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音声認識と会話テキスト解析技術を用いたコンタクトセンター起点でのVoC発掘

顧客接点の多様化が急速に進み、品質や一貫性などの顧客体験価値が、企業の差別化要因になってきており、顧客の反応を表す「顧客の声(Voice of Customer)」(以下VoCと記載)の活用に対する企業の関心が高まっている。しかしながら、VoC活用の目的や収集方法等が確立しておらず、多くの企業で有効活用できていないのが実態である。本レポートでは、企業にとって継続的かつ重要な顧客接点であり、顧客体験価値に影響の大きいコンタクトセンターを中心に、VoCを取り巻く環境変化や課題、およびAIを活用した音声認識や会話テキスト解析技術を用いた課題解決案について提言したい。

VoCを取り巻く環境変化

VoCは、対面や電話、メール、メッセージアプリ、チャット、アンケートなどを通じて顧客から企業宛に直接的に発信されるメッセージだけではなく、口コミやブログなど不特定多数に発信される顧客のメッセージも対象となる。また、その内容には、苦情、要望、称賛、問い合わせなどの言語化されたメッセージだけではなく、感情や態度などの非言語情報も含まれる。

VoCはデジタル媒体の多様化に伴い全世界のインターネットユーザーに即座に拡散し、その情報をもとに顧客が商品やサービスを選定するなど、BtoCやBtoBtoCのビジネスを中心に、近年、商品・サービスを販売するうえで顧客体験価値の向上が経営にとってますます重要な要素となっている。

実際、商品開発部門やマーケティング部門、経営企画部門などで、VoCは顧客体験価値や企業価値を向上させるための重要な判断材料となっており、それらの部門の判断材料となるVoCを収集し、全社に共有する役割を担う顧客接点部門の重要性は非常に大きいと言える。とりわけ、コンタクトセンターは、企業にとっての最大の顧客接点であることが多く、顧客との対話を通じて顧客体験価値向上に影響を与えるという点で、VoC活動の戦略拠点となり得る。そのため、多くのコンタクトセンターがVoC活動強化のミッションを課せられ、VoC発掘の取り組みを強化している傾向にある。実際、2017年に弊社にて実施した「グローバルコンタクトセンターサーベイ」では、54%の企業が、自社のコンタクトセンターにおいてVoC関連のテクノロジーに投資を計画していると回答している。

今後を見据える場合、企業がより高度な顧客体験価値の実現を目指す上で、顕在ニーズの抽出だけではなく、潜在ニーズの可視化が差別化要素となることが予想される。これらの潮流に対応するため、コンタクトセンターは、言語化されたVoCを多く集めて、分析後に具体的な施策を検討する従来型の取り組みを行うだけでなく、メッセージや行動に隠された真の顧客の意図を汲み取りつつ、リアルタイムに顧客応対に活かす能力を実装することが必要となる。

顧客体験価値向上につながるVoC発掘の課題

顧客体験価値向上につながるVoCの発掘および活用のためには、収集、抽出、分析、活用のそれぞれの過程において、「技術の活用」と「運用の整備」といった2つの課題がある。

まず、「技術の活用」における課題とは、主にコンタクトセンターにおける旧来のシステムやツールに起因するものである。例えば、多くのコンタクトセンターでは、コミュニケーター自身がVoCの取捨選択をした上で、CRMシステムへVoCの内容を登録しており、管理者はCRMシステムにテキストで手入力されたVoCを抽出し、頻出キーワードを元に分析せざるを得ない状況になっている。つまり、システム化されていない収集・抽出・分析の各過程において、コミュニケーターや管理者のスキルや判断に依存した属人的なVoC活用になっており、スキル移管も困難になりがちである。また、コミュニケーターのスキルもよるが、多くの企業では、苦情や要望など、企業に対するメッセージとして顕在化したもののみをVoCとして管理しているため、その他の問い合わせなどに含まれているような潜在的なニーズが、膨大な量のVoCの中に埋もれてしまっており、有用なVoC発掘を阻害している。

次に、「運用の整備」における課題とは、主にVoC活用の目的が全社共通の認識として明確になっていないことに起因するものである。VoC自体は短期での業務改善や売上向上に直結しないことも多く、活動費用に対する効果も見えづらいため、活用目的や効果が不明瞭な場合、VoC活動の優先順位が下がりがちである。特に、コンタクトセンターについて、企業内でコストセンターとしての認識が強く残っている場合には、この傾向は顕著であり、VoCの活用目的も限定的である。また、経営企画部門とその他部門との間でVoC活用への認識や視座の統一を怠った状態のまま、トップダウン的にVoC収集が指示されることも多いため、コンタクトセンターでは、恣意的に印象の強い声のみを集めて、数量や影響範囲の検証がなされず、客観性や網羅性を欠いてしまうことが多い。結果的に本来企業にとって必要なVoCが収集されず、活用サイクルが形骸化してしまう。

技術の活用事例

前述の「技術の活用」における課題への対応策として、コンタクトセンターにおける技術活用として日々進化している2つの技術を紹介するさせていただく。1つ目は「AIを活用した音声認識技術」、2つ目は「会話テキスト解析技術」である。

