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「機能と人材の変革マップ」によるビジネスモデル転換
事業変革を実行し成果創出する為に、業務機能と人材の変革全体像を描く必要がある
日本企業がビジネスモデル変革に失敗するのは、業務機能と人材ケイパビリティを現状のまま放置し、戦略だけ新規重点領域にシフトさせるためである。変革を成功に導くには、「業務機能と人材の全体変革マップ」を策定し、「デジタルハイブリッドコスト構造改革」と「人材のケイパビリティ変革」を推進することが重要となる。「業務機能と人材のゼロベースでの組み直し」を通じ、企業変革を実現し新たな競争優位を目指すべきだ。
なぜビジネスモデル変革は実行につながらないのか
多くの日本企業は、「製品からソリューションへ」、「売り切りからリカーリング型へ」、「リアルからデジタルトランスフォーメーションへ」といったビジネスモデル転換を進めている。新しいビジョンを打ち出し積極的に変革に取り組んでいるが、成果は道半ばといった状況だ。一方、グローバル化・デジタル化の進展により、企業に求められる変革スピードは急速に早まっている。
企業の提供価値をめぐる2つの変化
既存事業・業界で起きている変化を「業務機能の提供価値」視点から捉えると、二つの大きな変化が浮び上がる。一つは、これまで競争優位の源泉だった業務機能の価値が「相対的に」低下していることだ。エレクトロニクス事業を例に取ると、日本企業が得意としてきた、「高品質の商品開発」、「きめ細かなアフターサービス」といった価値(業務機能)の重要性は、デジタル化により製品単価の下落と製品のコモディティ化が進んだことで、顧客にとって「相対的に」低下している。
二つ目は、企業内に蓄積されていない業務機能が、突如「絶対的に」重要な提供価値となったことだ。例えばソリューションビジネスでは、有力なパートナーとWin-Winの関係を構築するために、ビジネスモデルの絵姿を描きパートナーとの関係をマネジする機能が極めて重要となる。しかし、このような業務経験がある人材は社内には存在しないケースが多い。ビジネスモデル転換が進まない真因は、業務機能の提供価値変化に対し、「社内のケイパビリティ」と「新しい業務・オペレーションを有効に機能させる仕組み」が追い付かないことにあるのだ。
変革を実行につなげる4つのアクション
二つの価値変化に対応するため、外部の力を取り入れることは不可欠だが、それは同時に社内人材の不稼働化とモチベーション低下を引き起こす。よって、現行リソースを「最大限かつ最低限」活用しながら、ゼロベースで業務機能と人材の転換・再配置像を描く必要がある。これが、「業務機能と人材の変革マップ」である。変革マップ策定を含め、以下4つのアクション設計が変革推進の鍵となる。
- 業務機能と人材の変革マップ策定
- デジタルを活用したハイブリッドコスト構造改革
- 人材のケイパビリティ転換
- 事業活動数値の見える化
1. 業務機能と人材の変革マップ策定
業務機能と人材の役割を変化させつつ、重要業務にリソースをシフトさせていくため、まずは今後重要となる業務機能は何かを見極めることが重要だ。ソリューションビジネス転換では、製品を売るために「企画し、設計開発し、マーケティングし、流通に流す」従来のバリューチェーンから、「課題を見つけ、課題解決するための製品・サービス群を見出し、それらを最適に組み合わせ、継続的に顧客に提供する」新たなバリューチェーンが必要となる。「顧客利用分析」、「顧客課題把握」、「ソリューションパートナーマネジメント」、「顧客ロイヤリティ管理」といった業務機能が新たな重要ポイントとなる。
どの業務機能が「相対的に」過剰なのか
他方、「相対的に」重要度が低下する機能にも目を背けず可視化することが必要だ。企業は重要度の低下に気づいているが、価値は依然として存在することから、業務機能を縮小する等のブレーキを踏むことをためらう。しかし変革時に企業が見極めるべきは、価値の有無ではなく「相対的な価値」の大きさである。
今後重要となる業務機能は何か
変革マップは、既存・新規の業務機能を「戦略・変革との適合度」と「業務の特性」の二軸にマップして作成する。業務機能を四象限にマッピングすることで、業務機能全体を俯瞰的にとらえることができる。各象限にマップされた業務の位置づけを述べると、左下から、
A: 徹底的に効率化を進め人材の工数を減らす「徹底的効率化業務」
B: 人材の工数を減らし効率化を図りつつ付加価値を維持する「ROI最大化業務」
C: デジタルを活用することで、高度な重要業務を効率化に進める「デジタル活用業務」
D: 人材のスキル転換とデジタル活用により、事業の付加価値を新たに生み出す「付加価値強化業務」
となる。「既存の業務機能」と「目指すべき業務機能」の全体マップを策定した上で、
- 定型業務機能から非定型業務機能へのシフト
- 相対的に重要度の低い業務から高い業務機能へのシフト
の姿を描くことで、業務機能変革の全体像が明確になる。
2. デジタルを活用したハイブリッドコスト構造改革
業務機能変革の変革マップができれば、変革の方向性に沿って業務と人材をシフトさせ、コスト構造を抜本的に転換することができる。重要な業務機能に投資し人材を配置する一方、相対的に重要度が下がる業務機能は徹底的に効率化する。ここで、デジタルの活用が鍵を握る。
