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東南アジアにおけるBEV展開と日系自動車関連企業の課題
APリスクアドバイザリー ニュースレター(2022年3月28日)
2021年11月13日のCOP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)が閉幕し、本会議では石炭火力発電の削減を各国に呼び掛ける文言を盛り込んだ「グラスゴー気候合意」を採択。協定内では「世界の気温上昇を1.5度」に抑える努力の追求を強調し、一定の成果を見せた。その中で、アジアにおいては中国が2060年、インドが2070年までに「温室効果ガスの排出をゼロにする」と宣言。ASEAN諸国ではタイやベトナム、マレーシアが「2050年のゼロ目標」を表明し、先進国に追従する姿勢を取っている。
これまで東南アジアの自動車業界においては自動車市場黎明期において日系メーカーは政府とタッグを組んで確固たる地位を築いてきたが、このように気候変動対策が強化される中、中国、韓国、そして現地企業がBEV(Battery Electric Vehicle)を突破口に日系メーカーの牙城を切り崩そうと動いている。タイではMGブランドを保有する中国大手自動車メーカーが低価格を武器にタイのBEV市場を独占しており、韓国大手自動車メーカーもインドネシアへ完成車工場と電池工場の大規模投資を表明している。日系メーカーは先進国へのZEV(Zero Emission Vehicle)対応に追われ、東南アジア地域へのZEV投入が遅れているのが実態である。BEVの大規模展開にあたっては、製品開発のみならず、現地生産が前提となることから、既存のサプライチェーン、販売網を大きく変える必要があり、長年築き上げてきたネットワークが崩れかねないことも日系メーカーが決断に踏み切れない要因になっている。しかしながら、インドで圧倒的なシェアを誇る大手日系自動車メーカーが2025年までにBEVを投入すると発表しているように、各国政府がゼロエミッションを目標に掲げていることから、HEV(Hybrid Electric Vehicle)やPHEV(Plug-in Hybrid Vehicle)を繋ぎとしつつも、日系メークのBEV本格展開は近い将来始まるであろう。
BEVの展開に向けては、メーカー、サプライヤー、販売店において下記の課題が想定される。
1. メーカー
- 車両原価アップへの対応
バッテリーは革新電池の研究など日進月歩で原価低減が進んでいるものの、当面はガソリン車に対して高額な状況は続くと見られている。従来の車両単体の原価企画だけでなく、車両外利益を含めたモデルライフ全体での収益企画が求められるであろう。コネクテッドサービスの収益化は依然として厳しいが、将来は世界最大の米系自動車関連企業のようにOTAによる車のアップグレードが主流になってくるため、セキュリティへの対応は勿論のこと、顧客に課金が出来るサービスの充実が収益確保の鍵となる。
- 製品企画とバッテリー供給体制
東南アジアでの現地生産を想定した場合、開発リソースやバッテリー供給の確保、コスト競争力を高めるため、BEVで先行する中国企業との協業も想定される。例えば大手日系自動車メーカーは2020年に中国企業と合弁会社を設立し、中国向けBEVの開発を進めており、中国自動車電池メーカーとも包括的パートナーシップを締結している。言語、文化、開発手法、プロセス、品質基準が違う両社が上手く相乗効果が出せるか注視したい。
- 車両導入調査と対応
車の導入に向けては、各国の環境を調査し、品質基準を満たした導入が前提となる。地形や気候、道路環境についてはこれまでの知見からある程度定義が可能だが、充電インフラについては課題がある。急速充電については未だ統一規格についての方針が出ておらず、どの規格で開発するかの判断が必要になってくる。また、家庭用電源についても形状と電圧も各国バラバラであり、各国専用のケーブルを複数構えることはリソースと開発リードタイムを考えると非現実的である。その場合、自社開発は諦めて各国のアフターマーケット用品に頼らざるを得ないが、安全に関わる領域である為、メーカーが品質保証をどう定義するのかが課題になってくる。
2. サプライヤー
- 車両構造の変革
車のBEVによる主要部品のコモディティ化により、部品点数は1万点程減ると言われており、大規模なサプライヤーの取捨選択が迫られることになる。参入障壁も低くなることから競争は熾烈になるが、Tier 2, 3と下流になるほど新領域への投資は難しく、死活問題となる。部品単品ではなく、部品のモジュール化による提案など、新たな試みが求められてくる。
- LCAとサステナビリティ対応
タイやインドネシアをはじめ、政府主導の再生可能エネルギーへの転換が推進される中、LCA(Life-Cycle assessment)への対応とサステナビリティ(人権等)への配慮は必須になってくる。メーカーはサプライヤーの管理という点においてもTier1だけでなく、末端までのモニタリングの必要性に迫られるであろう。
3. 販売店
- 新車部門の利益減とデジタル世代の台頭
販売店でも車のコストアップは課題だ。世界最大の米系自動車関連企業や一部欧州メーカーでもメーカー直販の動きがあるが、日系メーカーは東南アジアの販売店と歴史的に深い繋がりがあり、直販に大きく舵を切ることは難しい。価格を値上げするのも販売へのインパクトが大きいため、メーカーは販売店マージンをカットして出血を抑えようとすることが考えられる。販売店ではBEV導入に備え、充電設備への投資が必要となる一方で、デジタルを活用した既存オペレーションの効率化だけでなく、中古車、サービス、部品、保険、新サービスなど、あらゆる分野を梃入れし、経営体質の強化が急務になってくる。また、デジタル世代の台頭により、オンライン販売が主流になってくるため、店舗は商談の場でなく、顧客体験を重視するような場になっていくことが想定される。店舗の在り方も見直しが迫られてくるだろう。
BEVの本格展開が進む中で、日系自動車関連企業も多くの意思決定を迫られることになるだろう。ビジネスの拡大、変革に際しては上記をはじめとした課題を見据え、適切にリスクマネジメントをしていく必要があると考えられることには留意されたい。
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著者:辻 亮介・赤尾 聡
※本ニュースレターは、2022年3月28日に投稿された内容です。
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