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持続可能なエネルギー需給実現の鍵としての水素・燃料電池

エネルギー源の多様化と自立分散型エネルギーコミュニティの両立に向けて

水素・燃料電池の本格的導入に向けては、コストダウンやインフラ整備、安全性に対する社会受容性の向上等、解決すべき課題は山積している。それにも関わらず水素を導入すべき理由は、再生可能資源をはじめとする多様なエネルギー源から製造可能であり、電力や都市ガス等の既存のエネルギーキャリアとの共存・連携することで、高効率かつ柔軟性、自立性に優れたエネルギー需給システムに貢献しうる点にあるといえる。

何故今「水素・燃料電池」なのか

水素から電力を取り出せる燃料電池は、発電の過程で水以外の物質を排出しない発電システムであり、発電設備や自動車等の移動体の動力源としての利用が可能である。我が国では1990年代から分散型発電装置として導入が始まっている。

燃料電池自動車の市販開始により、2015年は「水素元年」と呼ばれている。過去に1990年代前半と2000年代前半にも水素・燃料電池ブームがあり、今回の波を第三次ブームと捉える向きもある。過去との違いは、2011年の東日本大震災を経て将来のエネルギー供給のあり方がかつてないレベルで国民の関心を集めており、その中で分散型電源の導入拡大やエネルギー源の多様化等の実現といった観点から、水素・燃料電池が注目されている点にあるといえる。

エネルギーの観点からみると、水素はエネルギーを貯蔵・輸送するための担体(「エネルギーキャリア」*1と呼ばれる)の一種であり、エネルギーキャリアとして水素を確保するためには従来からのエネルギー資源が不可欠である。水素はエネルギーの運び方・貯め方・使い方を変えるものであり、エネルギー資源が直接増えるわけではない。にもかかわらず水素が注目を浴びる理由は、水素が様々な資源から製造可能であり、水素から発電を行う燃料電池がクリーンで小規模設備でも高効率なところにある。

*1 エネルギーキャリアとは、エネルギーの輸送・貯蔵のための担体となる物質を指して用いるもので、従来の燃料であればガソリンや都市ガス、LPガス等が該当する。

〔PDF, 169KB〕

多様な資源から製造可能な水素

エネルギーキャリアとしての水素の大きな特徴の一つとして、様々な資源からの製造が可能な点が挙げられる。現在実用化されている技術としては、水を電気分解して水素を取り出す水電解技術と、石油や天然ガス等の炭化水素を触媒を用いて分解する改質技術が挙げられる。水電解には電気が必要であるが、この電気を太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギーで賄うことで、全く二酸化炭素を排出しないで水素を製造できる。炭化水素から水素を取り出すと二酸化炭素が発生するが、これを回収・貯留する技術(CCS)の開発も行われている。これらに加え、既存の製鉄所や製油所、苛性ソーダ工場等の産業施設からは副産物として水素が発生しており、これら副生水素の活用ポテンシャルも大きいとされている。

エネルギーの高効率利用を実現する燃料電池

燃料電池のメリットの一つに、小規模でも高効率な発電が可能であり、分散型電源として一般家庭やオフィス・店舗にも設置可能な点が挙げられる。従来の発電システムで用いられるエンジンやタービンは小型化すると熱損失や摩擦の影響が大きくなり発電効率が低下するが、可動部が少ない燃料電池は小型化しても効率低下が起きないという特徴がある。

分散型電源のエネルギー効率を更に高めるためには、発電に伴う廃熱の有効利用が重要となる。発電装置からの電力と廃熱を同時に利用することをコージェネレーションと呼び、既に工場や大規模オフィスビル等で普及しつつある。

