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人材のパフォーマンスをいかに高めるか

フューチャーワーク時代に求められる企業の仕組み

「変革する力」を高め企業変革を実現するために、企業は社員個人のパフォーマンスを最大化する仕組み作りに取り組む必要がある。経営層や経営企画が音頭を取って4つの仕組みを構築し、社員個人の能力を高める支援と、能力を高いアウトプットにつなげる支援の2つを行い、人材パフォーマンス変革を強力に推進していくことが重要となる。

人材のパフォーマンス変革が企業変革の最大の鍵

事業環境が急速に変化する中、「変革する力」は従来に増して企業に必要不可欠なケイパビリティとなっている。その「変革する力」を高める上で、人材が最も重要な要素の一つであることは疑いようがないだろう。優秀な人材の獲得・育成は、企業の最重要課題となっている。

その一方で、企業の変革現場では人材が変革推進の大きな障壁・ボトルネックになっている。経営陣がいくら素晴らしい戦略を立てても、人材のスキルやマインドセットが戦略に追いついていかない光景は、多くの現場で見受けられる。理由は簡単だ。戦略の変化ほど急速に、人は変わることができないからである。社内の人材だけでは変革が難しいと腹をくくり、外部の人材獲得に積極的に乗り出す企業も増えているが、多くの企業はいまだに人材の融合・活性化に苦労している。

社内の人材を変革し活用するための方策の一つは、「個を活かす仕組み」の整備・強化だ。働き方改革の推進に合わせ、企業は社員個人に目を向け、新しい働き方を認め始めている。副業の解禁はその代表例だ。しかし今のところ、「個を活かす仕組み」は、個人と会社の生産性やパフォーマンスを大きく高めるまでは至っていない。こうした状況を踏まえると、企業は現在の「個を活かす仕組み」からさらに一歩踏み込み、「個のパフォーマンスを最大化するための仕組み」作りに取り組む必要がある。

社員の成果を最大化するために、企業が構築すべき4つの仕組み

詳しくは、自著「フューチャーワーク」を参照頂きたいが、個人がパフォーマンスを最大化し短期間で成果を上げるためには、2つの要素が重要となる。それは「①能力を高めること」と、「②能力を最大限引き出し、アウトプットや高いパフォーマンスにつなげる力を磨くこと」だ。

これを企業の視点から捉えれば、「社員個人の能力を高める支援」と、「能力をアウトプットや高いパフォーマンスにつなげる支援」の2つが重要となる。企業が個人に対しこれらの支援を適切に行うことができれば、会社にとっても個人にとってもメリットが生まれ、両者のWin-Win関係を構築することができる。 そのために、企業は今後以下4つの仕組みを構築することが重要となる。
 

仕組み1:社員個人の「ありたい姿・なりたい姿」を描く支援をする

社員が高い成果やアウトプットを生み出すためには、個々の強みを活かすことが不可欠となる。そのために、会社が個人のことを深く知ることが大切だ。こう書くと、「会社は社員のことを充分理解しているし、知ろうとしている」といった返答がくるだろう。しかし、現在の社員が抱えている本質的課題は、社員個人が「自らがどうなりたいのか」がわからず、自分のキャリアに迷っていることだ。

変化の激しい時代に会社が行うべきは、社員個人が「自らを捉え直し理解することを手助けする」ことだ。個人が自分自身をより深く理解できれば、パフォーマンスを発揮しやすくなることは明白だ。同時に、会社も個人の強みや能力を活かしやすくなるはずである。

そのためにも、コーチングやキャリアカウンセリングを専門的に活用することで、社員ひとりひとりが何を一番大切にしており、「ありたい姿・なりたい姿」はどのようなものか、個人の価値観を炙り出す支援を行うことが大切だ。ここでいう「ありたい姿」とは、「今」自己実現したいと考える自分の姿のことを指している。また「なりたい姿」とは、「未来」で自己実現したいと考える自分の姿だ。

既に海外では、コーチングは個人のキャリア形成・能力形成を支援するツールとして積極的に活用されている。日本企業も今後はコーチングを戦略的な手法として捉え、企業変革や人材変革に活用していくことが大切になる。
 

仕組み2:個人の「ありたい姿・なりたい姿」と企業の求める人材像を一致させる

個人にとっての会社での一番の関心事は、自らの「ありたい姿・なりたい姿」が、仕事・業務の中でどうすれば満たせるかということだ。仕事・業務を通じ自己実現ができ欲求が満たせると思えば、会社や職場への帰属意識も高まり、やる気も高まるだろう。逆に、自己実現が仕事・業務を通じ満たせないと感じれば、個人は会社や職場からはすぐに離れてしまう。

