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M&A会計 企業結合の実務 第21回

複数の取引が段階的に予定されている場合の会計処理~別個の取引か一体の取引か~

企業結合の実務をQ&A形式でわかりやすく解説します。今回は、ある企業結合または事業分離が段階的に実施された場合、それらを取引の順番に従って会計基準にそのまま当てはめて処理するのか、それとも複数の取引を1つの取引とみなして処理をするのか、という点について説明します。

Q:本日は、ある企業結合または事業分離が段階的に実施された場合、それらを取引の順番に従って会計基準にそのまま当てはめて処理するのか、それとも複数の取引を1つの取引とみなして処理をするのか、という点について伺いたいと思います。例えば、ある会社の買収に当たり、将来的には100%子会社化したいが、まずは51%子会社とし、2年後を目途に完全子会社化することを計画しているような場合が典型例となります。

 

1. 会計基準の定め

企業結合会計基準、事業分離等会計基準、資本連結実務指針に関連規定が定められている

A(会計士):企業結合会計基準では、次の規定があります。

企業結合会計基準

・複数の取引が1つの企業結合を構成している場合には、それらを一体として取り扱う(5項)。
・通常、複数の取引が1事業年度内に完了する場合には一体として取り扱うことが適当であると考えられるが、1つの企業結合を構成しているかどうかは状況によって異なるため、当初取引時における当事者間の意図や当該取引の目的等を勘案し、実態に応じて判断することとなる(66項)。

また事業分離等会計基準でも4項、62項で同様の規定があります。
さらに関連する規定としては、資本連結実務指針において、次の規定があります。

 資本連結実務指針

 ・複数の取引が行われる場合、通常、取引の手順に従って、それぞれの取引について会計処理が行われる。複数の取引が一体として取り扱われるかどうかは、事前に契約等により複数の取引が一つの企業結合等を構成しているかどうかなどを踏まえ、取引の実態や状況に応じて判断するものと考えられる(7-3項)。


Q:
①個々の取引として処理する方法と②一体の取引として処理する方法の2つがあるわけですね。先程の例のように当初取得時は51%、2年後に100%化を予定している場合には、どのような会計処理のイメージになりますか。

A(会計士):①の方法では、支配を獲得した時点で「取得」の処理が適用され、51%持分に対応したのれんが計上されます。そして、2年後に49%を追加取得したときは、支配が継続している中での持分変動による差額は資本剰余金の増減として処理されるので、「差額」はのれんの追加計上ではなく、資本剰余金の増減として処理されます。
他方、②の方法の場合には、支配獲得後に追加取得した持分に係るのれんについては、支配獲得時にのれんが計上されていたものとして算定し、追加取得時までののれんの償却相当額を追加取得時に一括して費用として計上されます(資本連結実務指針7-4項)。

Q:のれんは20年以内の効果の及ぶ期間で償却する、すなわち後年度の負担になりますので、51%ベースののれんなのか、100%ベースののれんなのかは重要な問題ですね。また、追加取得分がのれんか資本剰余金かにより、純資産額にも重要な影響を与えることになりますね。

A(会計士):はい。以上は段階取得のケースですが、段階売却の場合、例えば、100%売却することを予定しつつ、最初に49%持分を売却して(売却後は51%子会社)、その後、51%を全て売却する、という場合にも、支配が継続している中での持分変動による差額は資本剰余金で処理されますので、これを①の方法(売却損益は51%部分を売却した取引について計上)で処理するのか、②の方法(売却損益を全ての持分について計上)で処理するのかによって、損益に重要な影響を与える場合がありますね。
 

2. 見極めのポイント

当事者間の事前の合意の有無

Q:①の方法(別個の取引として処理する方法)と②の方法(一体の取引として処理する方法)のどちらが該当するのかの判断ポイントはどのようなものですか。

A(会計士):資本連結実務指針では「事前に契約等により複数の取引が一つの企業結合等を構成しているかどうか」と記載されていますが、当初の取引時点で、取引当事者間で複数の取引が事前に合意されていたかどうかがポイントになると思います。逆にいえば、当初の取引時点では、2回目の取引を想定しつつも、2回目の時点で別途判断をする、ということであれば、原則どおり、取引の順番に従って会計処理する①の方法になると思います。

