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M&A会計 企業結合の実務 第20回

株式を相互に保有する会社同士の組織再編(合併)の会計処理

企業結合の実務をQ&A形式でわかりやすく解説します。今回は、吸収合併を前提にした自己株式や抱合せ株式の会計処理について説明します。

Q:実務では、資本提携により緩やかな連携をし、相互の信頼関係を築き上げたうえで、合併などの組織再編が実行されるケースを見かけます。このような資本提携後に組織再編が実行されると、自己株式や抱合せ株式の会計処理が必要になります。

今回は、吸収合併を前提に、自己株式や抱合せ株式の会計処理について伺いたいと思います。

 

1. 「取得」における合併の会計処理

消滅会社(被取得企業)が存続会社の株式(合併後の自己株式)を保有している場合-消滅会社が保有している他の資産と同様、時価を付す

Q: 「取得」となる合併において、消滅会社が存続会社の株式を保有している場合の会計処理はどのようになりますか。ここでは存続会社が取得企業になる通常の合併を前提とします。

A(会計士):消滅会社(被取得企業)が保有している存続会社(取得企業)の株式は、合併後の存続会社では自己株式になるわけですが、合併前は消滅会社の資産であって、それは消滅会社が保有する他の資産と何ら変わりません。消滅会社は合併前に存続会社の株式を処分すれば現金化もできるわけですので。したがって、「取得」の会計処理は、原則通り、取得原価の算定では、交付する株式に「合併効力発生日の時価」を付し、取得原価の配分では、消滅会社(被取得企業)から受け入れる存続会社の株式に「合併効力発生日の時価」を付し、合併直後に当該価額で自己株式に振替えます。つまり、存続会社では、受け入れる存続会社の株式(株主資本から控除)と交付する存続会社の株式(株主資本の増加)ともに合併効力発生日の時価を付すことになります。
 

存続会社(取得企業)が消滅会社の株式(抱合せ株式)を保有している場合-抱合せ株式について個別上は取得原価を保持し、連結上は時価を付して差額を損益に計上する

Q: 次に合併前に、存続会社が消滅会社の株式を保有している場合の会計処理はどのようになりますか。

A(会計士):段階取得の会計処理(「取得」における抱合せ株式の会計処理)ですね。消滅会社の買収に関する取得原価の算定方法は、個別上の処理と連結上の処理とで異なります。個別上の取得原価は、既に保有している消滅会社の株式の「適正な帳簿価額」に合併時に新たに交付する株式の「合併効力発生日の時価」を加算して算定します。他方、存続会社が合併後も連結財務諸表を作成する場合には、既に保有している消滅会社の株式と新たに交付する株式ともに「合併効力発生日の時価」を付すことになります。この結果、既に保有していた消滅会社の株式の「適正な帳簿価額」(持分法を適用している場合には持分法評価額)と「合併効力発生日の時価」との差額は、段階取得に係る損益として特別損益に計上されます。なお、当該差額は、税効果会計上、連結財務諸表固有の一時差異に該当し、子会社に対する投資に係る一時差異の取り扱いに従って会計処理することになります(税効果会計適用指針107項)。

Q:個別上の処理と連結上の処理は、なぜ異なるのでしょうか。

A(会計士):個別上は合併前の資本提携時代から保有している株式は合併後も継続しているものとして損益は計上しませんが、連結上は合併によりその株式の性格が変わったものと見て、資本提携時代の投資については投資の清算の会計処理を行い、損益を計上しているわけです。すなわち、まったく異なる考え方で会計処理をしているわけです。連結上は支配を重視する国際的な会計基準との整合性を図ることを優先したものの、そのような会計処理は我が国では必ずしも賛同を得られているわけではないので、個別上はこれまでの考え方を踏襲した、ということになります。

Q:ちなみに、存続会社が保有する消滅会社の株式(抱合せ株式)に、存続会社の株式を割り当てることはできますか。

A(会計士):合併では消滅会社の株式の保有者に存続会社の株式を割り当てることが必要になりますが、抱合せ株式に存続会社株式を割り当てると自分自身に自己の株式を割り当てることになるため(自己株式の原始取得)、株式の割り当てはできません。また、消滅会社が保有する消滅会社の株式(合併前の消滅会社の自己株式)にも存続会社の株式を割り当てることはできません(会社法749条1項3号)。この取り扱いは、グループ内再編の場合でも同様です。

 

2. 「共通支配下の取引」における合併の会計処理

親会社が子会社を吸収合併する場合-投資の回収差額は「抱合せ株式消滅差損益」

Q:次にグループ内再編、すなわち「共通支配下の取引」となる吸収合併の会計処理について伺います。まず、親会社が子会社を吸収合併する場合、つまり合併前に存続会社(親会社)が消滅会社(子会社)の株式(抱合せ株式)を保有している状態になるわけですが、会計処理はどのようになりますか。

