地方公営企業法施行規則の改正による経営指標の開示 ブックマークが追加されました
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地方公営企業法施行規則の改正による経営指標の開示
令和4年3月29日に地方公営企業法施行規則が改正され、事業報告書の「1. 概況」に「経営指標に関する事項」の項目が追加されました。経営指標に関する事項の記載は、令和3年度の決算から適用されます。
1. 地方公営企業法施行規則の改正の概要
(1) 改正内容
令和4年3月29日に公布された地方公営企業法施行規則等の一部を改正する省令(令和4年総務省令第21号)により、地方公営企業法施行規則(昭和27年総理府令第73号)の別記第14号「事業報告書様式」が、図表1のとおり改正され、「(2)経営指標に関する事項」の項目が追加されています。
【図表1 改正地方公営企業法施行規則別記第14号】
出典:改正地方公営企業法施行規則をもとに筆者作成
(2) 施行期日
本改正は、公布の日である令和4年3月29日から施行され、令和3年度の決算から適用されることとなっています。すなわち、各公営企業においては、施行後すぐに迎える決算から適用されることから、遺漏なく対応することが重要です。
2. 改正の背景と記載内容
(1) 改正の背景
今回の改正は、令和元年度から令和2年度にかけて開催された「人口減少社会等における持続可能な公営企業制度のあり方に関する研究会」報告書(以下、「研究会報告書」という。)を踏まえたものとなっています。
報告書では、人口減少等による需要の減少に伴う料金収入の減少と、施設老朽化対応や自然災害への対策等のための投資の必要性が増加する中、経営状況やストック情報等の的確な把握と、中長期の視点を持った経営を進めていくことが提言されています。具体的には、重要な視点として次の3点が挙げられています。
- 地方公営企業法の適用範囲
- 経営規律のあり方と経営状況の評価
- 人的資源の活用
このうち、今回の改正は、2点目の「経営規律のあり方と経営状況の評価」のうち、特に「経営状況の評価」への対応として改正されたものです。
【図表2 研究会報告書の概要】
出典:総務省・地方公共団体金融機構「「人口減少社会等における持続可能な公営企業制度のあり方に関する研究会」報告書(案) 概要(令和3年3月)(外部サイト)
研究会報告書では、「料金改定に当たっては、サービスを享受するとともに当該サービスに対する対価として料金を支払う住民の理解を得ることが重要」とされています。そして、「持続可能な経営を行うために、料金水準のあり方を含め経営の状況や見通しについて議会や住民の理解を深められるよう、より適切かつ分かりやすく情報提供を行っていく」方策として、決算書類への経営指標分析の記載が提言されています。
経営指標分析については、公営企業の「見える化」の取組みの一環として、平成27年度から経営比較分析表の公表が行われています。この取組みにより、各公営企業においては、現状を理解し分析する素地ができてきているものと考えられます。しかし、経営比較分析表は決算統計データをもとに作成されることから、例年、翌年度2月頃に公表され、かつ経営比較分析表単独で公表されており、タイムリーな把握や、財務諸表本体との一貫性を持った把握ができないといった課題もあります。
今回、改正が行われたことにより、議会の認定を受け、住民に公表される決算書類に経営指標分析が記載されることになったため、財務諸表の理解に資する情報をタイムリーに提供する効果があると考えられます。
(2)「経営指標に関する事項」の具体的内容
研究会報告書では、「経営比較分析表で示されている指標の一部などから適切なものを選択して分析を行うことが考えられる」とされており、「あらかじめ記載する経営指標に係るKPIを定め、KPIに対する評価も合わせて行うことにより、PDCAサイクルの確立に寄与すると考えられる」としています。
今回の改正においては、研究会のテーマである「持続可能な公営企業制度」を念頭に置いて対応すべきものと考えられます。すなわち、ただ指標の結果のみを公表するものではなく、各公営企業が持続可能な経営を行うため、ひいては必要な料金改定等を行うために議会や住民に情報を公開していくことが重要です。そのためには、分析内容について記載を充実させることが望まれます。
具体的に、研究会報告書では「損益情報に着目した経営指標」と「資産情報に着目した経営指標」について公表することが提言されています。これらの指標は経営比較分析表にも示されている指標であることから、各公営企業においてはそれらの指標のうち、自らの事業において特に重要と考えられる指標を選択して分析することが考えられます。研究会報告書では、本文26ページおよび参考資料12ページ以降で指標の例が示されているほか、「地方公営企業法施行規則等の一部改正について(通知)」(令和4年3月。以下、「省令改正通知」という。)において経営指標の例示や記載例が示されています。省令改正通知については、総務省から各団体向けに発出されているとのことですので、詳細はそちらでご確認ください。
研究会報告書や省令改正通知では、いずれの事業においても、主要な指標として収益性を示す経常収支比率(損益情報)、老朽化を示す有形固定資産減価償却率(資産情報)が例示されているほか、各事業において主要な指標が例示されていますが、必ずしも例示を全て選択しなければならないものではなく、各公営企業における実態を適切に説明できる指標を選択するとともに、経営戦略等における分析や目標設定に使用した指標と関連させることが重要です。なお、経営比較分析表の公表対象となっていない事業においても、経営戦略等で現状分析や目標設定に使用した指標をもとに記載することが適当と考えられます。
【図表3 経営指標に関する事項の記載例】