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M&A会計 日本基準と国際会計基準との主な相違 第3回

取得原価の配分(無形資産の識別、リストラ引当金、偶発債務など)

今年1月から始まった連載「M&A会計‐企業結合編」では、第三者間の企業結合、すなわち「取得」と分類された企業結合の会計処理について考えてみたいと思います。第3回は、「取得」と分類された企業結合の会計処理のうち、取得原価の配分について、日本基準と国際会計基準(IFRS)の違いを比較しながら、Q&A形式でわかりやすく解説します。

1.取得原価の配分

-通常のケースでは日本基準とIFRSとの差異はない

Q:日本基準では、取得原価の配分は、被取得企業から受け入れた資産・負債について、企業結合日の時価を付すものとされています。この資産・負債の範囲は、一般に公正妥当と認められる会計基準で認識されるものとされ、これを識別可能資産・負債といいます。そして、時価については、市場価格のほか、合理的に算定された価額も含まれます。合理的な価額は、“市場参加者”が利用すると想定される情報や前提等を基礎として算定しますが、それが入手できない場合には、“企業”が利用可能な情報や前提等を基礎として算定することになります。いずれにせよ、取得の会計処理では、被取得企業から受け入れる資産・負債は、買収前に被取得企業で付されていた簿価ではなく、時価で測定することになるわけですね。このような枠組みについて、IFRSとの差異はありますか。

A(会計士):IFRSも、原則として、識別可能資産・負債について、企業結合日の時価(公正価値)を付すことになりますので、枠組みとして差異はないといえます。ただ個別具体的なところでは、IFRSと日本基準との間で差異があったり、IFRSの方が日本基準より詳細な定めをおいていたりするものがありますので、運用上の差異などはあると思います。

 

2.無形資産の識別

―IFRSでは日本基準より厳格に識別されてきたが、最近では日本基準でも識別するケースが増えている

Q:それでは、個別の論点として、無形資産への取得原価の配分についてはいかがでしょうか。実務では、日本基準はIFRSと比べて、無形資産の識別が厳格でない、などと聞くことがあります。まず、日本基準の規定はどのようになっていますか。

A(会計士):企業結合会計基準では「受け入れた資産に法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、当該無形資産は識別可能なものとして取り扱う」とされ、適用指針では、その無形資産の独立した価格を合理的に算定できることが要件とされています。また、企業結合の目的の1つが特定の無形資産の受け入れであり、その無形資産の金額が重要になると見込まれる場合には、当該無形資産は分離して譲渡可能なものとして取り扱うとされています。

Q:会計基準の規定を見ると、要件を満たした場合には識別可能なものとして扱う、したがって、厳格に無形資産を識別し、取得原価を配分すると読めますが、適用指針では、どちらかというと無形資産を識別しなければならないケースを絞っているように感じますね。

A(会計士):逆の見方をすると、企業結合の目的として、特許などの技術関連、商標などの市場関連、顧客リスト等の顧客関連等の無形資産が含まれている場合には、その価格を合理的に算定できるはずであり、配分残余であるのれんとは区別して識別すべき、という点を明確にしているともいえます。有価証券報告書には企業結合の目的が記載されますが、そこで無形資産の取得が企業結合の目的に含まれている場合には、無形資産の識別について留意する必要があるでしょう。識別すべき無形資産の範囲を絞ったような規定は、無形資産に関する包括的な会計基準が無い中で、どこまで無形資産を厳格に識別すべきか、そしてのれんも無形資産も償却される点も考慮して定められた規定なのではないかと思います。

Q:それでは、IFRSではどのような取り扱いになっていますか。

A(会計士):IFRSでは、のれんは非償却、無形資産は原則として償却ですので(耐用年数を確定できない無形資産は非償却)、無形資産を厳格に識別する必要があります。IFRSでは、法律上の権利または分離して譲渡可能であれば、その時価は信頼性をもって算定できる、との規定になっています。
このような規定の違いを受けて、実務上、これまではIFRS適用企業の方が無形資産をより厳格に識別してきたと思います。ただ最近では、先ほどお話ししたように、企業結合の目的を踏まえた投資家に対する適切な情報開示の観点から、日本基準でも無形資産を識別するケースはかなり増えてきたのではないかと思います。

 

3.リストラ引当金

-日本基準では企業結合特定勘定を負債計上できるが、事例は少ない

Q:次に、企業結合の会計処理に反映させるべき負債の範囲について伺いたいと思います。この点に関しIFRSでは債務性のないリストラ引当金は計上できないが、日本基準では企業結合に係る特定勘定(企業結合特定勘定)を使用することにより計上できる、という議論があるようです。まずIFRSの取り扱いをお願いします。

