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業務委託最適化の処方箋

医療機関における業務委託活用のポイント

委託費用、あるいは委託内容そのものに対してのお悩みはありませんか。業務の質の向上や効率化を目的としていたはずなのに、いつのまにか単なる固定費で、しかもブラックボックス化した状態になっていませんか。業務委託は、適切に管理すれば有効な選択肢となる半面、金額が大きいにもかかわらず惰性で放置されているケースや、十分な検討無く委託化した結果、後になって現場に混乱が生じているケースも見られます。今回は、こうしたお悩みに役立つ処方箋をご紹介します。

業務委託により何を得られるのか

業務委託の内容を見直したり金額交渉をしたりといった所謂「効率化」の検討も重要ですが、そもそもなぜ業務委託の活用が有効なのか、なぜ業務委託は質と価格の両面で医療機関にメリットをもたらし得るのかを考えてみます。

医療機関から業務を受託する事業者(以下「委託事業者」という。)は、同種の業務を様々な医療機関から引き受けることにより当該業務の経験を蓄積します。経験が蓄積するとともに業務マニュアルやスタッフへのトレーニングプログラムが洗練され、業務の質的向上をもたらします。スタッフのスキル習熟に伴い所要人員数が逓減します。更に多数の医療機関から業務を受託することで業務量が安定し、一定数のスタッフを確保できます。これにより医療機関が自前で人材採用・育成する場合に比べて効率的な人材配置や補充が可能となり、状況によっては医療機関間の配置転換等も含めて対応することになります。

委託内容に物品調達が含まれる場合も同様に、多数の業務を受託することで調達時の価格を低減することや物品を他医療機関で活用すること等が可能となります。結果として調達の効率性が高まり、医療機関が個々に自前で調達する場合よりも安価で無駄のない調達が実現されます。

 

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このように、個々の医療機関は委託事業者のノウハウを活用することで高品質・低価格のサービスや安価な調達を実現できる可能性が高まります。なお、これを財務的に表現すると、サービスについては人件費が低下し委託費が増加します。同様に、固定資産の調達を委託事業者が行う場合には医療機関の減価償却費が低下し、物品の調達を委託事業者が行う場合には医療機関の材料費が低下します。委託による財務的な効果を見るためには、こうした他の勘定科目への影響を考慮する必要があります。

 

業務委託により何を失うのか

反対に、業務委託のデメリットは何でしょうか。ある業務を委託すると、医療機関としては人材の採用や育成をする必要がなくなると同時に、当該業務に関する知識やノウハウを内部構築できなくなることを意味します。一旦手放してしまうと、再び自前で職員採用や育成をするにはかなりの時間と労力を要します。清掃や警備といった医療機関経営にとっての周辺業務であればそれでも良いかもしれませんが、医事・検査等の極めて診療に近い業務や経営管理といった機能については、それらを外部化することが本当に自院のためになるのかどうか、慎重に検討しなければなりません。

また、永久の契約というのは有り得ませんので、いずれかの段階で必ず契約の満了が訪れます。その際、委託事業者の都合や、契約内容の折り合いがつかない等の事情により契約を更新しないこととなった場合、契約終了時点で直ちに次の委託事業者と契約するか自前での運営を可能にする等して業務継続を担保する必要があります。先ほどと同様に、これが医療機関経営にとって根幹をなす業務であればあるほど、業務の断絶が生じないようにしなければなりません。業務によっては、データの引継ぎや整合性の担保(患者情報や検査数値等)が必要な場合もありますので注意が必要です。

もう1点のデメリットとしては、調達業務が含まれている場合に顕著ですが、価格の透明性が低下しやすいということです。従来は自前で調達しているため何をいくら値引きして買ったかが全てわかりますが、調達を委託事業者に任せてしまうと、個別の調達金額について情報を得るのは難しくなります。業務委託を開始した当初は価格低減効果を実感できるものの、数年が経ち器材や物品が入れ替わるとともに、自前調達の場合に比べて本当に安く調達できているのか頭を悩ませるのは珍しくありません。

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なお、調達を委託事業者が行う場合、医療機関が選択できる器材や物品に制限が出ることがデメリットだという声を耳にしますが、正確には、委託事業者が約束する一定の金額の中では選択できない(つまり金額によっては選択できる)ということになります。一定の範囲内で選択するという条件で費用低下を実現するのですから、選択肢が狭いことをデメリットというのはやや的外れです。

 

なぜ業務委託を最適化できないのか

本稿の冒頭より、業務委託費の削減ではなく業務委託の最適化としています。これまでに述べた通り、業務委託はサービスの質的向上を適正な価格で実現するための手段であり、単に安ければよいという考え方とは相容れないためです。適切な業務を適切な金額で委託することで、医療機関及び委託事業者、ひいては患者等の利用者までもがWIN-WINの関係になることが理想です。

