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ナレッジ
第8次医療計画において求められる在宅医療の提供体制について
令和6年度から始まった第8次医療計画では、各都道府県において「在宅医療において積極的役割を担う医療機関」や「在宅医療に必要な連携を担う拠点」を医療計画に位置づけ、適切な在宅医療の圏域を設定し、圏域ごとに関係機関間の連携の検討を行うことが求められました。
在宅医療の現状
国勢調査によると令和2年における65歳以上の高齢者人口は、3,534万人ですが、令和24年には3,935万人となりピークを迎え、同年の75歳以上の人口割合は、現在の14%から20%に増加するといわれています。また、高齢化に伴い、訪問診療および訪問看護の利用者数は増加傾向であり、在宅医療のニーズも増加しています。さらに、退院後も人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアを受けながら日常生活を営む小児や若年層の患者が増加しているなど、医療技術の進歩、QOL向上を重視した医療への期待の高まり等により、在宅医療のニーズは増加するだけでなく、多様化していているとも考えられます。
第8次医療計画について
医療計画とは、医療法第30条の4第4項の規定に基づき、都道府県が、国の定める基本方針に則し、地域の実情に応じて当該都道府県における医療提供体制の確保を図るために策定するものです。第7次医療計画は平成30年度から令和5年度実施され、第8次医療計画は令和6年度から開始され、6年間の計画となります。
第8次医療計画は、5疾病・6事業及び在宅医療に係る医療連携体制に関する事項等を医療計画に定めることとされています。その作成にあたっては、都道府県が基本方針に則して、「疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制の構築に係る指針」を参考とし、かつ、医療提供体制の現状及び今後の医療需要の変化を含む地域の実情に応じて、関係者の意見を十分踏まえた上で行うこととされています。今回、在宅医療に係る内容が記載されている「在宅医療に係る医療体制の構築に係る指針」では、都道府県の在宅医療の役割が追加されたため、その内容について解説します。
第8次医療計画で求められる在宅医療の提供体制の見直しのポイント
第8次医療計画において国は、都道府県に対し訪問診療及び訪問看護の必要量の推計等を提供し、都道府県は、国から提供を受けたデータを踏まえ今後見込まれる在宅医療の需要の増加に向け、在宅介護の提供体制も勘案しながら、地域の実情に応じた在宅医療の体制整備を進めることとされています。
その際に都道府県は、在宅医療の体制整備において「在宅医療において積極的役割を担う医療機関」及び「在宅医療に必要な連携を担う拠点」について、それぞれが担うべき機能や役割を整理して医療計画に位置付け、さらに適切な在宅医療の圏域を設定する必要があります。また、「在宅医療に必要な連携を担う拠点」と「在宅医療・介護連携推進事業」との連携を進める図る必要があります。
在宅医療の圏域を踏まえた、「在宅医療において積極的役割を担う医療機関」及び「在宅医療に必要な連携を担う拠点」については、「在宅医療・介護連携推進事業」を含め共通点も多いため、さらに補足します。
在宅医療の圏域について
在宅医療の圏域とは、課題の抽出や数値目標の設定、施策の立案の前提となる地域のことです。設定の際は、従来の二次医療圏にこだわらず、できる限り急変時の対応体制や医療と介護の連携体制の構築が図られるよう、在宅医療において積極的役割を担う医療機関及び、在宅医療に必要な連携を担う拠点の配置状況、並びに地域包括ケアシステムの状況も踏まえ、市町村単位や保健所圏域等の地域の医療及び介護資源等の実情に応じて弾力的に設定する必要があります。
在宅医療において積極的役割を担う医療機関について
在宅医療において積極的役割を担う医療機関は、自ら24時間対応体制の在宅医療を提供するとともに、他の医療機関の支援も行いながら、医療や介護、障害福祉の現場での多職種連携の支援を行う病院・診療所で、主に、診療報酬で定められている在宅療養支援診療所、在宅療養支援病院等の地域において在宅医療を担っている医療機関の中から位置づけられることが想定されます。また、圏域内に少なくとも1つは設定することとされています。
なお、在宅医療において積極的役割を担う医療機関に求められる事項としては、以下6つが挙げられます。
- 医療機関(特に一人の医師が開業している診療所)が必ずしも対応しきれない夜間や医師不在時、患者の病状の急変時等における診療の支援を行うこと
- 在宅での療養に移行する患者にとって必要な医療及び介護、障害福祉サービスが十分確保できるよう、関係機関に働きかけること
- 臨床研修制度における地域医療研修において、在宅医療の現場での研修を受ける機会等の確保に努めること
- 災害時等にも適切な医療を提供するための計画(人工呼吸器等の医療機器を使用している患者の搬送等に係る計画を含む。)を策定し、他の医療機関等の計画策定等の支援を行うこと
- 地域包括支援センター等と協働しつつ、療養に必要な医療及び介護、障害福祉サービスや家族等の負担軽減につながるサービスを適切に紹介すること
- 入院機能を有する医療機関においては、患者の病状が急変した際の受入れを行うこと
在宅医療に必要な連携を担う拠点について
