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アジアにおけるスマート工場に向けた取組みについて
APリスクアドバイザリー ニュースレター(2023年5月31日)
グローバル競争環境の変化を踏まえ、アジア工場の位置付けを見直すタイミングである
グローバルにおける競争環境の変化を踏まえ、アジアに生産拠点を構える日系企業においても現地工場の位置付けを見直すべきタイミングを迎えている。従前は、高いコスト競争力・豊富な労働人材等を武器に汎用品を安価に生産し、グローバルに広く輸出する生産拠点としての位置づけが一般的であったのに対し、コスト優位性を維持しながらも機能拡張し、アジア市場を戦略的な製造拠点として活用することの必要性が高まっている。こうしたアジア市場における環境変化と工場管理上の課題としては、大きく以下の要因が考えらえる。
(市場環境の変化)
1. 急激な市場拡大と多様なニーズ:
- アジア地域のGDP及び中間所得層は急速に拡大しており、世界最大規模になる見込み
- 他方で、国・地域ごとの多様なニーズやトレンドの変化をタイムリーにとらえることにハードル
2. 人件費コストの高騰:
- アジア新興国における安価な労働力活用を目的とした工場設立
- 新興国の人件費コストはここ10年間右肩上がりの状況
- 例えば、日系製造業の集積が進むタイにおいても、一般工の賃金水準は約2倍まで高騰
3. 地政学・サプライヤーリスクの増大:
- COVID-19拡大に伴うサプライチェーン寸断に加え、米中対立、国際紛争や半導体供給不足に伴う減産や生産ラインの停止
- IoTシステム・サービスへのサイバー攻撃深刻化。制御系にまで波及するサイバー攻撃(サイバー攻撃によるライフライン停止危機)
- グローバルレベルでのサプライヤーリスクの見える化が喫緊課題として浮き彫りに
(工場管理上の課題)
1. 情報インフラの未整備:
- 紙ベースでの情報インプットが多く、継続的な生産情報を把握することができない
- ローカル工場で使用しているシステム制約により必要情報をタイムリーに出力できない
- ITシステムが部分的・断片的に導入され、データ連携が難しい状況
2. IT/OT/セキュリティ知見の不足:
- グループ内においてアジア地域は最新デジタル技術のフォロワーとして位置づけられている
- 熟練したIT/OT/セキュリティ担当者が不足しているために、オペレーションモデルを改善できない
3. 離職と部門連携の不足:
- 工員が入れ替わるペースが速く、工場管理の基本となる標準オペレーションの定着も困難
- 生産部門の内部、販売・マーケティング部門、並びに経営層・管理部門(調達、経理等)との連携が不十分なために、マーケットインに最適な工場オペ-レーション体制が構築できない
工場管理のデジタル化および人材育成を推進することで、生産性の向上、品質管理の強化、コスト効率性を向上し、今後の企業の競争力に繋げる
それでは、今後アジア日系工場において、コスト優位性を維持しながら機能拡張し、アジア市場の戦略的な製造拠点として活用するためには、どのような取り組みが必要となってくるのであろうか。最近のホットトピックとして、工場管理におけるデジタル化が挙げられる。デジタル化の3つの目的と5つの打ち手の大別を下図にまとめた。目的は、生産性・コスト効率の向上、品質管理の強化がある。海外工場の生産現場でもデータやAIといった最新技術を活用することにより、単なる自動化による効率性向上に留まらず、生産性や製品品質向上にまで繋げることが可能とされている。
打ち手におけるポイントは2つある。1つ目は、データやAIを定着し、企業の武器にしていくために、デジタル人材育成を並行して進めていくこと、2つ目は、企業のデータを内外のリスクから守るために、セキュアな工場設備を整備していくこと、である。特にデジタル人材育成では、現地生産メンバーが主体的にデータやAIを利活用できように、ユースケース設計、データアナリティクス実行力、生産プロセス改革等に関する教育が必要となってくる。よくある陥りやすい罠として散見されるのは、デジタルツールやシステムを導入しただけで、現地メンバーへの定着が進まない状況である。このように、工場管理のデジタル化は、システムやツールといった道具の整備だけでは不十分で、人材育成を並行して実行することにより、はじめて現場に定着させることが可能になる。これは、セキュリティに関しても同様であり、攻めのデータ・AI利活用だけでなく、守りの側面としてのプライバシー保護といった現地メンバーのデジタルリテラシー向上が必要になる。
最後に
デロイト トーマツ グループではアジアにおける製造系日系企業をはじめとして数多くのデジタル化支援を行ってきた。本稿では、それらの経験を基に、アジア工場における競争力向上のためのホットトピックを取り上げた。東南アジアをはじめとした製造系日系企業は、これまでの位置づけを変えるべき分岐点にあり、工場管理におけるデジタル化は機能強化のための重要アジェンダである。海外工場は、国内の工場に比して、デジタル化が進んでこなかった領域であり、現地育成と併せて内外のセキュリティにも留意しながら進めていくことが肝要である。
著者:畠山 多聞 ・ 多知 裕平
※本ニュースレターは、2023年5月31日に投稿された内容です。
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