Q:例えば、旧オーナーから51%の株式を取得した場合、残りの49%を将来どのようにするのか、という点が議論されることがあります。この場合、買収者に優先買取権が付された場合はどのようになりますか。

A(会計士):取引の枠組み全体を考える必要がありますが、優先買取権だけでは直ちに一体取引とはならないと思います。2年後に旧オーナーは売却先として最初に声をかけてくれるとしても、買収者に買取義務があるわけではありませんし、価格交渉が成立しない場合もありますので。

Q:その他、留意すべき点はありますか。

A(会計士):残りの49%株式を売却する側に有利な固定価格で買い取る権利を有している場合には、事実上、当初の株式の取得時点で残りの株式の売買も合意していると評価されることが多いと思います。このほか、組織再編が2段階で行われる場合、1回目の取引終了時点では当事者間で有利・不利が生じても、2回目の取引を実行することにより、全体として有利・不利が解消されるとすれば、2つの取引は事前に当事者間の合意があると考えられますね。このような取引価格の調整、売り戻し、買い戻しの有無や取引ごとにみたときの経済合理性なども踏まえ、総合的に判断することが求められることになると考えます。

3. 国際会計基準における取り扱い

IFRS10号「連結財務諸表」でも同様の定めがある

Q:ちなみに、このような取り扱いは、国際会計基準でもあるのでしょうか。

A(会計士):国際会計基準でも、次のように、複数の取引を単一の取引として扱う場合があるとされており、次の定めがあります。

IFRS 第10号「連結財務諸表」
 支配の喪失

B97 親会社が、複数の取決め(取引)の中で子会社に対する支配を喪失する場合がある。しかし、時には、状況により複数の取決めを単一の取引として会計処理すべきことが示されることもある。その取決めを単一の取引として会計処理すべきかどうかを決定する際に、親会社は、取決めの諸条件と経済的影響のすべてを考慮しなければならない。次のいずれかの事実は、親会社が複数の取決めを単一の取引として会計処理すべきであることを示している。

(a) 同時に、又は互いを考慮して行われた。
(b) 全体的な商業的効果の達成を意図した単一の取引を構成している。
(c) 1つの取決めの発生が、少なくとももう1つの別の取決めに左右される。
(d) 1つの取決めが、それ単独では経済的に正当化されないが、他の契約と一緒に考慮した場合には経済的に正当化される。例としては、株式の売却が市場価格より低い価格で行われ、その後の売却が市場価格よりも高い価格で行われる場合である。


Q:
なるほど。(a)~(d)に該当するということは、当初の契約時点で、次の契約を確約しているようなもので、当事者間で事前の合意があったと考えることもできますね。

 

4. 他の会計基準での取り扱い

収益認識会計基準でも「契約の結合」という規定がある

Q:このような取り扱いは、組織再編だけに適用される特別な処理なのでしょうか。

A(会計士):そうではありません。もともと会計は経済実態を反映するように処理しますので、個々の取引をそのまま会計基準に当てはめて処理すると、明らかに実態に合わないと考えられる場合には、それを修正するような規定があります。

Q:例えばどのようなものがありますか。

A(会計士):2021年4月以後開始年度から適用される収益認識会計基準では、次の規定があります。

収益認識会計基準

(2) 契約の結合
27. 同一の顧客(当該顧客の関連当事者を含む。)と同時又はほぼ同時に締結した複数の契約について、次の(1)から(3)のいずれかに該当する場合には、当該複数の契約を結合し、単一の契約とみなして処理する。

(1) 当該複数の契約が同一の商業的目的を有するものとして交渉されたこと
(2) 1つの契約において支払われる対価の額が、他の契約の価格又は履行により影響を受けること
(3) 当該複数の契約において約束した財又はサービスが、第32項から第34項に従うと単一の履行義務となること


通常、収益は契約単位で収益を認識しますが、例えば、あるソフトウェアの受注に当たり、総額が合意され、その開発工程が密接不可分である場合において、フェーズごとに細かく分割して契約を締結したとしても、経済実態としてはそれらの契約を1つとみなして(全体を1つの会計処理の単位と考えて)、収益認識会計基準を適用することになります。いずれにしても、別個か一体か、という論点は事実と状況を踏まえた実質判断が必要になります。

Q:本日はありがとうございました。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A会計実務研究会 萩谷和睦 森山太郎

(2020.10.9)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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