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令和6年診療報酬改定×救急患者搬送
救急患者連携搬送料の新設に伴う救急医療提供体制の要点
今年度の診療報酬改定では、医療従事者の確保や賃上げ、そして医療DX推進を目的とし、数多くの加算等が新設されました。本稿では第三次救急医療機関(救命救急医療機関)の病床逼迫を背景として新設された「救急患者連携搬送料」について、現状の課題や診療報酬を算定する上での要点を解説します。
1.救急医療提供体制の現状
総務省消防庁の調査では、救急医療業務の実施状況として、救急出動件数及び搬送人員数が増加傾向にあり、消防署によっては救急車の稼働率が90%を超えています。
全国の搬送人員数は平成14年の約430万人から右肩上がりで上昇し、令和4年では1.4倍の約620万人まで増加しています。令和4年の搬送人員の傷病種別の内訳は、入院が必要な中等症患者数の割合が増加したことで重症患者数を含む中等症以上の患者数が、搬送人員数の50%以上の割合となっています。そのため救急搬送受け入れを役割とする第三次救急医療機関では病床が逼迫しています。
出所:総務省消防庁 令和5年版 救急救助の現況 P16
https://www.fdma.go.jp/publication/rescue/post-5.html
出所:総務省消防庁 令和5年版 救急救助の現況 P29
https://www.fdma.go.jp/publication/rescue/post-5.html
出所:厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会(第 570 回) 議事次第 P11
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212500_00229.html
2.第三次救急医療機関と第二次救急医療機関に求められる機能・在り方
前述のとおり、救急出動件数及び入院患者数が増加していることで、病床稼働率が増加しています。その状況下において、厚生労働省は救急医療機関が担う機能や在り方を「24時間365日、救急搬送の受け入れに応じること」や「傷病者の状態に応じた適切な情報や救急医療を提供すること」としています。
第三次救急医療機関は緊急性・専門性の高い脳卒中、急性心筋梗塞等や、重症外傷等の複数の診療科領域にわたる疾患等、幅広い疾患に対応して高度な専門的医療を総合的に実施することが求められています。
第二次救急医療機関は地域で発生する救急患者への初期診療を行い、脳卒中、急性心筋梗塞等に対する医療は自施設で対応可能な範囲において専門的診療を担い、自施設では対応困難な救急患者は速やかに第三次救急医療機関へ紹介します。
都道府県毎に定める医療計画でも救急医療提供体制等を検討していますが、第三次救急医療機関や第二次救急医療機関の病床数には限りがあることから、救急医療機関が救急患者を受け入れるための課題や対応策の検討を行っています。
出所:厚生労働省 第4回救急・災害医療提供体制等に関するワーキンググループ(資料)【参考資料2】救急医療体制の整備と救急医療機関の機能 P10
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_25476.html
3.救急医療提供体制の偏り
救急医療提供体制における課題は、第三次救急医療機関の数は年々増加していますが、第二次救急医療機関の数はほぼ横ばい、むしろ減少しています。
救急搬送を受け入れる医療機関が約71%の救急患者を受け入れている中で、その大半が第三次救急医療機関に集中しています。一方、第二次救急医療機関はほぼ同一水準で推移しており、救急利用の増加に対応していません。
このような救急医療体制の偏りは、特定の医療機関が過度な負担を受け、他の医療機関がその受け入れをあまり行っていないという現実を反映しており、救急医療の均等な提供が求められています。
高齢化社会においては、急性心筋梗塞や脳卒中などの疾患に対する治療を想定し、より効率的かつ均等な救急医療の提供が不可欠です。今後、救急医療の体制改善とリソースの適切な分配が必要です。
4.救急医療提供体制の課題
患者が、適切な医療機関が見つからず、救急車を含む救急医療サービスを受けることができない状況になることがあります。これは、患者の健康と生命に深刻なリスクをもたらす問題であり、救急医療体制の疲弊と崩壊に繋がります。
