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アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査 2023年版 結果総括 タイ編
APリスクアドバイザリー ニュースレター(2024年3月29日)
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アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査 2023年版
タイは自動車、電機機器などの重要な製造業の地域生産ネットワークの中で大きな役割を果たしており、東南アジア諸国連合(ASEAN)第2位の経済規模とその立地の優位性から交通と物流の要所となっている。タイ国政府はビジネス環境をさらに改善し、インフラ整備を進める方針であり、今後も国際的な製造ハブとしての強みを確かなものにしていくものと考えられる。
上記のような背景から、既に多くのグローバル製造業がタイに拠点を構えているが、昨今の国際紛争やテクノロジーの進展など、変化の激しい外部環境の中で、リスクマネジメントの重要性は日増しに高まっている。本稿では、デロイト トーマツがアジアに進出する日系企業向けに実施したリスクマネジメントと不正に関するアンケート結果から、東南アジアの生産拠点としてのタイにおける①リスク管理の状況、②不正の発生状況の2つについて紹介したい。なお、この調査結果は、2023年11月から12月にかけてアジア地域(インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、フィリピン、マレーシア、ベトナム、ミャンマー、中国、台湾及びインド)で835名の日系企業の経営層や現場社職員(内、タイは166名)にご回答いただいた結果を基にしている。
1. タイにおけるリスク管理の状況
優先して着手が必要な上位3リスク – タイ
タイでは「人材流出、人材獲得の困難による人材不足」、「市場における価格競争」、「人件費の高騰」が約30%前後と前年に引き続き上位となっている。特に上位の人材関連のリスクについては顕著であり、実際、タイでは、年々最低賃金が増加しており、外資企業、特に中国企業の進出によって、製造・事務問わずに人材が流出している。一つの理由としては、日本企業は、教育や福利厚生に重きを置く長期雇用を前提としている一方で、タイ企業やその他外資企業は基本給を高めに設定することで優秀な人材の囲い込みを図っているところにある。特に、日本企業でしっかり育成された人材は市場価値が高く、それに見合った対価もキャリアアップを目指す従業員にとって大きな魅力となっている。もう一つは、日本企業は業績に応じたボーナスで還元するケース多いのに対して、タイでは、月次の手取り金額を重要視するという指向があるのも理由と考えられる。特に、デジタル人材の給与水準は非常に高くなっており、数年で転職をするなどして市場価値を高めていくような傾向がみられる。
また、前年度に1位となっていた「原材料価格の高騰」は、前年からの半減として一定の落ち着きが見られる一方、「従業員の不正や賄賂」が6位と、コロナ禍で一旦落ち込んでいた本リスクが、業務が正常運転に戻るにつれて増加している点やサイバーリスクが年々増加しているのが見えるのも本年調査結果の特徴である。
優先して着手が必要な上位3リスク – タイ業種別
次に業種別にみると、全体的には人材関連のリスクや市場の価格競争が上位となっているが、金融については、サイバーと金融危機、金融犯罪に関するリスクが最大の関心事項となっている。特に、タイでも、この数年でランサムウェア被害や、なりすましによる不正送金詐欺、身元詐称、等が増加傾向にあり、一昨年の6月には個人情報保護法が施行されたことも相まって情報管理への感度も高まってきている。
タイ日系企業の大半を占める製造業を見ると、市場における価格競争が一位となっているが、一つの要因として先程述べた中国企業の進出が大きいと考えられる。特にタイの日系企業の主産業である自動車業界でも、政策、補助金等の後押しを受け安価な中国製電気自動車の台頭が著しく、日本企業の収益を圧迫する原因となっており企業戦略の軌道修正が求められている。
今後一年程度を見越して必要なリスク対策上位3 – タイ
