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アジアリスクサーベイの結果について(台湾編)
APリスクアドバイザリー ニュースレター(2023年1月31日)
デロイト トーマツ グループでは、毎年、10か所のアジア地域(インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム、ミャンマー、中国、台湾およびインド) に進出している日系企業を対象に、企業におけるリスクマネジメントの対応状況、不正への取り組み状況を把握するためのアンケート調査を実施しています。2022年の「アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査」では、53社の台湾の日系企業(全地域では720社の日系企業)にアンケートにご協力いただくことができました。
アジア全体における優先して着手が必要なリスクの項目では、1位から5位について、「人材流失、人材獲得の困難による人材不足」、「原材料ならびに原油価格の高騰」、「市場における価格競争」、「人件費高騰」、「為替変動」がランクインしており、昨年まで2年連続で1位だった「疫病の蔓延(パンデミック)等の発生」が8位と急激にランクダウンするという結果となっています。これは台湾のアンケート結果でも同じ傾向となっており、台湾でも昨年までトップ3位にランクしていた「疫病の蔓延(パンデミック)等の発生」が8位となっていました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について言えば、未だに毎日数万人単位の新規感染者が出ている台湾ではありますが(執筆時点の2023年1月時点での1日あたりの新規感染者は2万人弱)、昨年10月13日から台湾入境時の検疫措置が緩和され、入境後の強制的な2週間の隔離期間の撤廃など、台湾政府のコロナ対策が大幅に緩和されたことも企業に大きな影響を与えたといえます。多くの台湾の日系企業でも、在宅勤務から出社形態への切り替えを進めており、簡易検査キットでの自己検査やマスク着用などの取り組みを続けながら新型コロナウイルスと共に歩んでいけるビジネスモデルを確立し始めています。
台湾における優先して着手が必要なリスクの項目では、「中国・ロシアにおけるテロ、政治情勢」が初めて1位となりました。昨年発生した国家間紛争、ペロシ米下院議長の台湾訪問、台湾政府に対するサイバー攻撃、中国軍による台湾周辺での大規模軍事演習、中国からの台湾統一の圧力など、この1年で日本のメディアなどでも台湾関連の記事を目にすることが多くなり、台湾における日系企業の経営者の大きな関心事項となっています。今後一年程度を見越して必要なリスク対策のアンケート項目でも1位は「危機管理体制強化」となっており、危機管理を大きなリスクと捉えている日系企業が多くいることが明らかになりました。
台湾の主要産業となる半導体業界においても、工場の生産停止やサプライチェーン寸断によって、世界的な規模で様々な製品のサプライチェーンが破壊され、経済に深刻なダメージを与える可能性があるため、事業継続計画への取り組みが重要視されつつあります。有事の際にも事業継続計画は有効な取り組みとなります。侵攻の脅威と度合いによるレベル分け、従業員の安全の確保、駐在員の帰国のタイミング、限られたリソースによる危機管理体制の維持と権限譲渡の仕組み、召集による人的リソースへの影響、資金調達、在庫確保等、検討項目は多く存在します。緊急事態になった時でも従業員の安全を確保しつつ企業責任を果たせるよう、事前に十分な分析と検討を行い事業継続計画に取り組むことが必要と考える台湾の日系企業が多く存在することがアンケート結果から判明いたしました。
またアンケート項目の5位には「サイバー攻撃・ウイルス感染等による情報漏えい」がランクアップしていますが、台湾においても日系企業や現地大手企業がサイバー攻撃の被害にあったという報道が数多くあり、経営者の中での関心度はかなり高まってきていると言えます。特に台湾の大手企業を狙ったランサムウェアによる身代金の請求額が当時過去最高の約54億円という報道もあり、また台湾の日系子会社のセキュリティホールを狙い、親会社のネットワークに侵入を試みるケースなどもあることから、サイバーセキュリティ対策に取り込む必要性が増々認識されてきました。ただし、実際には親会社から明確な指示が出ていない、ITのリソースが十分ではない(そもそもIT部門が存在しない日系企業も多くあります)、セキュリティに関する予算が少ない、といった事情により、なかなかサイバーセキュリティの強化に取り組むことが出来ていない日系企業も少なくありません。
最後に、台湾の日系企業の現在不足し改善に取り組んでいる機能として、「デジタル推進機能」が前回に引き続き1位になりました。台湾の多くの日系企業では、ハンコや紙文化が根強く残っており、新型コロナウイルスに伴う在宅勤務時においても、誰かが出社しないと業務が滞ってしまうという話をよく耳にしました。特に政府関連の資料は紙での提出を求められることが多く、なかなかペーパーレス化を進められないという意見もありました。また台湾独自で取り組むよりも、日本の本社主導またはアジア主導でのペーパーレス化の取り組みやグローバルで統一したワークフローの導入などが必要と考えていますが、なかなかそういった話が出てこないため、デジタル推進が進んでいない現状が見受けられました。
デジタルツールを利用した業務効率化という観点では、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)への需要が加速しています。RPAは、人がパソコンなどで実施する定型業務を代行して実施してくれる自動化のプログラムツールとなります。台湾ではまだまだスプレッドシートでの管理業務や現地従業員によるいわゆるルーチンワークが多くあるため、RPAなどのデジタルツールを利用して、現在実施している定型作業やマニュアル作業を自動化することが可能となります。ただRPAが自身の仕事を奪ってしまうことを懸念し、RPA導入に抵抗を示す現地従業員も多くおり、また台湾の労働賃金を加味するとなかなか RPA導入のコストメリットといった観点で導入が進んでいない現状がアンケート結果からも見受けられました。
今回の「アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査」のアンケート結果からも、台湾の日系企業独自の課題が多くあることが把握できました。この変化の激しい成長市場において勝ち残るためには、台湾だけで動くことは難しく、全社的なリスクマネジメントが必要となると感じています。地域ごとのリスクを把握し、中長期的なリスクテイクを実現できるよう、本社と海外子会社間でのコミュニケーションや情報共有を強化することが重要になると考えます。
著者:長坂 賢
※本ニュースレターは、2023年1月31日に投稿された内容です。
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