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国立大学法人の戦略的経営実現に向けた検討会議の動向

国立大学法人における制度改革に向けた検討が進められています

国立大学法人の戦略的経営実現に向けた検討会議において、令和4年度から始まる第4期中期目標期間は、国立大学法人の機能を拡張し、真の経営体へと転換を図る移行期間と位置付けられ、現在各種制度の改革が進められています。

執筆者: 公認会計士 森 由美

 

国立大学法人の戦略的経営実現に向けた検討会議の概要

令和2年12月に文部科学省より、国立大学法人の戦略的経営実現に向けた検討会議(以下、「検討会議」)の最終とりまとめが公表されました。

検討会議では、「経済財政運営と改革の基本方針2019について」(令和元年6月21日閣議決定)における、国立大学法人の”世界の先進大学並みの個性的かつ戦略的大学経営を可能とする大胆な改革を可及的速やかに断行する”との方針実現に向けた議論が行われ、国立大学法人改革の方向性が打ち出されました。

具体的には、令和4年度から始まる第4期中期目標期間を、国立大学法人の機能を拡張し、真の経営体へと転換を図る移行期間と位置づけ、経済社会メカニズムを転換する駆動力として国立大学法人を最大限活用していくことを目指すべきとの考えを背景に、多様なステークホルダーからの視点を意識した新たな評価の在り方や、学長に対する牽制機能の可視化や実効性の強化、財務情報の開示の在り方の見直しなどといった内容となっています。

国立大学法人の戦略的な経営実現に向けて
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ここでは、検討会議の議論の結果をふまえつつ、国立大学法人の制度等に関する直近の動向をお伝えします。

検討会議後の動き

中期目標・中期計画の在り方

令和3年12月、各国立大学法人が作成した第4期(令和4~9事業年度)中期目標及び中期計画の素案が公表されました。

各国立大学法人は文科省が提示した「第4期中期目標期間における国立大学法人注記目標大綱」における25の項目から、それぞれの組織の特性や強みに特化した項目を選択し目標及び計画を策定することとなり、各大学法人における中期目標・中期計画の平均項目数は、第3期に比べ中期目標・中期計画ともに半分以下に減少しました。

なお、国立大学法人評価委員会総会(第68回)(令和3年12月1日開催)では、素案について、

  • 「目標を具体的に実現するための手段が明示されているか」及び「目標の実現や手段の遂行について、達成状況を検証することができる指標が設定されているか」との観点に照らし、より適切な記載を検討すべき。
  • 評価指標の設定に当たっては、実現可能性のみを考慮することなく、意欲的・挑戦的な達成水準の設定を検討することに留意すべき。

などといった意見が出されています。
第4期中期目標期間からは年度計画や評価がなくなることから、短期的な目標達成に過度にとらわれず次の6年間の大学のあり方を見据え、各法人が中期計画の最終化に取り組んでいます。

【参考】
国立大学法人の中期目標及び中期計画の素案についての意見等(案)(外部サイト)

 

会計制度・会計基準

国以外の多様なステークホルダーへの説明責任の改善を図るため、理解しやすい財務諸表等の開示が行われるよう、令和4事業年度からの適用に向けて国立大学法人会計基準の改訂が進められています。令和3年10月に公表されている改訂案には以下のような内容が含まれています。

  • 一般に分かりにくい資産見返負債の処理を原則として廃止し、運営費交付金や寄附金を財源に固定資産を取得した場合は、これらの財源を収益化。
  • 「国立大学法人等の業務運営に関して国民の負担に帰せられるコスト」の注記を新設。国立大学法人等業務実施コスト計算書は廃止。
  • 学部研究科ごとのセグメント情報を開示。
  • 企業会計基準及び独立行政法人会計基準にあわせ、純資産変動計算書を新設 等。

【参考】
国立大学法人会計基準の改訂について(外部サイト)

 

人事給与マネジメント

科学技術・イノベーション基本計画(令和3年3月26日閣議決定)において、若手研究者のポスト確保や、持続可能な研究体制を構築する取組事例を盛り込んだガイドラインの追補版を作成するとされたことを受け、「国立大学法人等人事給与マネジメント改革に関するガイドライン(追補版)」(令和3年12月21日)が公表されました。

国家公務員法にとらわれず、適正な年齢構成の実現、外部資金の効果的な活用、組織全体で若手研究者のポストの確保を図るといった新たな人事給与マネジメントを推進するため、ガイドライン(追補版)では各大学の取組事例を一覧で紹介しています。

【参考】
国立大学法人等人事給与マネジメント改革に関するガイドライン(追補版)(外部サイト)

 

国立大学法人法の改正等

検討会議でも提言があった内部統制に係る組織の在り方についても、学長選考会議の権限の追加、指定国立大学法人の理事の増員、監事の常勤化といった内容を反映する、国立大学法人法の一部を改正する法律案(施行期日令和4年4月1日)が国会へ提出されています。

【参考】
国立大学法人法の一部を改正する法律案の概要(外部サイト)

終わりに

検討会議の最終とりまとめにおいて、ここでの議論は国立大学法人の改革に向けた第1弾としての結論であり、第2弾として、公共的価値を持つ国立大学法人が徹底した情報公開と厳しいモニタリングを経て、新たな資金の呼び込み及びその循環による社会変革をもたらすべく、さらなる検討が必要とされています。

また、今回ご紹介した動向のほかにも、「世界に伍する研究大学」「10兆円ファンド」「地域の中核となる大学振興パッケージ」「法人統合」など、国立大学法人に関する話題は事欠きません。国立大学法人への期待が高まる中で、どのようにしてその期待に応えていくのか、まさに各法人の「経営」力が試されていくといえるでしょう。