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合併対価の柔軟化

ビジネスキーワード:ファイナンシャルアドバイザリー

ファイナンシャルアドバイザリーに関する用語を分かり易く解説する「ビジネスキーワード」。本稿では「合併対価の柔軟化」について概説します。

合併対価の柔軟化

従来、会社の吸収合併において、消滅会社の株主に対して交付される対価は原則として存続会社の株式に限定されていた。しかし、会社法の施行により、合併の対価としては、現金や株式およびその他の資産(社債、新株予約権など)が認められることとなった。これが「合併対価の柔軟化」である。

また、従来、子会社が親会社の株を保有することが禁じられていたが、会社法においては被合併会社の株主に対して発行する合併会社の親会社株式の総数を上限として、合併会社である子会社に親会社株式の取得も併せて認められることとなった。

合併対価の柔軟化により広がったM&A

合併対価の柔軟化が行われたことにより、以下のスキームが可能となった。

1) 現金合併

消滅会社の株主に金銭のみを対価として交付する合併である。現金合併においては、組織再編の前後で株主の構成が変化しないため、会社の経営状況を維持したまま組織再編を行うといったメリットが存在する。また、消滅会社の株式を買い取って完全子会社化した後に吸収合併の手続を進めるなどといった手間を掛ける必要もない。

2) 三角合併(三角株式交換)

合併対価の柔軟化された当時、最も注目されたスキームが三角合併である。三角合併とは、消滅会社の株主に対して交付する対価として、存続会社の株式ではなく存続会社の親会社の株式を交付する合併を指す。三角合併が可能となったことで、外国企業が日本企業を子会社化する動きが増加すると予想された。一般的に外国企業の日本法人は日本では上場していないケースが多く、株式が流動性に乏しいために株式を交付して合併を行うには適していないことが多い。しかし、三角合併のスキームを用いることで、海外で上場している親会社の株式を対価とすることが可能となり、流動性の問題を解消できることから、外国企業による日本企業の子会社化が容易になると注目されたのである。

しかしながら、現実には日本国内において三角合併を利用した外国企業の日本企業の買収は例が少なく、グループ内の組織再編を目的に三角株式交換を利用するケースの方が多く見受けられている。

三角株式交換の具体的スキーム

合併対価の柔軟化に伴い可能となったスキームのうち、ここでは三角合併などに用いる三角株式交換の具体的なスキームを紹介したい。

1.親会社であるA社がA社株式を100%子会社であるB社へ付与

2.B社は、A社株式を合併対価として、C社を吸収合併(C社の株主にA社株式を交付)

3.B社とC社の合併会社はA社の100%子会社となり、C社の株主は新たにA社の株主となる

図表1:三角株式交換の仕組み

三角合併の利用局面

合併対価の柔軟化により、クロスボーダーのM&Aにおける対日投資への選択肢が広がった一方で、先にも述べたが、日本国内において三角合併を利用した外国企業の日本企業の買収は例が少ない。以下に3点程要因を記載したい。

1.株式交換による三角合併を実行するには、取締役会決議に加え、消滅会社の株主総会で議決権の3分の2以上が賛成する「特別決議」が必要である。従って、株主の賛成を得ることが容易ではない。株の購入により多数の議決権を集めるか、もしくは株主に対し、利益還元や自社の戦略・実績を積極的にアピールすることが必要となると考えられる。

2.外国企業の株式を取得することに対して日本の株主に抵抗がある点も挙げられる。海外で上場している外国企業の株式を用いての三角合併であれば、流動性の低いその日本の子会社の株式を交付される場合に比べて流動性は高くなるが、株主の立場においては様々な不便を伴う可能性も多いであろう。また、そのために、株主が株式交換を行う前に市場で売却してしまうことで株価が急落する可能性なども考えられる。

3.インバウンドのM&A自体が低調であり、対日直接投資が伸びていない状況にある。

三角株式交換を利用した組織再編

一方、グループ内の組織の再編や親子間の資本関係を整理する目的で三角株式交換を利用した組織再編が見受けられている。組織再編局面においては、子会社持分比率の低下を防ぐことができるというメリットがあげられよう。自社の100%子会社と他社を合併させる場合に、従来では子会社の株式を交付する必要があったため、100%の出資比率が低下してしまうという問題点があった。しかし、三角株式交換を利用することで100%の親子関係を維持した上で子会社の合併を行うことが可能となった。これはガバナンス上、完全子会社の関係を維持したい場合、あるいは連結納税制度を導入している場合にメリットが発揮される。

このように、三角株式交換のスキームを適用することでそのメリットを享受できるかどうか、その目的に照らし合わせ、買収候補先の株主の構成状況や、自社の知名度の向上、ストラクチャーの検討などを事前に行うことが必要となるであろう。

なお、本文中の見解にかかわる部分は、筆者の私見であることをあらかじめご了承頂きたい。

参考文献

伊藤邦雄著「現代会計入門 第9版」

EMZ税理士法人著「最新会計基準」

有限責任監査法人トーマツ著「組織再編ハンドブック」

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