A(会計士):親会社が子会社を吸収合併する場合には、親会社は子会社の資産・負債に親会社にとっての「連結財務諸表上の帳簿価額」を付して受け入れることになります。そのうえで当該資産・負債の差額(持分対応額)と子会社株式の帳簿価額との差額を抱合せ株式消滅差損益として特別損益に計上します。この差額(損益)は親会社にとっては子会社投資の成果といえますね。

Q:もし、合併前に子会社が親会社株式を保有していたら、どのように会計処理しますか。

A(会計士):子会社が保有する親会社株式は、先程と同様、子会社にとっては資産そのものですから、親会社では子会社が保有する他の資産と同様、「連結財務諸表上の帳簿価額」で受け入れ、合併直後にその価額で自己株式に振り替えます。
 

子会社が親会社を吸収合併する場合-合併後の子会社の純資産額に留意

Q:逆に子会社が親会社を吸収合併した場合はどのようになるのでしょうか。

A(会計士):子会社(存続会社)は、合併前に親会社で付された「適正な帳簿価額」により資産・負債を受け入れます。そして、子会社では、親会社が保有していた子会社株式を他の資産と同様、「適正な帳簿価額」により受け入れ、合併直後にその価額で自己株式に振り替えることになります。

ただここで留意すべき点があります。親会社が当該子会社を買収により取得していると、当該子会社株式の適正な帳簿価額には多額ののれん相当額が含まれていることがあります。このようなケースで子会社を存続会社とすると、子会社では自己ののれん相当額を含んだ価額で子会社株式を受け入れて自己株式に振り替える(すなわち株主資本から控除される)ため、合併後の純資産が大きく減少したり、場合によっては債務超過となることもありえます。

Q:ある会社を買収する目的で設立したSPCがあり、買収完了後、その対象会社(事業子会社)がSPC(親会社)を吸収合併する場合には、特に留意が必要ですね。
 

子会社と他の子会社との合併(兄弟会社同士の合併)-「適正な帳簿価額」により資本の調整として処理する

Q:最後に、子会社が他の子会社を吸収合併した場合にはどのようになるのでしょうか。グループ内で株式の持ち合いをしているケースも結構ありますよね。

A(会計士):相互に持ち合っている兄弟会社同士の組織再編は、次の2つのパターンがありますね。

① 子会社(存続会社)が他の子会社(消滅会社)の株式(抱合せ株式)を保有している場合

② 他の子会社(消滅会社)が子会社(存続会社)の株式(合併後の自己株式)を保有している場合

いずれの場合にも、兄弟会社同士の合併の会計処理は、「適正な帳簿価額」を基礎として処理する、という点がポイントになります。

まず、①ですが、存続会社は、消滅会社の資産・負債を「適正な帳簿価額」で受け入れたうえで、抱合せ株式の「適正な帳簿価額」を次のいずれかの方法により処理します。

ア 消滅会社から受け入れた資産・負債の差額から抱合せ株式の簿価を控除して、その差額を払込資本(資本金または資本剰余金)として処理する。

イ 消滅会社の株主資本をそのまま承継したうえで、抱合せ株式の簿価をその他資本剰余金から控除する。

次に②については、存続会社の株式は消滅会社にとっては資産の1つですから、「適正な帳簿価額」で受け入れたうえで、当該価額で自己株式に振り替えることになります。

Q:株式の持ち合いがある組織再編の会計処理は混乱しがちですが、組織再編の会計処理の枠組みに従うこと、そして合併前に消滅会社が保有する存続会社の株式は資産と考えて会計処理することが大切ですね。

本日はありがとうございました。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A会計実務研究会 萩谷和睦 森山太郎

(2020.9.10)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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シリーズ記事一覧

M&A会計 企業結合の実務(記事一覧)

第1回 のれんの評価と監査報告書の記載
第2回 企業結合会計基準等の公開草案の解説
第3回 逆取得となる株式交換の会計処理
第4回 持分変動と税効果会計
第5回 会計基準と会社法との関係
第6回 価格調整の会計処理
第7回 逆さ合併の処理
第8回 100%子会社への無対価会社分割とその子会社株式の譲渡の会計処理
第9回 取得原価の配分~引当金~
第10回 共通支配下の取引における繰延税金資産の回収可能性の考え方
第11回 現物配当の会計処理
第12回 100%子会社の合併
第13回 子会社から親会社に会社分割より資産を移転した場合の会計処理
第14回 何が企業結合取引の一部になるか(条件付支払のケース)
第15回 取得関連費用と事業分離関連費用の会計処理
第16回 新型コロナウイルス感染症のM&A会計への影響
第17回 IFRSによる「連結財務諸表上の帳簿価額」
第18回 連結範囲と存続会社が承継する帳簿価額
第19回 投資先の売却前に配当により資金回収を行う場合の会計処理と剰余金の分配規制
第20回 株式を相互に保有する会社同士の組織再編(合併)の会計処理

 

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