個人の欲求が仕事・業務を通じ満たせると感じてもらう一番の方法は、個人が「ありたい姿・なりたい姿」を実現するために身に付けたいスキルと、会社が必要とし育てたい人材像のスキルが一致していることを、具体的な形で示すことだ。そのために、会社は以下3つの項目を具体的に設計し、社内外に示し、人材育成や採用活動などにつなげていくことが重要となる。

  • 会社が求める人材像はどのようなものか(会社にいれば、どんな人材を目指すことができるか)
  • 会社が求める人材が必要とする(強化したい)スキルはどのようなものか
  • 人材がそのスキルを身に付けるために、会社としてどのような支援・活動を行うか

こうした取り組みは、社員のモチベーションや帰属意識を高めることにつながり、また採用活動を効果的に行うことにもつながるはずだ。
 

仕組み3:個人の汎用スキル強化を支援する

これまでの企業における能力開発は、トレーニングを通じた学習と、OJTを通じた経験の蓄積が中心だった。これらは、社内の幅広い業務に対応できる「企業ジェネラリスト」を育成するか、特定の専門分野に強い「企業スペシャリスト」を育成することを主眼としていた。しかし人材の流動性が急速に高まる中、これからは新しい能力開発が必要だ。その際の重要な鍵は、企業が社員の「汎用スキル」を高める支援を行うことだ。汎用スキルとは、「自らで意識できており、どの会社や職場でも活用できる、再現性のあるスキル」を指している。

ここで必ず聞かれるのが、「社員の汎用スキルを高めれば、離職が増えるのではないか」という点だ。しかし個人の価値観は変化・多様化し、同じ会社に長く居てもらうことはもはや前提にはできない。また若い人々は、会社を選ぶ際、「より幅広くどこでも通用するスキルが身につくこと」を既に条件に挙げている。それであれば、会社が汎用スキル育成を支援し、この会社にいれば能力が高め続けられることをアピールし、優秀な人材の「今」にフォーカスする方が賢明だ。「この会社にいれば継続的に汎用スキルを高められる」と社員が感じれば、結果的に会社に長く居つづけるだろう。

汎用スキルの中でも重要となるのは、業務を通じた学びの中から共通性を見つけ、別の業務でも使えるようにする「転用力」や、汎用性の高い「さまざまなタイプの思考力」などである。こうした汎用スキルの習得や向上につながるラーニングを企業が社員に提供することで、人材のスキル育成を直接支援していくことが重要である。

 

仕組み4:アサインメントとフィードバック制度を最適化する

個人のパフォーマンスを最大化するために、業務への適切なアサインメントと、パフォーマンスを向上につながる適切なフィードバックが重要なことは、言うまでもないだろう。

業務へのアサインメントについては、社員の「やりたいこと」を実現するためのアサインメントや職務のマッチングに目が向かいがちだ。しかし、パフォーマンスを高めるためには、より多面的なアプローチが重要となる。すなわち、「やりたいこと」の実現のみならず、個人の価値観や有するスキルを踏まえた、個人と業務・プロジェクトの最適な相性を検討し、アサインメントの仕組みを整備していくことが重要である。

またフィードバックについては、最近主流となりつつある、1on 1の活用が効果的だ。ただ現在の1on 1は、一対一で行う、頻度高く行う、といったスタイルの適用に重点が置かれ、フィードバックの質の向上はこれからといった印象だ。個人の成長やパフォーマンス向上にフォーカスし、社員の実際の行動・結果を基に、さらなる成長のために具体的に何に取り組めばよいのかを、社員個人と共有することが重要となる。そのために、まずはマネジメント側の意識やコミュニケーションの質を高めて行く必要があるだろう。

人材パフォーマンス変革は経営イシュー

繰り返しになるが、4つの仕組み作りを柱とした人材パフォーマンス変革は、企業変革の最重要テーマである。経営層や経営企画が音頭を取り、人材像の定義やコーチング・トレーニングの整備、各種制度の設計を、企業変革の一環として推進していくことが重要だ。

そのためにも、人材パフォーマンス変革を現場で主導する社内リーダーを選抜し、リーダー育成を並行して進めていくことが重要となる。人材変革は時間がかかる取り組みであるだけに、定着化が成功に向けた最大の鍵となる。一時的な取り組みに終わらせず、継続的な仕組みや企業文化に昇華させていくための仕組みを整備することで、社員ひとりひとりの価値は高まり、結果として企業の提供価値も高まるのである。

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