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M&A会計 企業結合の実務 第11回

現物配当の会計処理

企業結合の実務をQ&A形式でわかりやすく解説します。今回は、配当の会計処理、とりわけ現物配当の会計処理を取り上げます。

Q:本日は配当の会計処理、とりわけ現物配当の会計処理を伺いたいと思います。まず、現金配当を含め、配当の会計処理の全体像を整理していただけますか。

1. 配当に関する会計処理の枠組み

-現金配当/現物配当(現物資産・子会社株式等)

A(会計士):配当金を受領した株主の会計処理は、配当財産の種類が現金かそれ以外かで分かれ、現金以外の財産の場合には、さらに現物資産と子会社株式・関連会社株式に分かれることになります。会社法上は、いずれも分配可能額の範囲内で実施されるものですが、現物配当を実施する場合には、株主に金銭分配請求権を与える場合を除き、株主総会の特別決議が必要になります。会計処理は現物配当を実施する会社と配当を受領する株主の双方を考える必要がありますが、ここでは主として配当受領会社の株主の会計処理を扱いたいと思います。

 

2. 現金配当の会計処理

-株主は配当原資に従って会計処理する

Q:それでは、現金配当の会計処理はどうなりますか。

A(会計士):配当財産が現金の場合、株主は、支払側の配当の原資(利益剰余金/資本剰余金)に従って会計処理します。したがって、留保利益であるその他利益剰余金から配当を受けたときは、投資成果の受け取りとして受取配当金で処理し、払込資本であるその他資本剰余金から配当を受けたときは、投資の払い戻しとして配当対象である有価証券の帳簿価額から減額することになります。

 

配当財産が現金の場合

配当実施会社

配当受領会社

株主資本等変動計算書適用指針7項など

配当適用指針3項から6項および10項から17項

 

(配当受領会社の会計処理のイメージ)

配当原資が利益剰余金の場合

(借)

現金

××

(貸)

受取配当金

××

 

配当原資が資本剰余金の場合

(借)

現金

××

(貸)

有価証券

××

 

ただし、本質的には支払側の配当の原資(利益剰余金/資本剰余金)により、自動的に受取側の会計処理(投資成果の受け取りまたは投資の払い戻し)が決定されるわけではなく、配当財産が現金の場合であっても、一定の場合には、上記とは異なる取り扱いが定められています。

Q:配当原資が資本剰余金であっても株主は受取配当金で処理し、逆に原資が利益剰余金であっても株主は投資の減額として処理すべき場合があるということですね。

A(会計士):はい。まず前者の代表例は、株式移転が実施された場合です。株式移転が行われると持株会社の株主資本は払込資本のみから構成されますが、株式移転前の会社(株式移転後の株式移転完全子会社)に一定の利益剰余金があったとすれば、株主にとっては、それまで存在していた利益剰余金が資本剰余金に切り替わってしまったと考えることができます。このため、持株会社が、その他資本剰余金を原資として配当を実施しても、株式移転がなければ配当原資は利益剰余金であると想定されるような場合には受取配当金で処理することができます。後者の例としては、ある会社を買収したときに、その時点で当該会社に存在していた利益剰余金を原資とした配当(投資後に生じた利益剰余金ではなく、投資前から存在していた剰余金を原資とした配当)が実施された場合が考えられます。

 

3.現物配当の会計処理

-配当資産が子会社株式等以外の現物資産の場合には損益を認識

Q:次に本題ですが、現物配当の会計処理はどのようになりますか。

A(会計士):現物配当の会計処理は、配当財産が土地等の現物資産の場合と、子会社株式や関連会社株式といった持分の場合で、会計処理は異なります。

Q:それでは、まず配当財産が現物資産の場合はいかがでしょうか。

A(会計士):事業分離等会計基準では、分配側の原資により、自動的に受取側の会計処理(投資の払戻か投資成果の分配か)が決定されるわけではないという点を踏まえ、現金以外の財産(現物資産)の分配を受けた株主の会計処理は、交換等の一般的な会計処理の考え方に準じるものとしています。もともと現物配当は、現金配当と異なり、企業集団内や合弁会社により実施されるなど少数の株主がビジネス上の理由からグループ内の資産・負債の移動のために利用するなど、その利用局面は限定されています。そしてそれは合併や会社分割とも経済的には類似しています。例えば親会社が子会社を吸収合併する取引は、経済的には子会社がすべての資産・負債を親会社に現物配当したともいえるでしょうし、子会社の資産・負債の一部を親会社に無対価で会社分割したり、分割型会社分割で移転するような取引は、子会社の財産の一部を現物配当した、ともいえるので、合併や会社分割の会計処理との整合性も大切になるわけです。

Q:なるほど。それでは、まず借方側の受け取った現物資産にはどのような金額を付すのでしょうか。

A(会計士):以下では現物配当が利用される大半のケースである企業集団内の現物配当に限定して話を進めます。まず、先ほどご説明した趣旨から、株主が現物資産の分配を受けた場合、それは企業結合には該当しないものの、共通支配下の取引に準じて、移転元の帳簿価額(現物資産が子会社から親会社に移転するため、連結財務諸表上の帳簿価額)を付すことになります。