在宅医療に必要な連携を担う拠点は、在宅医療の関係機関と連携して在宅医療の提供体制を構築する拠点であり、地域の実情に応じ、病院、診療所、訪問看護事業所、地域医師会等関係団体、保健所、市町村等の主体の中から位置づけられることが想定されます。また、圏域内に少なくとも1つは設定することとされています。
なお、在宅医療に必要な連携を担う拠点において求められる事項として、以下5つが挙げられます。
- 地域の医療及び介護、障害福祉の関係者による会議を定期的に開催し、在宅医療における提供状況の把握、災害時対応を含む連携上の課題の抽出及びその対応策の検討等を実施すること
- 地域包括ケアシステムを踏まえた在宅医療の提供体制を整備する観点から、地域の医療及び介護、障害福祉サービスについて、所在地や機能等を把握し、地域包括支援センターや障害者相談支援事業所等と連携しながら、退院時から看取りまでの医療や介護、障害福祉サービスにまたがる様々な支援を包括的かつ継続的に提供するよう、関係機関との調整を行うこと
- 質の高い在宅医療をより効率的に提供するため、関係機関の連携による急変時の対応や24時間体制の構築や多職種による情報共有の促進を図ること
- 在宅医療に係る医療及び介護、障害福祉関係者に必要な知識・技能に関する研修の実施や情報の共有を行うこと
- 在宅医療に関する地域住民への普及啓発を実施すること
「在宅医療に必要な連携を担う拠点」と「在宅医療・介護連携推進事業」の連携
「在宅医療・介護連携推進事業」について
在宅医療・介護連携推進事業(介護保険法第115条の45)とは在宅医療と介護の一体的な提供の実現に向けて、医療と介護の関係者をつなぎ、在宅医療・介護連携の推進のために、医療・介護関係者の資質向上や連携に必要な機会の確保を図る事業のことで、その対象は主に高齢者です。
「在宅医療に必要な連携を担う拠点」と「在宅医療・介護連携推進事業」の共通点
いずれにおいても日常の療養支援、入院・退院支援、急変時の対応、看取りの4つの機能の確保に向け、必要な連携を担う役割が求められています。
在宅医療に必要な連携を担う拠点」と「在宅医療・介護連携推進事業」の違い
「在宅医療に必要な連携を担う拠点」は都道府県が市町村、保健所、地域医師会等関係団体等に設置しますが、「在宅医療・介護連携推進事業」に実施主体は市町村です。
高齢者を対象とする「在宅医療・介護連携推進事業」に対し、「在宅医療に必要な連携を担う拠点」の対象は高齢者に限らず、認知症の対応、感染症発生時や災害時対応等の様々な局面に在宅医療・介護連携を推進するための体制の整備を図ることとされています。
「在宅医療に必要な連携を担う拠点」と「在宅医療・介護連携推進事業」の連携の必要性
二つの取組目的は在宅医療と介護の連携を推進し在宅医療の体制を構築するものであり、活動の内容としても、多職種が参加する会議の開催や研修会、情報共有の仕組みの構築などが求められているため、効率的に実施するうえで二つの取組については連携を図る必要があります。
「在宅医療に必要な連携を担う拠点」と「在宅医療・介護連携推進事業」の連携
出所:令和6年度保健師中央会議行政説明 資料10
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_41971.html
最後に
高齢化の進展で医療需要が増加し、その受け皿として、さらに、近年の住み慣れた地域や自宅で療養を望むようになった意識の変化も重なり、今後、在宅医療の重要性はますます高まると考えられます。そのようななか、令和6年度から開始された第8次医療計画において各都道府県の役割として、「在宅医療において積極的役割を担う医療機関」や「在宅医療に必要な連携を担う拠点」、「在宅医療の圏域」を踏まえた在宅医療の提供体制の構築について、医療計画に位置付けることが追加され、都道府県の役割は、より強化され明確化したものととらえることができます。また、この取組は市町村が高齢者を対象として実施する、介護保険法に基づく在宅医療・介護連携推進事業をはじめ、これまでの在宅医療の取組を踏まえ、今後も在宅医療を推進することが求められています。つまり、これまで在宅医療と介護の連携については、「在宅医療・介護連携推進事業」を実施していた市町村単位だけではなく、それよりも広域に設定される在宅医療の圏域単位で都道府県により在宅医療体制が構築されることになります。このことから、これまで在宅医療の体制構築が進んでいない地域においても、隣接する市町村等とともに、都道府県の支援を得ながら取組が進められることが想定され、在宅医療の取組が促進されることが期待されます。
在宅医療は医療・介護・障害福祉の関係者及び地域住民と多くのステークホルダーが関わる分野であり、今後さらなる、在宅医療の重要性の高まりとともに、医療、介護のみならず、歯科、薬局、リハビリ、栄養など、在宅医療を推進するうえでより多くの関係者が連携することが重要です。
このように、在宅医療については、今後政策の動向を踏まえ、それぞれに関連する領域等についても今後の動向に注視が必要であると考えます。
執筆
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ヘルスケア
※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2024/12
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