する。1回目の今回はタイの医療制度の特徴と医療事情の動向について紹介する。

II.タイの医療制度の特徴

タイの人口は6,800万人ほどであるが、人口のおよそ32%が24歳以下である比較的若い国である。他方、2000年頃から65歳以上の人口比率が増加しており、日本を始めとする先進国と同様に高齢化が進み始め、2050年には人口の30%が65歳以上になると予測されている。1

医療制度の効率性は、平均寿命、医療費等から算出される指標によって表1のように示されているが、タイは34位(2015年)とドイツやトルコ、オーストリアと同水準であることが報告されている(日本は7位)。2

[表1] 医療制度の効率性順位 参照
 

1.社会保障制度3

タイの医療制度で特徴的な点として、社会保障制度が挙げられる。従来は1980年に施行された公務員医療給付制度のみしか存在せず、被保険者資格を有するのは公務員等のみで人口の約8%しかカバーされていなかった。その後、傷病等給付制度の施行(1991年)を経て、2002年に国民医療保障制度が施行され、被保険者資格のカバー率がおよそ60%も増加して75%に達した。これほど大きく増加した要因は、国民医療保障制度がそれまで社会保障制度が適用されていなかった農民や自営業者を任意加入の対象としたためである。この国民医療保障制度において利用できる医療機関は事前に登録した医療機関(救急医療は除く)のみでほとんどが公立病院であるが、本人負担は30バーツ(2016年4月時点で約93円、3.1円/バーツ換算)、低所得者は無料となっており、安価で医療サービスを受けることが可能となっている。
 

2.医療ツーリズム4 

もうひとつ特徴的な点は、医療ツーリズムの活用である。タイは医療ツーリズムの発祥の地とも言われており、2004年にタイ政府は「タイをアジアの医療拠点として開発する」という5ヵ年計画を策定し、医療ツーリズムを国家政策とするべく計画を打ち出している。この計画では(1)高度な医療サービス、(2)スパや古式マッサージなどホスピタリティ溢れるヘルスケアサービス、(3)タイのハーブ製品の3つの主要領域を推進するものであり、主として民間病院が提供する高水準医療の提供と魅力的な観光資源を組み合わせた計画になっている。タイでは、欧米やシンガポールなどよりも安価に治療を受けられることもあって、医療ツーリストの受入数は2001年の約60万人から2012年には約253万人に増加し、医療ツーリズムによる収益は127億バーツ(約406億円、3.2円/バーツ換算)と大きな外貨獲得源となっている。

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1 WHO「World Health Statistics 2015」
2 Bloomberg「2015 Most Efficient Health Care Ranking」
3 厚生労働省「東南アジア地域にみる厚生労働施策の概要と最近の動向」
4 自治体国際化協会「医療制度と医療ツーリズムに見るシンガポールの戦略」

[表1]医療制度の効率性順位

出所:Bloomberg’s 2015 Most Efficient Health Care ranking: Belarus 47th of 55より、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

III.タイの医療事情の動向

タイ国民の医療費は2014年に190億ドルに達し、2010年から2019年までの年平均成長率は7.8%と今後も増加していくことが予測されている。その理由は前述の通り高齢化が進むことがひとつであるが、それに加え、生活水準の向上に伴って主要死因および疾病構造が感染症疾患から心疾患や脳卒中、ガンといった生活習慣病に変化していることが挙げられる(表2)。5

一方で、患者数の多い病気は、依然として急性下痢症や不明熱、肺炎が上位となっており、都市部と農村部における医療事情の差が広がっていることが課題である。一人当たり医療費の年平均成長率(2010年~2019年)は7.5%と予測されているが、実際には都市部と農村部で医療の二極化が進行することが推察される。

[表2] タイにおける主要死因とその変化 参照

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5 EMIS (Euromoney)よりDTFA分析
6 WHO「Thailand : WHO statistical profile」

[表2]タイにおける主要死因とその変化

出所:WHO Statistical Profileより、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

IV.おわりに

タイの医療市場は、国民医療保障制度の施行、医療ツーリズムの推進という医療制度の点、高齢化社会の進行や生活習慣の変化という社会環境の変化、医療水準の向上という医療技術の点から、将来的に医薬品や医療機器のニーズが高まり、市場拡大することが予測される。東南アジアにおいて医療拠点になりうるタイの医療市場に参入することは、新たな収益源の獲得、コストダウンにつながる可能性を秘めていると考えられる。

本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする

※ 詳細情報をご要望の場合は別途お問い合わせください。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 
ライフサイエンス・ヘルスケア担当  浦川慶史

(2016.04.25)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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