また、必ずしも委託により外部化することが良いのではなく、業務によっては内製化することで自院の資産にするほうが有効です。以下では、その選択を慎重に行った後、業務委託を最適化するにはどのようなステップをとる必要があるかを解説します。

基本的な課題認識は、業務委託が数年にわたり継続している場合に生じる様々な不透明さです。とはいえ委託事業者が悪いことをしているという意味ではありません。医療機関の職員も委託事業者の職員も真剣に自身の業務を遂行しているため、日々起こる様々な課題に対して積極的・協力的に改善の取り組みを行っています。問題は、そのように現場レベルでは業務内容の細かな調整が行われている半面、事務側でそれを管理していない、つまり当初契約時の仕様書と業務の実態が乖離することにあります。これを事務側から見ると、仕様書通りに業務が遂行されているかがわからない(そもそも仕様書が正しいかどうかがわからない)ということです。結果として、仕様書を元に他の委託事業者に見積依頼をしても、現行の委託事業者と比較可能な見積を入手することができず、現行の金額が妥当かどうかが分からない、よって有効な価格交渉もできないということになります。また、仕様書が適切でないとなると、それをもとに他の委託事業者に変更する再選定手続きをしたとしても、提示される見積額は高止まりする可能性が高くなります。

 

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これは官民の別を問わない問題であり、委託事業者を効果的に管理するには前述した不透明さを解消するための一定のプロセスが必要です。委託する業務内容を明確に条件提示できるよう仕様書を改善することで、委託事業者間の競争を引き出し、質と価格を最適化することが可能になります。以下では、具体的にどのような手順を踏むべきかを解説します。

 

医療機関がとるべきアクションプランとは

アクションプランは大きく以下の4段階であり、事務局・医療現場・経営陣がそれぞれ協力して進めることが必要です。

 

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■ターゲットの選定

全ての業務を一気に見直すことは難しいため、契約金額が上位の業務や、自院で特に課題があると考えている業務を見直しのターゲットに選定します。

■形骸化した仕様書の改善

現場の業務の実態を確認するため、仕様書を元に病院職員・委託事業者職員双方にヒアリングを行います。仕様書への記載漏れや双方の役割分担を明確にするため、業務分析表の作成が有効です。ヒアリングの結果、仕様書に記載されているが実施していない業務、記載はないが実施している業務、記載内容と実施内容の程度や頻度が異なる業務を洗い出すことで、業務の実態に即した仕様書になるよう改善して下さい。

■業務内容の精査と再見積による価格比較

仕様書を改善する際には、個々の業務が本当にその通り必要なのかどうか、状況に応じて判断しましょう。例えば、病院職員側で実施できることはないか、業務実施の回数が多すぎないか、過度な水準を要求していないかといった視点で、業務のスリム化を図って下さい。

こうして仕様書を業務実態に応じて最新化した上で、他の委託事業者に対して見積依頼を行います。見積は統一フォーマットを作成し、人員数の内訳や単価の相互比較が容易にできるようにしましょう。見積比較結果を活用し、現状の契約金額が著しく不適切と思われる場合には、既存事業者への是正依頼を行うか、次に述べる再選定手続きを検討します。

■委託事業者再選定手続きの実施

委託事業者の再選定手続きを実施することは、医療機関として業務委託の見直しに積極的に取り組む姿勢を鮮明にすることでもあり、高い効果が期待できます。仕様書に加え、募集要項や委託事業者に求める提案内容、評価基準等の資料を作成し、複数の委託事業者に参加を依頼します。これら一連の手続きにより、良い業務提案や価格条件を引き出すことが期待できます。

ただし、「業務委託により何を失うか」に記載した通り、業務の継続性を担保することが非常に重要です。業務終了時に次期契約事業者への引継ぎに協力する旨を定めた条項を既存事業者との契約に必ず入れておきましょう。

 

おわりに

業務委託最適化の処方箋は如何でしたか。現在の契約条件を明確化し委託事業者間の競争を促すことで、より質の高いサービスを適切な価格で提供して頂き、医療機関・委託事業者が互いに良い関係で医療サービスを提供できるようにすることが狙いです。特殊な技能が必要な業務を委託する場合や、代替事業者がない場合は難しいケースもありますが、定期的な業務管理という意味でも是非取り組んで頂ければと思います。

とはいえ、医療機関経営の最終目標はコストを下げることではなく、収益力を高めて利益を確保し、その利益を患者サービスや将来への投資に回すことです。それには病院全体の経営戦略を再構築し、収益力につながるブランドを確立する必要があります。業務委託の最適化はコスト低減に寄与する側面もありますが、そこだけに目をとられるのではなく、あくまでも経営改革の一環であることをお忘れなきようお願いします。

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