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医療DXの推進に関する令和7年度予算案の概要
厚生労働省医政局より公表された令和7年度の予算案の概要について解説します。
1. はじめに
本号では、医療DXの推進に関する厚生労働省の令和7年度予算案の概要を整理したので、ご案内する。
医療DXとは、「保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報やデータを、全体最適された基盤(クラウドなど)を通して、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えること」と厚生労働省で定義*1されている。
上記から、医療DXに係る主なキーワードは、保健・医療等事業所間の連携、全国医療情報プラットフォーム、データの標準化などが挙げられる。
2. 医療DXに関するロードマップおよび施策の方向性について
出所:内閣官房 医療DX推進本部(第2回)「医療DXの推進に関する工程表〔全体像〕」(令和5年6月2日)
https://www.mhlw.go.jp/content/12600000/001163650.pdf
厚生労働省が発信しているロードマップ*2を確認すると、現状、全国医療情報プラットフォームの構築が本格化することにより、以下が国の施策の方向性になることがわかる。
- 自治体・医療機関/介護事業所間の連携
地域包括ケアや新型コロナウイルス感染症のような次期パンデミックの想定等を背景に、全国医療情報プラットフォームの仕組みを利用して、医療機関から自治体・保健所等への連携を効率化する仕組みを構築していくことが考えられる。具体的には、公費負担医療、地方単独医療費助成、予防接種・母子保健情報・介護・自治体健診・感染症届出の情報等を連携する。 - 電子カルテ情報の標準化
医療機関間の情報交換において必須となる医療機関(主に診療所)の電子化の底上げが重要になることから、標準化電子カルテの普及のための施策が計画されていくものと推察できる。なお、診療情報提供書や退院サマリなどはHL7 FHIR形式でやりとりされる見込み*2のため、今後、全国医療情報プラットフォームにデータを送信する標準的な形式はHL7 FHIR形式になると考えられる。
3. 令和7年度予算案の概要
令和7年度の厚生労働省予算案における重点事項として予算措置を行った三つのうちの柱のうち一つである「全世代型社会保障の実現に向けた保健・医療・介護の構築」において、「医療・介護におけるDX、地域医療・介護の基盤強化の推進等」の予算案は以下となっている。
医療DXの推進に関わる予算
医療・介護分野におけるDXの推進等 49億円(201億円)
当該予算の位置づけについては、医療・介護におけるDXの推進等により、生産性の向上を図るとともに、安心で質の高い医療・介護サービスの提供を図るものであり、また、高齢化の更なる進展や人口減少に対応するため、限りある資源を有効に活用しながら、質の高い効率的な医療・介護サービスの提供体制を確保するものとされている。
出所:令和7年度予算案の概要
https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/25syokanyosan/dl/01-01.pdf
厚生労働省医政局、医薬局、保健局等において医療DXに関わる予算案が提示されているが、ここでは医政局の予算案について主な事業を紹介する。
■医療機関におけるサイバーセキュリティ確保事業 予算:1,100百万円(新規)
外部ネットワークの安全性検証やオフライン・バックアップ体制の整備を支援する事業。
■医療分野におけるサイバーセキュリティ対策調査事業 予算:103百万円
ランサムウェア攻撃の高度化に対応するため、医療機関向けセキュリティ研修や初動支援体制の強化を図る事業。
■保健医療情報利活用推進関連事業 予算:531百万円
「全国医療情報プラットフォーム」の創設や電子カルテ情報の標準化、医療機関のサイバーセキュリティ対策を推進するための調査等を実施する事業
■全国医療情報プラットフォーム連携基盤調査事業 予算:200百万円(新規)
感染症サーベイランスシステムへの発生届提出のための仕様検討等を行う事業。
■高度医療情報普及推進事業 予算: 83百万円
電子カルテ等医療情報システムで使用する医療用語の標準マスターの整備と普及を推進する事業。また、医療機関が標準マスターを随時利用できるよう、体制の整備を実施。
■保健医療福祉分野の公開鍵基盤(HPKI)普及・啓発等事業 予算:43百万円
医療情報の共有に伴うリスクへの対応として、HPKIの普及と啓発を行う事業。医療関係者向け説明会の開催や認証局の運営支援を実施。
■医療機関等情報支援システム(G-MIS)保守運用等経費 予算:475百万円
G-MIS*3の長期運用と保守を行う事業。
4. おわりに
医療DXの推進に関して、令和7年度予算案に見る二つの特徴がある。
一つは、医療機関におけるサイバーセキュリティ対策である。新規に医療機関におけるサイバーセキュリティ確保事業が予算化されている背景には、近年、医療機関において外部からのサイバーアタックの増大、医療機関のネットワーク環境におけるクローズドモデルからネットワークモデルへの変換に伴う対策の重要性が高まっていることなどが挙げられる。
もう一つは、全国医療情報プラットフォームである。医療DXに関して今後様々なユースケースが想定されているところであるが、全国医療情報プラットフォーム連携基盤調査事業が予算化されていることから、データの2次利用などの利活用への期待が高まっている。
出所:第4回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム(令和5年8月30日)「全国医療情報プラットフォームの全体像(イメージ)」
https://www.mhlw.go.jp/content/12600000/001332014.pdf
今後も、医療DXの推進に向けた事業の進展を注視し、最新情報を配信する予定である。
*1 厚生労働省 「医療DXについて」「1. 医療DXの概要」(https://www.mhlw.go.jp/stf/iryoudx.html#1)より引用
*2 厚生労働省 健康・医療・介護情報利活用検討会 第22回 医療等情報利活用ワーキンググループ「電子カルテ情報共有サービスの概要」(令和6年6月10日)
*3 全国の医療機関(約38,000)から、病院の稼働状況、病床や医療スタッフの状況、受診者数、検査数、医療機器(人工呼吸器等)や医療資材(マスクや防護服等)の確保状況等を一元的に把握・支援するシステム
執筆
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ヘルスケア
※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2025/2
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