Q:次に貸方側ですが、投資先の株式(子会社株式)のうち「実質的に引き換えられたものとみなされる額」を算定するのですよね。

A(会計士):はい。この金額の算定が現物配当の会計処理のポイントになります。なぜなら借方の金額は上記のとおり、事前に決定されているので、「実質的に引き換えられたものとみなされる額」の算定結果により、差額として算定される損益(現物配当差益)が自動的に計算されるからです。

これまで保有していた株式のうち「実質的に引き換えられたものとみなされる額」(会計上、保有株式の帳簿価額から減額すべき額)は、分配を受ける直前の当該株式の適正な帳簿価額を合理的な方法によって按分し算定することになります。合理的な方法とは、適用指針295項に定める次のような方法が考えられ、実態に応じて適切に用いることになりますが、通常、3種類考えられる以下の方法のうち、③の方法が最も合理的な結果が得られることになります。これは受け取る現物資産に移転元の帳簿価額を付すことになるため、貸方側の減少させる子会社株式等も帳簿価額をベースに算定した方が合理的な結果が得られるためです。

① 関連する時価の比率で按分する方法(資産・負債の時価比率)

② 時価総額の比率で按分する方法(のれん価値を含む事業の時価比率)

③ 関連する帳簿価額(連結財務諸表上の帳簿価額を含む)の比率で按分する方法(資産・負債の簿価比率)

 

配当財産が現物資産の場合

配当実施会社

配当受領会社

自己株式適用指針10項、38項

<子会社からの現物配当(連結簿価)>
事業分離等会計基準52項、35項、14項
適用指針297項、295項など

<子会社以外からの現物配当(時価)>
事業分離等会計基準52項、36項、37項など
適用指針297項、295項など

 

(配当受領会社の会計処理のイメージ)

(借)

現物資産

連結簿価

(貸)

子会社株式
現物配当差益

※簿価
差額

※:引き換えられたものとみなされる額

-配当財産が子会社株式等の場合には損益は認識されない

Q:次に配当財産が子会社株式または関連会社株式の場合はいかがでしょうか。

A(会計士):子会社が保有する孫会社株式または関連会社株式を親会社に現物配当した場合には、上記の現物資産のように移転元の帳簿価額(連結財務諸表上の帳簿価額)を付すのではなく、適用指針295項に従い、親会社は子会社株式のうち「実質的に引き換えられたものとみなされる額」を算定し、その金額で受け取った孫会社株式または関連会社株式の帳簿価額とします。つまり損益は認識されないことになります。

Q:なぜ配当財産が、現物資産の場合と子会社株式等の場合とでは異なる取り扱いをするのでしょうか。

A(会計士):会計は、受領した財産が、現物資産であれば投資の回収として、投資額との差額を損益とみることになりますが、子会社株式の場合には、いわば現物資産が入った箱のようなものとしてとらえているからです。例えば、子会社が孫会社株式を現物配当した場合には、縦に積まれていた箱を横に並べ替えただけで損益は生じない、というイメージでしょうか。

Q:なるほど。箱の中身を取り出して、現物資産を受け取ったら損益が生じるけど、箱を並べ替えただけなら損益は生じない、つまり投資の継続として処理するわけですね。

配当財産が子会社株式または関連会社株式の場合

配当実施会社

配当受領会社

自己株式適用指針10項、38項

事業分離等会計基準49項
適用指針203-2項(2)③
適用指針257項
適用指針294項、295項

 

(配当受領会社の会計処理のイメージ)

(借)

現物資産

※2 簿価

(貸)

子会社株式

※1 簿価

※1:引き換えられたものとみなされる額
※2:貸方と同額を付す(損益は生じない)

4.株主優待制度

-現物配当ではなく、株主管理コストとして販管費として会計処理

Q:ちなみに、上場会社の中には株主優待制度を採用している会社も多くあります。これは一種の株主への現物配当のようにも思うのですが、会計処理はどのようになるのでしょうか。

A(会計士):現物配当の会計処理は、あくまで会社法の手続きに従い、剰余金の分配を行った場合を対象としています。株主優待制度はこの手続きに従った剰余金の分配ではなく、一般的には株主の管理コストとして販売費および一般管理費として適切なタイミングで費用処理されていると思います。

Q:本日はありがとうございました。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A会計実務研究会 萩谷和睦 森山太郎

(2019.11.8)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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第2回 企業結合会計基準等の公開草案の解説
第3回 逆取得となる株式交換の会計処理
第4回 持分変動と税効果会計
第5回 会計基準と会社法との関係
第6回 価格調整の会計処理
第7回 逆さ合併の処理
第8回 100%子会社への無対価会社分割とその子会社株式の譲渡の会計処理
第9回 取得原価の配分~引当金~
第10回 共通支配下の取引における繰延税金資産の回収可能性の考え方
第11回 現物配当の会計処理

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