欧米では、都市内に設置された火力発電所周辺の地下に配管を埋設し、発電時に発生する熱を回収して周辺の住宅や事務所等に供給する地域熱供給(地域暖房)が広く普及している。我が国でもごく一部の火力発電所や廃棄物発電施設等で同様の取り組みが行われているが、そのポテンシャルを十分に活かしているとは言い難い。都市の成り立ちやエネルギー需給バランスの違いから、日本で地域熱供給が可能な都市は限られるが、燃料電池は小規模分散型コージェネレーションに適した機器であり、戸建住宅や集合住宅の住戸単位での導入も可能である。振動や騒音が小さい点も、人口密集地での運転に適しているといえる。

電力供給との連携が重要な鍵

水素社会の実現に向けては従来のエネルギー、特に電力供給との連携が重要な鍵を握る。今後、電力・ガス自由化が進む中で、従来の電力会社とガス会社といった垣根は下がり、ユーザーのニーズに応じて様々なサービスが展開されると予想される。

スマートグリッドに代表されるような、電力を供給側・需要側の双方から制御して最適化する技術が実用化されつつあり、燃料電池を含む分散型電源もその対象に含まれる。太陽光や風力発電同様、燃料電池の電力も技術的には電力系統への逆潮流が可能である。しかしながら、燃料電池からの電力買取り制度が存在しないため、燃料電池は余剰電力が発生しないよう余力を残して運転しているのが一般的である。廃熱利用を最大限行いつつ、配電網レベルで燃料電池の逆潮流電力を融通することで、更なる省エネ化や電力系統における電力需給ピークの緩和、ひいては今後老朽化が課題となる大規模発電所への負担軽減にも貢献しうる。

加えて、太陽光発電や風力発電等の再生可能電源から水素を製造する動きも活発になりつつある。欧州では再生可能電源の導入拡大に伴い、電力の自然変動の結果として供給過多となり電力系統で受け入れられない余剰電力の活用策として、水電解による水素製造(いわゆるP2G: Power to Gas*2)に関する技術開発・実証が進められている。EU加盟国では2050年に向けて電力を限りなく再エネ由来に切り替える目標が掲げられており、その実現には自然変動電源に対応する新たな蓄エネルギーシステムが不可欠とされているためである。

我が国でもNEDOや環境省の技術開発・実証事業において、各地域の様々な資源から水素を製造、活用する「水素サプライチェーン」の構築に向けた取り組みが始まりつつある。

*2 Power to Gasは、再生可能エネルギー電力(Power)からの水素製造、或いはその水素と大気中の二酸化炭素からの炭素と結合してメタン化するシステムを指して用いられる。

おわりに

~水素を活用したエネルギー供給システム全体の最適化へ~

水素は優れた特徴を有するエネルギーキャリアであるが、あくまで持続可能なエネルギー需給を実現するための手段の一つとして普及を図るべきである。電気から水素を製造すると、その過程で2~3割程度のエネルギーが失われるため、水素だけで全てエネルギー供給を賄おうとすると、エネルギーの効率的利用の面ではむしろ逆効果になる。貯蔵・輸送効率の観点から見ても、ガソリン等の液体燃料や天然ガスおよびLPGの従来気体燃料よりも密度が低く、圧縮や液化に要するエネルギーも大きく、効率的には劣るのも事実である。水素・燃料電池の本格的導入に向けては、コストダウンやインフラ整備、安全性に対する社会受容性の向上等、解決すべき課題は山積している。それにも関わらず水素を導入すべき理由は、再生可能資源をはじめとする多様なエネルギー源から製造可能であり、電力や都市ガス等の既存のエネルギーキャリアとの共存・連携することで、高効率かつ柔軟性、自立性に優れたエネルギー需給システムに貢献しうる点にあるといえる。

我が国は水素・燃料電池の個別技術に関しては世界でもトップクラスの技術力を有している。水素社会の実現に向けて、今後は地域レベルでの水素サプライチェーンの構築や、既存のエネルギーシステムを補完・強化する運用技術の実用化等、ソフト面も含めた取り組みの拡大が期待される。

 

著者:デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パブリックセクター マネジャー 大我 さやか

(2015.10.30)

欧州で取り組むPower to Gasイメージ

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