日本企業のコスト削減の大半は失敗に終わっている
日本企業のコスト削減は中途半端に行われるケースが多い。デロイトが2017年に行った「APAC Cost Survey」によると、50%の日本企業が部門・機能単位のコスト削減に注力しており、全社的な構造改革を行えていない。削減の目標値も94%の企業が20%以下に設定しており、そのうち77%の企業が目標未達成に終わっている。未達成となる阻害要因として最も多く挙げられたものが、「コスト削減の意味づけが不明瞭」というものだった。
コスト構造改革の新しい潮流
コスト構造改革は新しい潮流を迎えている。それは、「デジタルハイブリッドコスト構造改革」である。これまで、コスト削減と付加価値創出は相反する打ち手とみなされてきたが、デジタルの有効活用により、徹底的に省人化・効率化を図りつつ、業務の高度化・付加価値化も進めることができるようになった。これが、ハイブリッドコスト構造改革である。
業務の効率化・省人化で現在最も注目されているのはRPAである。いまや様々な業務分野で導入・活用が進んでいるが、デロイト トーマツ コンサルティングでは、RPAにAIを組み合わせることで、より高度な作業も自動化できるサービスの提供を始めている。省人化と高度化のハイブリット改革である。
効率化と付加価値化のハイブリッド改革は、アナリティクスの活用、データ基盤/コラボレーション基盤の整備が有効だ。社内のインフラ基盤を共通化しシステムの効率化を高めつつ、個別事業機能がデータ分析や社内アセットの有効活用を進めることで、効率化と付加価値化を両立させる。相対的に重要度の低下した業務機能を、デジタルを活用し価値を保ちつつ効率化し、浮いた原資を注力業務機能に振り向けるのである。
3. 人材のケイパビリティ転換
とはいえ、効率化によって生み出された人材が、そのまま強化業務機能を担えるわけでないのも事実だ。ただ、「重要業務機能を担うには社員のスキルが絶対的に足りない」と声高に嘆く企業ほど、新たに必要となるケイパビリティや社員の能力・スキルを具体化できていない。強化すべき業務と人材スキル双方を、まず体系的に可視化することが重要だ。
人材のスキルの可視化
人材スキル体系化は、「知識・技能」、「思考力」、「行動力」、「マネジメント力」の四つの要素でスキル項目を可視化することがポイントだ。「思考力」とは、課題発見力やロジカルシンキングなど、情報を処理する力だ。「行動力」は、リレーション構築力やプレゼンテーション力など、実行に関わる力を指す。スキルはこれまで「知識・技能」を重視する傾向が強かったが、人材の流動性が高まる中、時間をかけて汎用性のない「知識・技能」を習得させる余裕は企業・個人双方になくなった。デジタルが人間の「知識・技能」習得を代替する方向に向かうだろう。一方、汎用的な「思考力」、「行動力」は、ビジネス上でソリューション・サービスの比率が相対的に高まる中、活用・適応範囲が広がり今後より一層重要となる。
業務と人材の最適なマッチング
前述の通り、強化すべき業務機能を企業が特定したら、その業務機能の運営にどんなスキル項目が求められるか、四つの要素で可視化する。同じく四つの要素で可視化した社員のスキル項目をぶつけることで、人材の最適な配置・転換プラン、並びに業務機能と人材のスキルギャップがどこにあるかを、具体的に明らかにすることができる。スキルの可視化によって、人材の隠れた価値(スキル)を再認識し、新たな業務機能で活躍させるケースも多く生まれるだろう。
また具体化されたスキルギャップ項目は、デジタルを活用し埋めていくことができる。「知識・技能」の部分であれば、Edu Tech等で学習スピードを高めることができる。「思考力、行動力」は、OJTの中で習得すべきスキルを意識づけした上で、組織知のCoE(Center of Excellence)活用とEdu Techで補完することで、これまでより格段に早いスピードで習得が可能になるだろう。
4. 事業活動数値の見える化
「業務機能と人材の変革マップ」に基づきコスト構造と人材を再配置する過程で、転換後の業務機能、人材を見える化し、変革を事業収益向上につなげていく仕組みを最後に整備したい。具体的には、重要業務機能の状況を表すオペレーティング指標を設定・可視化し、事業活動・指標を基にアクションを先んじて打つことで、改革を効果につなげていくことができる。
オペレーティング指標に基づくアクション
ソリューションビジネス転換の例で言えば、これまでは製品の在庫数や卸売り数が重要であり、これらの数値が事業動向を予測するための先行指標だった。今後は、顧客の利用動向・満足度といった最前線の情報と、ソリューションを届ける従業員の活動・稼働状況が事業業績の先行オペレーティング指標となる。指標の動きを基に、顧客向け施策の修正や社内リソースの再配分など、先読みアクションを柔軟に行える仕組みができれば、業務機能・人材の再配置による効果もより高まる。アクション実施に際しては、社内意思決定プロセスやルール等の仕組みも新たに作り直すことになる。
業務機能変革は、組織・部署単位の部分最適を進めても短期的には効果が見込める。ただ、一過性の効果で終わり、以降効率化施策を長年にわたり繰り返すケースが多い。変革全体マップを描き、業務機能と人材を抜本的に転換できれば、中長期的な競争優位につながり、新たな事業価値を生み出すことができるだろう。