具体的には以下のような事象が発生しており、地域医療の課題になっています。
- 一部医療機関だけが過剰に患者を受け入れ、混雑が発生し、新たな患者を受け入れる余裕がない。
- 医療従事者不足により十分な医療ケアを提供できない。
- 地域の中心部は医療提供力が充実しているが、中心部から離れた地域(過疎地域)では医療提供力が不足しているため、過疎地域の患者は地域中心部の医療機関へ搬送され、疾患によっては手遅れになることがある。
5.救急患者連携搬送料
救急患者連携搬送料は、地域における医療資源の効率的な活用の観点から、専門的な知識や技術を要する第三次救急医療機関が他医療機関と連携し、他医療機関で対応可能な患者を初期診療後に搬送することを評価したものです。
(1) 救急患者搬送までの流れ
以下のとおりです。
- 患者が第三次医療機関に搬送される。
- 第三次救急医療機関の救急外来でトリアージを行い、「他医療機関での対応が可能」と判断する。
- 第三次医療機関の医師・看護師・救急救命士が救急自動車に同乗し、連携する他医療機関に搬送し、入院させる。(その際には当該患者の診療情報を提供する。)
- 他医療機関において当該患者を入院させる
仮に、上記の流れで入院前の救急患者を第三次救急医療機関の外来から、第二次医療機関に転院搬送する場合は1,800点、入院一日目の患者を転院搬送する場合は1,200点を算定することができます。設定された点数から確認できるとおり、日単位で転院搬送が早ければ早いほど、点数が高くなります。
また、施設基準においても、「救急患者の転院搬送について、連携する他の保険医療機関等との間であらかじめ協議を行っていること」と定められているため、病院間での連携は必須となります。
出所:厚生労働省 令和6年度診療報酬改定の概要 重点分野Ⅰ(救急医療、小児・周産期医療、がん医療)P3
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000196352_00012.html
(2) 救急患者搬送による効果
これまでの救急医療提供体制では、軽傷~重症患者を第三次救急医療機関等で受け入れ、中等症患者の入院が長期化することで病床が逼迫し、第二次救急医療機関等から重症患者等を受け入れることができない場合がありました。しかし、救急患者連携搬送料の新設により、第三次医救急医療機関から、中等症患者を第二次救急医療機関に転院搬送することが点数として評価されますので、第三次救急医療機関から第二次救急医療機関に対して、中等症患者の搬送を積極的に行う救急医療体制見直しの機会として想定しています。結果としては、第三次救急医療機関の病床逼迫を緩和し、重症患者への対応に集中することを可能とする体制構築を見据えています。なおかつ、第三次救急医療機関から中等症患者を第二次救急医療機関等に搬送をすることにより、働き方改革も踏まえた夜間体制等の機能分化の促進に繋げることも狙いの1つとなります。
出所:厚生労働省 令和6年度診療報酬改定の概要 重点分野Ⅰ(救急医療、小児・周産期医療、がん医療)P4
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000196352_00012.html
6.まとめ
第三次救急医療機関に救急搬送患者数が増加する中で、その対応策の1つとして新設された「救急患者連携搬送料」を利用することです。この診療報酬により各地域の医療提供体制の見直しのきっかけになっています。
今後の地域特性も踏まえ、関連する医療機関が一堂に会し、救急患者を受け入れる体制を設けることは重要です。「救急患者連携搬送料」の算定を意識した医療体制を構築することは各医療機関の収益向上に繋がり、最終的には医療従事者の確保や賃上げに繋がると考えています。
デロイト トーマツ グループでは、様々な規模・機能の医療機関に対して、経営改善の計画策定から実行支援までをご支援しており、多数の実績を有しております。本稿で取り上げた三次救急医療機関に限らず、経営改善のご支援が可能なため、是非お気軽にご相談下さい。
執筆
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ヘルスケア
※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2024/7
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