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運転資本(Working Capital)

ビジネスキーワード:ファイナンシャルアドバイザリー

ファイナンシャルアドバイザリーに関する用語を分かり易く解説。本稿では「運転資本(Working Capital)」について概説します。

運転資本とは

運転資本(Working Capital)とは、営業活動に投下されている資金をいう。運転資本に含められる項目は企業や業界によってさまざまだが、売上債権、棚卸資産、仕入債務、その他流動資産、その他流動負債が含められることが一般的である。

運転資本=(売上債権+棚卸資産+その他流動資産)-(仕入債務+その他流動負債)

企業の営業活動においては、通常、原料や商品の購入時点と購入代金の支払時点、モノやサービスの販売時点と販売代金の回収時点が異なる。これは、損益計算書において売上高や営業利益が計上される時点と、営業活動に投下した資金の回収時点(貸借対照表上の現預金が増加する時点)は通常異なり、従って、売上高が増加したからといって、即、現預金が増加し、これを元手にさらに営業活動を拡大できるとは限らない。大口の受注を獲得し、売上高や営業利益の増加を達成できたとしても、販売代金の回収が進まずに原料費や給与、税金、借入金等の支払が先行し続ければ、資金繰りに窮して経営状況の悪化を招くこともありうる。また、企業では季節的要因によって売上高が各月で異なる場合が多く、それに伴い月次の運転資本も年間を通して変動する。

以下で示すとおり、運転資本の増加(減少)は現預金の減少(増加)要因となる。

図表1:A社における月次運転資本と現預金残高の推移

(図1)A社では、10/4月から10/6月にかけて運転資本は減少し、現預金は増加している。一方で、10/7月から10/9月にかけては、運転資本が増加し、現預金は減少している。
このように、運転資本の増減は現預金の増減要因となるため、各月での資金需要を把握し、また、営業活動からどの程度の資金が生み出されるかを適切に把握するためには、運転資本の管理が必要不可欠となる。 

M&Aにおける運転資本分析のポイント

(1) 分析の意義

 通常、M&Aにおいては、運転資本の水準が、買収価額決定の基礎となる企業価値に影響を与える。企業価値評価の方法として広く用いられているディスカウントキャッシュフロー法(DCF法)は、企業が将来生み出すと予測されるフリーキャッシュフローを加重平均資本コスト(WACC)で割り引いて算出する方法である。フリーキャッシュフロー(FCF)は簡便的に(税引後営業利益+減価償却費±運転資本増減額)-投資額と計算されることがあり、この場合、将来年度における運転資本の増減はFCFを通じて企業価値に影響を与える。つまり、運転資本の水準が減少すると企業価値が高く評価されるため、売掛金の回収サイトの短縮や棚卸資産の圧縮を行うなどにより運転資本の水準が減少すると、企業の価値の増加につながる。

(2) 財務デューデリジェンスにおける運転資本の分析

 企業価値に影響を与える運転資本はあくまで将来年度のものであるものの、企業価値算定の基礎となる運転資本水準が企業実態を反映しないものであれば、将来年度において予定している運転資本の水準についても画餅となってしまう。そこで、財務デューデリジェンスにおいて、直近年度を含む過去の運転資本が企業の状況に照らして適正な水準となっているかを調査する必要がある。

例えば、直近年度の運転資本の増加がスポットの大口受注に起因するものである場合、当該運転資本の水準は企業の本当の実力を反映するものとなっていない。よって、一定期間における運転資本の推移を分析して、適正水準を把握する必要がある。

また、運転資本項目のなかには、長期間滞留している売掛金や、販売不可能となっている棚卸資産、仕入先から支払猶予を受けている買掛金等が含まれていることがある。これらは、正常な営業循環取引にはならない項目であるため、企業の実態を示す正常な運転資本の水準を算定するためには、これらの非正常営業循環項目は調整(正常化)する必要がある(図表2)。なお、どのような項目を調整するかという点については企業の実態を把握し判断することが必要である。

図表2:運転資本の調整例

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