令和6年度診療報酬改定の対応―ベースアップ評価料と医療DX推進体制整備加算 ブックマークが追加されました
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令和6年度診療報酬改定の対応―ベースアップ評価料と医療DX推進体制整備加算
1. 令和6年度診療報酬改定後の病院経営状況
本年6月に診療報酬改定が施行されてから半年が経過しました。各医療機関では、診療報酬改定による収益への影響が明らかになってきており、病院経営の厳しさが増していることが分かります。
日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の3団体は、11月16日「病院経営定期調査」の最終報告を公表しました。これによると、医業損益の前年同月比較(2023年6月/2024年6月)で減収減益となっており、極めて厳しい経営状況にあることが明らかになりました。要因としては、物価高・人件費増により医業費用が増える一方であるために医業利益が減ったと考えられるという説明でした。その上で、特例的な救済措置・財政支援を政府に求める考えを示しています。
参考:公益社団法人全日本病院協会「全日病ニュース2024年10月1日号」
(https://www.ajha.or.jp/news/pickup/20241001/news02.html)
出所:日本医療法人協会「2024年度病院経営定期調査 概要版―最終報告(集計結果)―」
(https://ajhc.or.jp/siryo/20241116report.pdf)
四病院団体協議会においても、財務省へ10月11日に病院への緊急財政支援を求める要望書を提出しています。
2. 費用増に対応する改定項目
令和6年度診療報酬改定では、人材確保と働き方改革、医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進等が重点課題として掲げられました。中でも、人材確保と医療DXにおける費用増が収益を圧迫しており、この2点については「ベースアップ評価料」、「医療DX推進体制整備加算」として評価され、令和6年診療報酬改定で新設されました。
参考:厚生労働省第572回中央社会保険医療協議会総会「令和6年度診療報酬基本方針について」(2023年12月13日)(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212500_00231.html)
以下、「ベースアップ評価料」、「医療DX推進体制整備加算」の届出に向けたアプローチについて解説します。
3. ベースアップ評価料
ベースアップ評価料は、看護師や病院薬剤師等医療関係職種の賃金を改善する目的で新設されました。新設された背景としては、医療機関で働くスタッフの賃金が、他の業界より低いという問題があります。病院で算定できるベースアップ評価料には、外来・在宅ベースアップ評価料と入院ベースアップ評価料がありますが、外来ベースアップ評価料(Ⅰ)による算定点数(見込み)の10倍の数が、対象職員の給与総額の23%未満の場合、入院ベースアップ評価料が算定できることになります。
出所:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00045.html)
届出・算定までの流れ
届出・算定に向けて、まずは対象職種を特定し、ベースアップ評価料にあてる金額を試算する必要があります。
その後、院内で給与規程の改正等、ルールを決定します。賃金改善計画書を作成した後は、書面で配布したり掲示したりして職員に周知する必要があります。
参考:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定と賃上げについて~今考えていただきたいこと(病院・医科診療所の場合)~ 」(https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001211794.pdf)
対象職種
ベースアップ評価料の対象職種は下記のとおりです。看護職員処遇改善評価料と異なり、薬剤師・衛生検査技師・診療情報管理士等が追加されています。
疑義解釈より、「その他医療に従事する職員」とは、主として医療に従事しているものを指します。ただし、専ら事務作業(医師事務作業補助者、歯科業務補助者、看護補助者等が医療を専門とする職員の補助として行う事務作業を除く)を行うものは含まれません。
出所:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00045.html)
計算支援ツール
ベースアップ評価料の計算にあたり、厚労省から支援ツールが公開されています。そこに対象職種の給与総額、ベースアップ評価料算定見込みを入力します。それをもとに、賃上げ見込みが計算されます。
出所:厚生労働省「ベースアップ評価料等について」
(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00053.html)
ベースアップ評価料届出のメリット
ベースアップ評価料算定により、対象職員の賃上げというメリットを享受できます。長期的な目線で見れば、賃上げは職員の定着率向上につながり、質の高い医療提供体制の構築につながります。医療提供体制を守るためにも、ベースアップ評価料算定は重要な経営戦略と言えます。
