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台湾における事業継続計画の重要性について
APリスクアドバイザリー ニュースレター(2022年12月21日)
事業継続計画はなぜ必要か
台湾における企業経営者が抱える課題のひとつとして、事業継続計画(BCP: Business Continuity Plan)の重要性が注目されてきています。事業継続計画とは、災害や事故等が起きた際に企業が被害を最小限に食い止めて早期復旧を図り、企業のサービスや事業を継続させるための重要な計画のことです。特に台湾では、ユーラシアプレートとフィリピン海プレートの境界に位置するため地震活動が活発な地域となっており、いつ大地震が発生して多大な被害が出てもおかしくないと懸念している経営者も少なくありません。
<1990年以降の台湾および台湾沖での地震発生回数>
- マグニチュード6.0以上の地震:120回
- マグニチュード7.0以上の地震:6回
(参考:中華民國交通部中央氣象局のHPより)
また地震だけではなく、台風や洪水等の自然災害、新型コロナウイルス等の感染症によるパンデミック、機械の故障や通信障害、サイバー攻撃等、事業が中断されるリスクは多岐にわたっており、様々な想定外の事象にも対応できる事業継続計画の必要性が更に高まっています。
企業は事業継続計画を準備することで、何か事象が起きてしまった際に、重要なサービスや企業活動を継続させるだけではなく、多くのメリットを受けることができます。初動対応の遅れによる被害拡大、二次災害の拡大、社会的信用の低下等を最小限に食い止めることが可能となり、従業員の安全確保、迅速な復旧作業、従業員のリスクに対する意識改善等にも大きく役立ちます。また、事業継続計画を策定することは、取引先の事業中断リスクの低減にも影響することから、企業としての社会的信頼度の向上や競争力の強化、社会的責任を果たすことにもつながると考えられています。
ひとつの企業の事業中断はその企業単体だけではなく、多くのサプライチェーン上の企業や社会に多大な影響をもたらす可能性があるため、取引先選定基準として、事業継続能力のある企業を優先する傾向が出てくることも考えられます。台湾の半導体業界をリードする、世界的大手の半導体受託製造企業においても、サプライチェーン上の企業に対して高い水準の事業継続計画を求めています。同社では、特に地震、干ばつ、洪水、台風等の自然災害に対して、人的被害、物理的被害、事業中断の可能性とその影響を評価することを「サプライヤー行動規範」に明文化しており、各関連企業は、施設や設備のハード面の対策、緊急時の対応手順の策定、従業員への教育と訓練、緊急対応計画の実施等により、事業継続に関するリスク低減に向け計画・実行することが求められています。
事業継続計画を策定する上での課題
その必要性が増々認知されつつある事業継続計画ですが、台湾の日系企業においてはまだまだ導入が進んでいないのが現状となります。また過去に事業継続計画を作成している企業も中にはいますが、社内に浸透していないといったケースもあります。事業継続計画導入の重要性に対する理解は深まっていますが、なかなかその準備や取り組みが進んでいない原因としては、下記のような課題が多く聞かれており、その対応に多くの経営者が悩まされています。
- 社内に事業継続計画に関するナレッジ・スキルがない
- 社内に事業継続計画を担当するリソースがいない(兼務となり、本業が忙しくて対応できない場合も多い)
- 事業継続計画の策定は法令・規制で求められておらず強制力がないため、つい後回しになってしまう
- 事業継続計画は過去に一度作っているが、それ以来見直しも改訂も行っていないため、現状と乖離があり実効性が低い
- 事業継続計画に関する教育やトレーニングを行ったことがなく、社内に浸透していないため、何か起きた際に従業員が動けない可能性が高い
実効性のある事業継続計画作成に向けたポイント
実効性ある事業継続計画の要件は以下の通りです。
- 継続すべき重要業務が特定されていること
- 重要業務を行うために必要な要素が特定されていること
- 対応策の選定において、コストやメリット/デメリットを十分に検討していること
災害や事故等が起きた際には限られた資源で事業を復旧しなければなりません。したがって、優先的に継続すべき重要業務を特定する必要があります。そのためにも各業務が停止した場合の影響とその大きさについて多面的な分析(ビジネスインパクト分析)を行うことが求められています。継続すべき重要業務を特定した上で、重要業務の継続に必要な経営資源を選定し、リスクが発生した際の対応策を決めていく必要があります。
<事業継続計画策定の全体像>
また事業継続計画を策定しただけでは、災害や事故等が起きた際に計画通りに対応できるかわかりません。日頃から訓練を行い、事業継続計画を実践し、危機対応力や事業継続力を向上させることが重要となります。また訓練により、現状の事業継続計画における課題を洗い出し、維持改善につなげることも可能となります。この活動を事業継続マネジメント(BCM: Business Continuity Management)と呼び、以下のようなメリットが想定されています。
- 参加者が事業継続計画に対する理解を深め、各自の役割や手順を習得することが可能
- 事業継続計画の実効性の検証が可能
- 事業継続計画の不備や問題点を洗い出し、事業継続計画の維持改善に役立てることが可能
<事業継続マネジメントの活動サイクル>
最後に
最近では他国との情勢も大きなリスクと捉えられるようになり、台湾の日系企業の経営者の大きな関心事項となっています。有事に備えるという点においても、事業継続計画は有効な取り組みとなります。侵攻の脅威と度合いによるレベル分け、従業員の安全の確保、駐在員の帰国のタイミング、限られたリソースによる危機管理体制の維持と権限譲渡の仕組み、召集による人的リソースへの影響、資金調達、在庫確保等、検討項目は多く存在します。緊急事態になった時でも従業員の安全を確保しつつ企業責任を果たせるよう、事前に十分な分析と検討を行い、余裕を持って事業継続計画に取り組むことが望ましいと考えます。
事業継続計画は非常時や緊急時におけるリスクマネジメントそのものであるため、どの企業も積極的に導入すべきと考えます。デロイト トーマツでは、実効性ある事業継続計画を策定するための支援を提供しています。各国・各地域での様々な事象にも対応できるよう、事業継続計画(BCP)および事業継続マネジメント(BCM)に関するテーマについて様々なアドバイスを提供しておりますので、是非ともお気軽にお声がけいただけますと幸いです。
著者:長坂 賢
※本ニュースレターは、2022年12月21日に投稿された内容です。
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