次に、企業が考える今後一年を見越して必要なリスク対策について見ていきたい。
前年から引き続き「コスト削減」と「企業戦略の見直し」が上位に入る一方、「内部統制強化」が前年比から大きく増加し、1位となっている。また、ここ数年のコロナ禍においては、生産体制維持、売上増加などビジネス面に課題に追われていた一方、先述の通り、近年の不正やサイバー等の含むリスクの増大に対して、改めて内部体制・コンプライアンスの強化進んでいることが見て取れる。特に、前述の人材不足と相まって、より標準化・デジタル化への流れが加速しており、ベンダー選定・購買、会計・決算、在庫管理、経費等に加え、IT全般統制や個人情報管理、サイバー統制等新たな領域への統制意識が高まっている。
現在不足し改善に取り組んでいる機能上位3 – タイ
現在不足を感じており改善に取り組んでいる機能について、1位は「デジタル推進」、2位は「新規事業開発」、3位「地域戦略立案」と前年と同じ順位担っている。
デジタル推進については、会計システムを含むERPシステムのアップグレード、生産管理から物流・在庫管理等のレガシーシステムの刷新等に加えて、ペーパーレス化、コーポレートKPIの可視化、工場稼働状況のモニタリング、データを活用した不正リスクの早期検知などを検討している日系企業が増えている。また、3位の地域戦略立案の文脈では、日系企業の集積地であるタイにおける地域統括機能のあり方等の議論も活発になっており、いくつかの会社ではシンガポールから生産ハブであるタイに地域統括を移管することを検討している。
2. 不正の発生状況
過去三年間の不正顕在化またはその懸念の有無
タイにおいては、過去3年間に不正が発生したと回答した割合が、前年の22%から36%に大幅に増加しており、フィリピン・ミャンマーを除いてアジア圏で最も高い結果になっている。不正リスク対応は、在タイ日本企業にとって長年の重要経営課題であり、前年の22%というのは、決して不正が発生していなかったわけではなく、パンデミックの状況下で表面化していなかった問題が、昨今の統制強化の傾向と相まって改めて発覚してきたと考えるのが妥当であろう。
不正の種類:国別、年度別
発生した不正の種類内訳について他国と比較すると、タイの特徴として「在庫・その他資産の横領」「経費不正」「現預金の窃盗」「利益相反」などと依然として原始的な不正が横行している。
次に、年度別でみると、「購買不正」や「賄賂」等が減少している一方で、「経費不正」「在庫・その他資産の横領」「情報の不正利用」「現預金の窃盗」「利益相反」などが増加しており、実際、毎年、年度末は、在庫の横領、帳簿の改ざんの発覚等、特にタイでは、近親者のベンダーとの癒着による中抜きやキックバックの相談が後を絶たない。
不正の発覚経緯
では、このような不正はどのように発覚するのか。一番多いのは内部通報となっており、最も重要な不正の発覚経路となっている。不正は共謀や、巧妙に隠されているものが多く、統制環境、統制活動と有効的な内部通報制度の構築は会社の健全性を守るためにも非常に重要な仕組みとなる。
次には、日々の業務における統制活動と内部監査の実施が挙げられるが、海外子会社となると、ヒト・カネ等のリソースが制限されることからも、この双方において十分に対応できていない企業も多く見受けられる。その一方で、今年の重点リスク対策事項として内部統制が1位になっており、その重要性が今後十分に理解されて、活動が促進されることを期待している。
最後に、デロイト ネットワークではタイの製造系日系企業をはじめとして数多くのリスクマネジメント支援を行ってきた。タイは、冒頭にも記載したように、今後もASEANの製造拠点として発展していくと考えられる。一方で、これまで日本が存在感を示してきた自動車産業を主として国際的な競争環境が激化、インフレやサイバーセキュリティなど検討すべき経営課題は昨年から変化し、日系企業は新たな局面に立たされている。本稿は、SEA地域、特にタイに進出している日系企業を対象に実施したアンケート結果から得られた示唆やエッセンスを抽出したものであり、今後の皆様の取組みの一助になれば幸いである。
著者:吉川 英一
※本ニュースレターは、2024年3月29日に投稿された内容です。
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