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M&A会計 企業結合の実務 第10回

共通支配下の取引における繰延税金資産の回収可能性の考え方

企業結合の実務をQ&A形式でわかりやすく解説します。今回は、企業集団内で合併が行われる場合の、合併直前の決算における繰延税金資産の考え方を取り上げたいと思います。

Q:本日は、企業集団内で合併が行われる場合の、合併直前の決算における繰延税金資産の考え方を取り上げたいと思います。

1. 共通支配下の取引における「適正な帳簿価額」の考え方

-合併が無いものと仮定して考える

Q:P社には100%子会社であるS1社とS2社があります(決算日は3社とも3月末)。S1社は収益力が高く、繰延税金資産の企業分類は「1」となり、将来減算一時差異のすべてについて繰延税金資産を計上しています。他方、S2社は業績が思わしくなく、企業分類は「4」となり、翌1年分の課税所得の範囲内で繰延税金資産を計上しています。
今般、S1社は、S2社を吸収合併することになりました(効力発生日は4月1日)。この場合、各社における合併直前の3月末の繰延税金資産の回収可能性はどのように考えるのでしょうか。

A(会計士):兄弟会社同士の合併(共通支配下の取引)の場合の繰延税金資産の回収可能性の取り扱いは、企業結合会計基準等で明文化されていません。ただ取得企業の税効果会計に関する企業結合会計の取扱い(適用指針75項)を準用して、「合併の影響を合併後から考慮する」ことが一般的な実務になります。

Q:ということは、合併直前年度においてS1社は企業分類「1」、S2社が企業分類「4」のまま繰延税金資産の回収可能性を考えることになるのですか。

A(会計士):はい、そのようになります。

Q:それは何故なのですか。合併直前の3月末の決算は4月以降に行うので、各社の決算作業中には、S1社を存続会社とした合併が成立しているはずです。それなのに「合併がないと仮定」すること自体、違和感があります。さらに企業も合併を前提とした事業計画を作成しているはずです。そうであれば、合併が成立したことを前提に繰延税金資産の回収可能性を考えた方が自然ではないでしょうか。

A(会計士):そのようにも考えたくなるのですが、共通支配下の取引に関する会計ルールは、一貫した考え方で作られています。企業結合会計では、繰延税金資産以外の他の項目(固定資産の減損、退職給付に係る負債)についても、合併や事業分離が行われないものと仮定した取り扱いを定めています。仮に、企業結合会計における税効果の取り扱いのみを「合併を前提」としたように見直す場合には、企業結合における会計処理が首尾一貫しないことになってしまいます。さらに、3月末の決算は、あくまで法人格が別であり、一時差異もそれぞれの会社で存在していますので、その一時差異をそれぞれの会社で回収できるかどうかを考えるべきだと思います。仮に合併直前年度の各社の繰延税金資産の回収可能性を合併後の利益計画に基づき検討するとしたら、その計画上の利益をS1社とS2社に配分する必要がありますが、それをどのように配分すべきなのでしょうか。そのようなルールを定めたとすれば、すべての合併に適用することになりますので、実務上は非常にコストの係る取り扱いになるように思います。

2. 連結納税への加入の場合の繰延税金資産の回収可能性の考え方

-連結納税への加入が確実となったときに、それを加味して判断する

Q:そのように考えると確かに「合併を前提」とした繰延税金資産の回収可能性を考えることはとても難しいことが理解できました。ただ、類似しているルールとして、実務対応報告第5号である連結納税に関する当面の取扱い(その1)があります。そこでは連結納税制度における新規適用・加入・ 離脱の際の税効果会計の取り扱いが定められていて、例えば、子会社の株式の追加取得の意思決定がなされ、それが実行される可能性が高いと認められる時点で、繰延税金資産の回収可能性の判断上、当該子会社の収益力を考慮する、との定めがあります。この考え方は「合併を前提」とした考え方に近いのではないですか。

A(会計士):そうですね。これは「連結納税」への加入・離脱等の局面、すなわち税金に関連する部分のみの取り扱いを定めており、企業結合とは局面が異なります。実務対応報告は、タックス・プランニングに基づく将来の課税所得の見積りや、「子会社株式を売却する場合の留保利益の税効果の取扱い」との整合性を考慮した定めで、こちらも一貫した考え方になっています。ちなみに2016年7月には、企業会計基準委員会で共通支配下の取引に関する税効果の考え方との整合性も検討されたのですが、それぞれの考え方に一定の論拠があるので、規定の見直しは行われませんでした。

Q:S1社とS2社との合併の話に戻ります。S1社とS2社の単体の繰延税金資産の考え方は分かったのですが、P社が作成する連結財務諸表上の取り扱いはどのようになりますか。

A(会計士):これはとても難しい問題だと思います。S1社とS2社の合併は、両社が決めたというよりP社の指示で行われているわけで、P社の視点からはタックス・プランニングの1つともいえそうです。ただ我が国の連結財務諸表は、個別財務諸表を基礎として作成し、繰延税金資産の回収可能性を親会社の視点で見直すことはしていないと思われますので、実務上、繰延税金資産は個別財務諸表の合算数値により計上されているのではないかと思います。

Q:本日はありがとうございました。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A会計実務研究会 萩谷和睦 森山太郎

(2019.9.17)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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M&A会計 企業結合の実務(記事一覧)

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第2回 企業結合会計基準等の公開草案の解説
第3回 逆取得となる株式交換の会計処理
第4回 持分変動と税効果会計
第5回 会計基準と会社法との関係
第6回 価格調整の会計処理
第7回 逆さ合併の処理
第8回 100%子会社への無対価会社分割とその子会社株式の譲渡の会計処理
第9回 取得原価の配分~引当金~
第10回 共通支配下の取引における繰延税金資産の回収可能性の考え方

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