4. 医療DX推進体制整備加算
医療DX推進体制整備加算とは、医療機関が医療DXを推進するための体制を整備した場合の評価として新設されました。10月以降は、マイナ保険証の利用率の実績要件が追加され、マイナ保険証の利用率に応じて3区分に分けられました。さらに令和7年1月以降は利用率の基準が高くなります。令和7年4月以降の利用率の実績要件は、年内を目途に検討するとされています。
また、加算1、2については「マイナポータルの医療情報等に基づき、患者からの健康管理に係る相談に応じること」が施設基準として新たに要件化されました。
出所:厚生労働省 第592回中央社会保険医療協議会総会「総ー9答申について(医療DX推進体制整備加算及び医療情報取得加算の見直し)」
(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_41283.html)
医療DX推進体制整備加算の施設基準(医科医療機関)
医療DX推進体制整備加算の届出を行うには、下記の施設基準を満たす必要があります。
- オンライン請求を行っていること
- オンライン資格確認を行う体制を有していること
- 医師が、電子資格確認を利用して取得した診療情報を、診療を行う診察室、手術室又は処置室等において、閲覧又は活用できる体制を有していること
- 電子処方箋を発行する体制を有していること。
- 電子カルテ情報共有サービスを活用できる体制を有していること
- マイナンバーカードの健康保険証利用について、実績を一定程度有していること
- 医療DX推進の体制に関する事項及び質の高い診療を実施するための十分な情報を取得し、及び活用して診療を行うことについて、当該保険医療機関の見やすい場所及びウェブサイト等に掲示していること
なお、医療機関がスムーズに医療DXを推進できるよう、一定期間の猶予として次の経過措置が設けられています。
経過措置
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出所:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00045.html)
マイナ保険証利用率
マイナ保険証の利用率の考え方としては、「適用時期の3月前のレセプト件数ベース」を用いることが基本とされています。ただし、令和6年10月~令和7年1月は、適用時期の2月前のオンライン資格確認件数ベースの利用率を用いることも可能としています。
出所:厚生労働省「医療DX推進体制整備加算・医療情報取得加算の見直しについて」
(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_43776.html)
令和6年12月以降、新たに健康保険証は発行されなくなりますが、令和6年10月時点の病院におけるマイナ保険証利用率は27.3%と普及率は低い状況です。
出所:厚生労働省社会保障審議会「マイナ保険証の利用促進等について」令和6年11月21日
(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_28708.html)
マイナ保険証の利用促進については、窓口での声掛けや、掲示物の案内による取組みを行っている病院が多くなっています。
出所:厚生労働省社会保障審議会「マイナ保険証の利用促進等について」 令和6年6月21日
(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_28708.html)
マイナ保険証の効果
マイナ保険証の利用率が高い施設の方が、レセプト返戻があった施設割合が減少していることから、マイナ保険証を利用することでレセプト返戻の減少を期待することができます。
出所:厚生労働省社会保障審議会「マイナ保険証の利用促進等について」令和6年10月31日
(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_28708.html)
電子処方箋を発行する体制
施設基準の中で最もハードルが高いのは、「電子処方箋を発行する体制」を整備することです。しかし、これには、令和7年3月31日までの経過措置が設けられており、それ以外の要件を満たすことができれば、算定が可能となります。マイナ保険証の利用実績を満たすことができれば、令和7年4月まで算定が可能になるため、各医療機関で利用促進に向けて取り組むことが重要です。
5. 改定を踏まえた病院経営の方向性
マイナ保険証等のDX推進のためには、設備投資が必要であり、費用負担が増加します。また、質の高い医療を提供するためには人材確保も重要であり、その費用も増す一方です。今後、医療DXに対応できる体力や人材を持つ医療機関とそうでない医療機関で、格差が一層拡大する可能性があります。診療報酬改定で対応できる項目については積極的な算定を進め、収益改善を図っていくことが重要です。
執筆
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ヘルスケア
※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2024/12
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