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M&A会計 企業結合の実務 第7回

逆さ合併の処理

企業結合の実務をQ&A形式でわかりやすく解説します。今回は、子会社が親会社を吸収合併する組織再編、いわゆる逆さ合併の会計処理をテーマに取り上げます。

1.はじめに

Q:本日は、いわゆる逆さ合併の会計処理をテーマに取り上げたいと思います。逆さ合併は、子会社が親会社を吸収合併する組織再編です。ここでは、以下の設例で考えてみましょう。

(前提条件)
・P社(親会社)はS社(子会社)の100%を買収により取得
・S社取得後剰余金は簡便化のため0とする
・S社を存続会社としてP社を吸収合併した

この設例は、共通支配下の取引ですから、個別上の簿価により会計処理することになり、具体的には企業結合会計基準の適用指針210項~212項が適用されますね。

2.子会社による親会社の吸収合併

-共通支配下の取引として簿価を基礎として会計処理

A(会計士):その通りです。S社(存続会社)の個別上および連結上のB/Sの動きは下図のようになりますが、ポイントを要約すると次のようになります。

・S社の個別B/Sではのれんは発生しない。なお、S社の個別上の純資産は、P社の個別上の純資産の各項目をそのまま承継する方法と、すべて払込資本(資本金、資本準備金、その他資本剰余金のいずれか)とする方法がある(設例では前者の方法とする)。

・合併後のS社の連結B/Sと合併前のP社の連結B/Sは経済実態に変化がないため、実質的には同じである。ただし、S社の連結B/Sの資本金は、S社を存続会社とした合併後のS社の個別B/Sの資本金と同額となる (合併前のP社連結B/S資本金との差額は資本剰余金に振替える)。

図表1:合併前後の貸借対照表の比較
※クリックして画像を拡大表示できます

Q:子会社が親会社を吸収合併するケースとしては、実務上、新設されたSPC(特別目的会社)が資金調達し、既存の事業会社を買収し(100%子会社化)、その後、既存の事業会社が、いわば箱であるSPCを吸収合併するケースも見受けられますね。

A(会計士):親子会社間の合併は、一般に親会社が子会社を吸収合併する場合が多いわけですが、SPCが親会社となる場合には、子会社が事業の主体であり、許認可を維持するニーズがあったり、様々な状況下で税務上の取り扱いが関係している場合もありますね。

3.子会社(存続会社)の個別上の留意点

-分配可能額や純資産の減少に注意

Q:それでは、この合併で、個別財務諸表上、留意すべき点はありますか。

A(会計士):P社が資産として保有していたS社株式は、合併によりS社が受け入れた瞬間に自己株式となるので、S社の株主資本の控除項目となるため、S社の分配可能額が減少したり、場合によっては合併後のS社が債務超過になる場合もあります。

Q:この設例で、P社がSPCであると仮定して、例えば、資産300がすべてS社株式、負債(借入金)が290、資本金10だとすると、合併後のS社は次のようなB/Sになるということですね。

【図表2】S社 B/S

資産 S              100

資産 P                  -

負債 S               30

負債 P              290

資本金           60

利器剰余金      20

自己株式    △300

                  100

                         100

 

A(会計士):その通りです。このケースでは、分配可能額がないばかりでなく、資産100、負債320ですから、債務超過が220となってしまいます。その原因は簿価純資産が70のS社を300で買収したわけですので、その300に含まれているS社ののれん相当額が、結果として株主資本からマイナスされてしまうためです。

Q:そうすると、S社ののれん価値が維持されている場合には、決算書上は債務超過となるとしても、実態は業績が悪いわけではないということでしょうか。

A(会計士):そうなりますね。S社が作成する連結B/Sは次のようになりますので、実態面は連結F/Sを見ないと分からないことになります。ただ、個別上、このような債務超過になるような組織再編は、なかなかとりづらい選択ですね。

【図表3】連結B/S

資産 S             100

のれん        270

負債 S                  30

負債 P                 290

資本金             60

資本剰余金     △30

利益剰余金   20

                370

                           370

注:S社の資産・負債の簿価と時価は同じであると仮定する。
資本剰余金のマイナス表示は認められないため、最終的には利益剰余金から控除する。

 

4.連結財務諸表上の資本金

-連結財務諸表提出会社の個別上の資本金とする

Q:ところで、なぜ、連結上の資本金は、S社の個別上の資本金に合わせるのでしょうか。

A(会計士):逆にいうと、そもそも連結上の資本金とは何なのでしょうか。もともと資本金は会計の概念ではなく、分配可能額を定める会社法が決めるものです。会計上、B/S上は払込資本と留保利益の2区分で良いわけですが、制度会計上は会社法の定めとして取り入れる必要があるので、払込資本の1項目として資本金を表示しているわけです。我が国では連結ベースで配当規制をしているわけではありませんので、いわば連結上の資本金はなくても良いのでしょうが、制度上は、連結財務諸表の提出会社の個別上の資本金を連結資本金とする、と割り切ったということだと思います。

Q:本日はありがとうございました。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A会計実務研究会 萩谷和睦 森山太郎

(2019.4.15)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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シリーズ記事一覧

M&A会計 企業結合の実務(記事一覧)

第1回 のれんの評価と監査報告書の記載
第2回 企業結合会計基準等の公開草案の解説
第3回 逆取得となる株式交換の会計処理
第4回 持分変動と税効果会計
第5回 会計基準と会社法との関係
第6回 価格調整の会計処理
第7回 逆さ合併の処理

 

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