まず、「AIを活用した音声認識技術」とは、応対時の音声を元に、音声そのものや、会話の意図を汲み取り理解する技術である。従来の音声認識技術は、認識の精度が低く、データ量が膨大かつ不要語も多かったため、音声や会話文をそのままVoCとして分析することが困難であり、コミュニケーターの入力補助などの活用シーンにとど留まっていた。しかし、近年では、コンタクトセンターで使用するヘッドセットなどのインフラ改善に伴い正確に音声を拾いやすくなり、その膨大な音声データをAIの教師データとして使用することで、音声や会話文をVoC分析に活用することが可能となってきている。また、教師データとしての活用に加えて、AIと音声認識技術を組み合わせることで、自己学習による合成音声応答や、自動要約によるVoC分析の効率化、会話の速さ、トーン抑揚などの非言語情報の学習による感情分析を活用した満足呼・怒り呼の抽出、FAQへの自動反映、声紋認証への活用などが可能となっている。特に、顧客からの問い合わせ難易度が高い金融系の業界での活用事例は増えてきており、コミュニケーターによるヒアリングや入力精度のバラつきの減少、入力作業負荷軽減などのオペレーション効率化だけではなく、感情分析機能による潜在的な不満などの抽出にも成功しており、品質向上につながっている。また、グローバル展開をしている企業では、音声解析や翻訳などの技術を駆使し、各国のVoCを一元管理した上で、マーケティング活用にも取り組もうとしている事例もある。

次に、「会話テキスト解析技術」とは、テキスト化された膨大な会話ログデータから不要語等を削除し、単語だけでなく文や話題単位での分類を行ったうえで、顧客属性別の傾向や時系列のトレンド分析を行う技術である。書き言葉や単語単位の単純な分析であれば、フリーソフトで対応可能な成熟技術ではあるが、話し言葉や文単位・話題単位での分析などは発展途上の状況である。前述のとおり、多くのコンタクトセンターではVoCのボリュームが多い一方で、人力での分析にならざるを得ない事情から、書き言葉を対象に、単語単位で頻出語を抽出するなど、簡易な分析にとどまっていることも多い。しかし、本技術を活用することで、簡易な分析にとどまらず、話し言葉を対象にした文単位・話題単位での分析や、潜在ニーズを内包した少数話題を容易に抽出して分析できるため、分析作業の効率化や高度なVoC分析が可能となる。

(図1)音声認識とテキスト・会話分析によるVOC活用の進化

本章で紹介したような先進技術の事例は、近年ではコンタクトセンターのアウトソーサーだけではなく、特に金融、通信業界などの顧客との中長期的な関係構築を重視するBtoCやBtoBtoCの業態で普及段階に入っており、これらの業態における成功事例を元に他業界へも広がっていくことが想定される。

技術導入に向けた運用整備の重要性

前章では、「技術の活用」における課題解決のソリューション事例を紹介したが、これらの技術を導入するだけではなく、同時に「運用の整備」における課題への対応も必要となってくる。この点は前述の通り多くの企業で苦慮しており、運用整備が整わず短期的なコストを優先して技術導入を見送ったり、導入したものの明確な効果が出なかったりといった状況に陥っている。

これらの技術導入の効果を最大化するには、VoC活用目的の「明確化」と「全社共通認識化・推進」という2段階での事前の運用整備が必要である。

まず、「明確化」についてだが、本来のVoC活用目的は、コスト削減や応対品質向上だけではなく、商品やサービスの品質向上、顧客体験価値向上による売上拡大や企業価値向上などが挙げられる。しかし、コンタクトセンターの実態としては、コミュニケーターの応対品質向上や呼量削減などのコスト削減などの限定的な活用にとどまっており、売上拡大や企業全体の品質向上などの目的意識が持ちづらい状況である。加えて、その目的自体があまり具体化されていないことにより、VoCを集めることだけがKPI化されていることも多いのが実態である。 つまり、VoC活用目的が不明確となっているため、VoCを収集するコンタクトセンターで活用シーンを限定してしまっている状況のため、売上貢献や会社全体してのサービス品質向上も含めた、より包括的・具体的な活用目的を明確化することが重要である。

続いて、「全社共通認識化・推進」についてだが、全社横断的なVoCマネジメント実行・推進組織を設立し、データ入力の促進、分析の実施、データ共有化によって一連の活動を推進することで、課題解決が図れる。図2に表したとおり、VoCマネジメント実行・推進組織が中心となり、VoCマネジメントのサイクル全体をモニタリングする仕組みを構築することで、全社横断的なPDCAサイクルを回すことが可能となる。特に、VoC発掘の起点となるコンタクトセンターでは、従来のコスト効率や品質向上のためのKPIに加えて、VoCマネジメントに係るKPIも加えて推進していく必要があり、顧客価値が改善・向上していることをコンタクトセンターで定期的にチェックしつつ、VoC実行・推進組織がその内容を全社に展開していくことも重要となる。前述のAIを活用した音声認識技術と組み合わせることで、生のVoCデータを自動抽出することが可能になるため、コンタクトセンターでは、自社で設定した重要なVoCが確実に報告対象となっているか、VoC活動にかかるコストが適正かどうか、必要なVoCが適正な日数・時間で企業内に共有されているかなど、費用対効果を具体的かつ定量的なKPIとして可視化することで、全社的にコスト偏重にならずに、システムや人的な投資を引き出すことが可能となる。

(図2)VoCマネジメントサイクルイメージ

以上の通り、顧客接点の重要拠点であるコンタクトセンターでの顧客体験価値向上につながるVoC発掘のためには、活用目的の明確化と、効果測定のための定量的なKPI設計による全社的なマネジメント体制の元で、音声認識と会話テキスト解析技術などの先進技術を導入することが有効である。

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