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M&A会計 日本基準と国際会計基準との主な相違 第2回

取得原価の算定、条件付取得原価、段階取得

2018年1月号からM&A会計 企業結合編として連載「日本基準と国際会計基準との主な相違」がスタートしました。第2回は、取得原価の算定、条件付取得原価、段階取得について、Q&A形式でわかりやすく解説します。

1.取得原価の算定

-通常のケースは会計基準上の差異はない

Q:買収対価の算定(取得原価の算定)に関して、日本基準と国際会計基準(IFRS)との差異はありますか。

A(会計士):取得原価は、被取得企業(または旧所有者)に支払う対価の企業結合日における時価で測定するという点で、通常のケースでは、両会計基準に差異はないといえます。

 

2.条件付取得対価の会計処理

-日本基準はのれんの追加認識・IFRSは支払対価の時価に反映させ、その後は負債を時価評価

Q:実務では、企業結合契約の中で、一定の利益目標の達成、一定の株価の達成、研究開発プロジェクトのマイルストーンの達成または不達成により、買収対価が増加額または減額されるケース、いわゆるアーンアウト条項付の買収があります。会計基準では条件付取得対価として規定されていますね。

A(会計士):条件付取得対価の会計処理は日本基準とIFRSで大きく異なります。まず、日本基準では、条件付取得対価を「企業結合契約において定められるものであって、企業結合契約締結後の将来の特定の事象又は取引の結果に依存して、企業結合日後に追加的に交付又は引き渡される取得対価」と定義したうえで、将来の業績に依存する条件付取得対価の場合には、「条件付取得対価の交付又は引渡しが確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、支払対価を取得原価として追加的に認識するとともに、のれん又は負ののれんを追加的に認識する」とされています。

Q:つまり、買収時点では条件の達成可能性を見込まず、条件達成が確実となったときに、その事実を企業結合日に行われた当初の会計処理に追加するイメージになりますね。

A(会計士):はい。次にIFRSですが、定義は同様ですが、会計処理は企業結合日において、その条件達成の可能性を踏まえた条件付取得対価の時価(公正価値)を算定し、それを企業結合日の会計処理に含めることになります。条件付対価を追加で支払う契約の場合、将来の支払となるので負債が計上され、その見合いは(パーチェスプライスアロケーション(PPA)を経て)のれんとなります。したがって、企業結合日の時点で、日本基準よりのれんが増加しますね。

Q:達成可能性を織り込んで、対価の時価を算定するのはかなり難しそうですが、それは専門家が関与することになるのでしょうね。ところで、条件付取得対価の時価はあくまで見積りですから、将来の達成/不達成により将来の現金支払額と異なることになりますね。

A(会計士):はい。IFRSでは、企業結合日の時価で条件付取得対価を算定し、企業結合の会計処理はそれで確定させます(したがってのれんは変動しない)。他方、条件付取得対価は、通常、負債として計上されますが、負債はその後、毎期、達成の可能性を踏まえて時価評価され、その差額は一時の損益として処理します。

Q:そうすると、条件達成の可能性が高まれば、追加の費用が一気に増えたり、達成の可能性が乏しくなれば負債の戻入益が計上され、損益が大きく変動したりする可能性がありますね。日本基準では、対価の支払いが確実になったときにのれんを追加計上し、それを償却して行くことになるので、単年度の損益は平準化される傾向にあるのと対照的ですね。

A(会計士):そうですね。この点については、M&A会計 実践編 「第4回 条件付取得対価の会計処理」もご参照ください。

Q:ところで、日本基準で追加計上されるのれんですが、償却年数はどう考えればよいでしょうか。

A(会計士):追加的に認識するのれんは、企業結合日時点で認識されたものと仮定して、当初認識したのれんと同様に償却します。なお、追加認識する事業年度以前に対応する償却額はその年度の損益として処理します。

 

3.段階取得が実施された場合の会計処理

-時価評価に関する実務上の対応にも留意

Q:支配の獲得は1回で実施されることもあれば、複数回に分けて実施されることもあります。最初は資本・業務提携をして、その後、買収するようなケースですね。会計処理は日本基準とIFRSも、既保有株式は投資の性格が変わったものとして、買収日時点に時価で評価し、既保有株式に生じていた含み損益は損益に計上されるという点で同じですね。

A(会計士):はい。なお、IFRSでは株式の売却差額を損益ではなく、OCI(その他の包括利益)に計上することもできるのですが、そのような方針を採用している会社にあっては、売却した場合と同様、その差額をOCIで処理します。

Q:これまでは投資先株式の20%を保有し、関連会社としていましたが、さらに31%の株式を追加取得して子会社としたとします(非支配株主は49%)。この場合には、既保有の20%分も追加取得の31%分も支配獲得日、すなわち追加取得日の時価で評価することになるわけですよね。

A(会計士):はい。そのようになります。既保有株式は時価評価され、これまでの簿価(関連会社株式の場合には持分法評価額)との差額が損益(日本基準では段階取得損益:特別損益)に計上されます。もし、その時価が高ければ、段階取得利益とともに支配獲得日に算定されるのれんの金額も大きくなりますね。

Q:このときの時価ですが、第三者から追加取得したわけですので、実際の追加取得時の単価を既保有株式の時価評価に使用しても差し支えないですか。

A(会計士):なかなか難しい問題ですね。日本の企業結合会計基準では、このようなケースで時価をどのように算定すべきかのルールは示されていませんが、実務上は、追加取得時の時価を付す場合も多いと思います。ただコントロールプレミアムと呼ばれる、支配権を獲得するための対価を考慮する必要があるときもあります。例えば、すでに49%の株式を取得していて、2%追加取得して支配を獲得したような場合には、この2%は支配権を獲得できるかどうかの重要なポイントですし、プレミアムを乗せて高く買うことがあります。2%分ですから、1株あたりの価格への影響が大きくなります。このケースで追加取得時の価格を基礎に既保有株式(この例では49%分)を時価評価すると、取得企業では既保有株式の段階取得利益と支配権獲得に伴うのれんが多額に計上されることになりますので、それが実態を表しているのかどうかを慎重に検討することが必要だと思います。

Q:IFRSを適用している企業ではどのような評価がなされていますか。

A(会計士):時価評価の単位として、原則として、既保有株式については、持分割合に応じた評価額を付して、追加取得時の取引価格とは別の評価がなされていると思います。なお、段階取得の会計処理と価格算定については、M&A会計 実践編 第3回もご参照下さい。 

Q:本日はありがとうございました。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A会計実務研究会 萩谷和睦 森山太郎

(2018.2.28)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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シリーズ記事一覧

M&A会計 日本基準と国際会計基準との主な相違

第1回 全部のれんと部分のれん、株式報酬の取扱い、他
第2回 取得原価の算定、条件付取得原価、段階取得
第3回 取得原価の配分(無形資産の識別、リストラ引当金、偶発債務など)
第4回 のれんの会計処理
第5回 IASBにおけるのれんの減損に関する新しいアプローチの検討状況

 

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