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地方公共団体における内部統制の法制度化(その2)

これまでの議論の紹介

地方自治法の一部改正により、地方公共団体において内部統制が制度化されました。地方公共団体の内部統制に関するこれまでの議論について紹介します。

①はじめに

前回、地方自治法の一部を改正する法律を紹介するとともに、その背景となった第31次地方制度調査会による「人口減少社会に的確に対応する地方行政体制及びガバナンスのあり方に関する答申」(平成28年3月16日 地方制度調査会)(以下、「答申」とします。)の概要を紹介しました。
地方公共団体の内部統制については、第31次地方制度調査会が初めてなされた議論の場ではありません。今回は、地方公共団体の内部統制に関連するこれまでの議論等を紹介します。

②地方公共団体の内部統制に関するこれまでの議論

1) 我が国における内部統制制度
我が国における制度としての内部統制は、相次ぐ不祥事等を契機に、平成18年に会社法、平成19年に金融商品取引法において、民間企業に対して内部統制について取り組むことを求める規定が設けられたのが最初です。会社法では、会社法上の大会社を対象に、会社の業務の適正を確保するための体制を整備することを求めています。また、金融商品取引法では、上場企業を対象に、財務報告の適正性を確保するための内部統制が有効に機能しているかどうかについて、経営者自身が評価した内部統制報告書を作成し、公認会計士又は監査法人による監査証明を受けなければならないとされています(いわゆるJ-SOXなどと呼ばれるものです)。

2) 地方公共団体における内部統制のあり方に関する研究会報告書(平成21年3月)
地方公共団体における内部統制は、会社法、金融商品取引法における内部統制の制度化を踏まえ、平成19年10月に発足した「地方公共団体における内部統制のあり方に関する研究会」で議論されたのが最初です。平成20年11月には、会計検査院の平成19年度決算検査報告において、国庫補助事業に係る事務費等の不適正経理処理が問題となりました。これらを踏まえ、同研究会における議論は、平成21年3月に「内部統制による地方公共団体の組織マネジメント改革 ~信頼される地方公共団体を目指して~」として公表されました。
当該報告書においては、地方公共団体にとって必要なものは住民からの信頼であり、信頼がなければ当時議論されていた地方分権や行政改革が進まないと整理され、
・組織的に、リスクと真正面から向き合い、リスクが発生する前に必要な対策を講じること
組織マネジメントに関する基本方針の明確化とPDCAサイクルの実現
・首長をはじめとした職員の組織マネジメントに対する意識を改革
などの、これからの組織マネジメントの新たな視点が示されました。
なお、当時は、「内部統制」に対する基本的な考え方が、首長や職員に十分浸透しておらず、その普及啓発は一朝一夕に達成できるものではないという課題認識のもと、研究報告を地方公共団体の内部統制の整備・運用に向けた第一報として位置付け、地方公共団体の自主的な取組を期待するにとどまりました。

3) 地方公共団体の監査制度に関する研究会報告書(平成25年3月)
その後、第29次地方制度調査会による「今後の基礎自治体及び監査・議会制度のあり方に関する答申」(平成21年6月16日)において、監査員の監査の結果の決定方法や、外部監査制度の導入方法の見直し等の提言がなされました。この答申等を受け、平成25年3月には「地方公共団体の監査制度に関する研究会報告書」が公表されました。当該報告書においては、監査の実効性の観点から、内部統制整備の有用性が指摘されています。ただし、株式会社の内部統制の整備の例も参考としつつ、地方公共団体の特殊性を踏まえた内部統制の整備や運用については更に検討することが必要とされました。

4) 地方公共団体における内部統制の整備・運用に関する検討会報告書(平成26年2月)
そして、平成25年7月には、地方自治法等の改正による制度化も見据え、「地方公共団体における内部統制の整備・運用に関する検討会」が立ち上げられ、地方公共団体における内部統制の整備・運用の具体的なあり方について検討が行われました。当該検討会における検討結果は、平成26年2月に「地方公共団体における内部統制制度の導入に関する報告書」として公表されました。
当該報告書においては、地方公共団体において最低限評価すべきリスクや、内部統制体制の整備及び運用に関する基本的な方針の策定、内部統制体制の整備及び運用等の、地方公共団体における内部統制制度の具体的な設計案が示されました。これらの具体的な設計案は、基本的に第31次地方制度調査会の答申や、その後の法律改正に引き継がれています。

③おわりに

紹介したとおり、地方公共団体の内部統制は何年にもわたって議論が重ねられ、具体的設計案まで落とし込まれてきました。この間、平成21年当時から現在に至るまで一貫して反映されてきた考えがあります。それは、内部統制を整備・運用する場合の留意点です。
各地方公共団体において、実際に内部統制の整備等に取り組む際にも参考になるものと考えられることから、最後に、地方公共団体における内部統制のあり方に関する研究会報告書で示された、内部統制を整備・運用する場合の留意点を紹介します。

① 100点満点はない

  • できることから始めることが重要
  • PDCAサイクルを回すことで、毎年度少しずつ向上させることが必要

② 全く新しい取組をするものではない

  • 内部統制を整備・運用するということはすでに存在するルールや体制をベースに、リスクを管理するという観点から必要な見直しをおこなうもの
  • 必ずしも新たな部署を置く必要はなく、既存の部署等を活用することもできる

③ 過剰な統制はかえって問題

  • 費用対効果を十分踏まえて実施する必要
  • すべての業務について内部統制を行わなければならないのではなく、組織的にリスクを評価、特定し、内部統制を実施する業務プロセスを絞りこむことが求められている

④ 団体規模に応じてフレキシブルに

  • 団体の規模・特性などの実態を踏まえた簡素な仕組みをとることも十分考えられる

デロイト トーマツ グループは、当web上において、引き続き、地方公共団体に求められる内部統制の概念や事例等について紹介していく予定です。

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