A(会計士): IFRSでは、企業結合の会計処理に反映させるべきかどうかは、負債の定義を満たしているかどうかが判断のポイントになります。例えば企業結合後、工場閉鎖が必要となり、関連する被取得企業の従業員の退職関連費用を10億円と見積ったうえで、買収価額は90億円で当事者が合意したとします。この場合、企業結合日までに個々の従業員に解雇の通知をするなど債務性が確認できれば、企業結合の会計処理で負債を10億円計上しますが、企業結合日時点では計画段階であり、個別に通知しておらず、債務性が確認できなければIFRSでは負債計上はできません。このケースでは、退職関連費用10億円は取得後の企業における費用として計上されます。

Q:日本基準ではどのようになるのでしょうか。

A(会計士):日本基準でも、もちろん債務性が確認できれば、それは識別可能負債になりますので、IFRSと同様、負債計上することになります。日本基準では、このほか「取得後に発生することが予測される特定の事象に対応した費用または損失であって、その発生の可能性が取得の対価の算定に反映されている場合」には「企業結合特定勘定」という負債を認識することになります。これは現在の債務性はないものの、買収後に特定の費用または損失が予想され、買収当事者間での協議の結果、その費用等が買収価額に反映(その費用に相当する金額が減額)されている場合に計上できる、というイメージです。先程のケースを例にとれば、被取得企業が計画している退職関連費用10億円を考慮して買収価額が10億円減額されていれば、企業結合日に企業結合特定勘定を10億円計上することになります。特定勘定を計上することにより、買収前から想定されていたリストラ費用の影響を取得後企業の損益計算から除外できることになりますね。ただ、実務上、特定勘定が使用されるケースはほとんど見受けられません。一般に取得後の費用・損失が買収価額にどのように反映されたのかが明らかではないためと思われます。

 

4.偶発債務の会計処理

-IFRSでは資金の流出可能性が低くても負債計上すべき場合がある

Q:偶発債務の会計処理については、いかがでしょうか。まずIFRSの取り扱いをお願いします。

A(会計士):IFRSでは、過去の事象に起因する「現在の債務」であって、その時価(公正価値)が信頼性をもって測定できる場合には、経済的便益を有する資源の流出可能性にかかわらず負債を認識することとされています。これは通常の会計処理とは異なります。通常の会計処理は資源の流出可能性が50%超の場合に引当金を計上することになるのですが、企業結合の会計処理では、たとえ流出可能性が30%であったとしても、その時価を測定できるのであれば、引当金を計上することになります。取得企業ではその負債(偶発債務)を評価して買収対価を決定しているので、それを会計処理に反映させるためです。このように通常の会計処理とは異なる取り扱いをした結果、企業結合後の会計処理も特別な扱いがあります。会計基準では、この負債が決済や失効するまでの間、以下のいずれか高い方の金額で債務を認識し続けることになります。

  • IAS37号に従って認識される額(通常の会計処理で負債計上される額)
  • 当初認識額(一定の場合には減額される場合あり)

このような特別な取り扱いがないと、買収後の最初の決算において、資源の流出可能性がいきなり50%以下となり、引当金の戻し入れが発生してしまうので、これを避けるためですね。

Q:日本基準はいかがでしょうか。

A(会計士):日本基準では、引当金の4要件に照らして判断するので、確率30%のようなケースでは、引当金は計上できないと思います。その代わり、先ほどの企業結合特定勘定の要件を満たせば、負債の部に計上できることになります。ただし、そのようなケースは限定的だと思います。

 

5.その他の差異

-補償資産などIFRSでは日本基準より詳細な定めがある

Q:この他の差異はありますか

A(会計士):IFRSではIFRS13号「公正価値測定」があり、時価評価全般について取り扱っています。日本基準では該当する基準はありませんので、実務上、時価評価の範囲や測定方法など、差異が生じることはあると思います。
また、補償資産といって、企業結合の売手が買手(取得企業)に、特定の資産・負債について、企業結合前から存在する不確実な要素を補償する条項を企業結合契約の中に織り込む場合があります。例えば、売手は訴訟などの特定の偶発事象から生じる負債の一定金額を超える損失について、取得企業に対し補償するとします。この場合、取得企業は補償資産を取得し、原則として、企業結合日の時価で補償資産と関連負債を計上することになります。

Q:本日はありがとうございました。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A会計実務研究会 萩谷和睦 森山太郎

(2018.4.24)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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シリーズ記事一覧

M&A会計 日本基準と国際会計基準との主な相違

第1回 全部のれんと部分のれん、株式報酬の取扱い、他
第2回 取得原価の算定、条件付取得原価、段階取得
第3回 取得原価の配分(無形資産の識別、リストラ引当金、偶発債務など)
第4回 のれんの会計処理
第5回 IASBにおけるのれんの減損に関する新しいアプローチの検討状況

 

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