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AIを活用したコールセンター変革
APリスクアドバイザリー ニュースレター(2024年8月5日)
コールセンターの重要性と課題
商品やサービスを購入する際に何を重視されますか?商品やサービスの品質が高いことはもちろんの事ですが、アフターサービスを重要視する消費者は多く存在します。複数の消費者に関する調査結果を見ると、消費者の半数以上が良質な顧客サービスを提供する会社から再度購入する可能性が高いと回答しています。購入後に問題が発生した場合、迅速かつ適切なサポートが受けられることは、消費者にとって大きな安心感をもたらします。アフターケアが充実している企業は、顧客に信頼され、長期的な関係を築くことができます。これにより、消費者は製品やサービスに対する不安を軽減し、自信を持って購入することができるのです。このようなポジティブな体験は、リピート購入や口コミによる新規顧客の獲得にもつながります。また、アフターケアが充実している企業は、顧客からの評価が高くなり、ブランドロイヤルティの向上につながります。消費者は、自分が信頼できる企業から再度購入したいと考えるため、アフターケアの質が高い企業は競争優位性を持つことができます。
アフターケアの窓口となるコールセンターでは消費者からのクレームや問い合わせを通して、消費者の趣向の変化や要望をとらえて、企業戦略に活用する等の重要な役割を担っていますが、コールセンターの人材不足は長年の課題となっています。東南アジアでは、IT、フィンテック、スタートアップなどの新興産業が急成長しています。これらの業界は高賃金や良好な労働環境を提供しており、その結果、コールセンターから優秀な人材が流出する現象が見られます。理由は多岐にわたりますが主な要因として以下があげられます。
- 高い離職率
- ストレスフルな環境:コールセンター業務はクレーム対応や長時間の電話対応が多く、ストレスが高い職場環境です。これにより、スタッフが短期間で離職することが多くなります。
- シフト勤務:夜勤や変則的な勤務時間により、睡眠障害や他の健康問題のリスクが高まること、家族や友人との時間が取りにくく社会的孤立感を感じたり、自己啓発や追加の教育を受ける機会が制限され、長期的に働き続けることが難しいと感じるスタッフが多いです。
- 労働環境と賃金
- 低賃金:コールセンターの給与は他のホワイトカラー職と比べて低い傾向があります。特にエントリーレベルのポジションでは賃金が低く、これが人材確保の難しさに繋がっています。
- 労働環境の問題:コールセンターはしばしば高い業務負荷や厳しい目標が課されることが多く、労働環境の改善が必要です。
- スキルと訓練の不足
- 専門知識の欠如:コールセンター業務には特定のスキルや専門知識が必要ですが、十分な訓練を受けていないスタッフが多いです。これにより、質の高いサービス提供が難しくなり、人材の確保と維持が課題となります。
- 教育プログラムの不足:効果的な教育プログラムが不足しており、スキルアップの機会が限られています。
コールセンターを取り巻く環境変化
東南アジアにおける日系企業は、急速に進行するデジタルシフトに対応するため、カスタマーサポートにデジタル技術を積極的に導入しています。小売業やeコマース業界では、オンラインショッピングが急増しており、顧客サポートのデジタル化が進んでいます。例えば、大手eコマースなどのプラットフォームでは、AIを活用したカスタマーサポートが導入されています。スマートフォンや家電製品のメーカーは、製品の技術サポートやアフターサービスにデジタル技術を活用しています。例えば、AIチャットボットを通じたトラブルシューティングやFAQの提供が一般的です。東南アジアではインターネット普及率が急速に上昇し、消費者のオンライン活動が増加しています。この地域の消費者は、オンラインショッピングやデジタルサービスの利用に慣れており、企業は顧客のデジタルチャネルでのサポートを提供する必要があります。消費者の期待が高まり、迅速でパーソナライズされたサポートが求められています。AIチャットボットや自動応答システムを導入することで、企業は24時間体制でのサポートを実現し、顧客満足度を向上させることができます。これにより、顧客満足度の向上や運営効率の改善が期待されており、今後もこの動きは加速する見込みです。
AIを活用したコールセンターの負荷軽減とコールセンター担当者支援
これらの課題を踏まえると、コールセンターの人材を増やすことが容易でないことが分かります。人材不足が今後も続く事を前提とした課題解決が求められています。また急速に進行するデジタルシフトに対応するために、AI等を活用した顧客対応が求められています。AIを活用してコールセンターへの入電量を抑えつつ、入電時の対応を効率よく処理することで、コールセンターの人材不足を補いながらより質の高いサービスを提供することが可能となります。コールセンターの一連の業務の中でAIを活用した以下の①無人チャネルの自己解決促進、➁振り分け・差配自動化、➂回答方針の検索・生成の導入イメージをご紹介します。
① 無人チャネルの自己解決促進
コールセンターに来た問い合わせはどれくらいで回答できていますか?問い合わせに来た顧客を長く待たせるような状況はないでしょうか? AIを活用して自己解決率を向上することにより、有人の問い合わせ対応数を削減し、業務効率化を図ることができます。これにより迅速な自己解決アシストによる顧客満足度も向上させることが可能となります。
【FAQ自動生成によるテキストベースの自己解決促進】
無人ChatBotに顧客から問い合わせがあると、FAQと連携して顧客に回答を表示します。既存のFAQに回答が無い場合、生成AIを利用してFAQを自動生成し、コールセンター担当者(CC担当者)は生成AIにより自動生成されたFAQの内容を確認したうえで無人ChatBotを介して回答を表示します。CC担当者は有人対応が発生しないため工数を削減することができます。一方、FAQ自動生成のハルシネーション*1の可能性は0にならないため、ある程度経験があるCC担当者をチェック者として2名以上アサインし、クロスチェックを実施することでリスクを回避する等の検討が必要です。
*1:AIや機械学習モデルが、訓練データに基づいて現実には存在しない情報や結果を生成する現象を指します。
【テキスト+音声や表情を用いた自己解決促進】
アバターは顧客からの音声による質問に、聞き耳を立てるしぐさや音声とアバターの口の動きを合わせる人間らしい反応を示しつつ、日本語の合成音声で適切な回答をするなど、顧客とアバターの会話型相互コミュニケーションを行います。これにより顧客は単なる音声だけでなく、表情やジェスチャーを伴う対話を楽しむことができ、より親しみやすいサポートを体験することができます。また、アバターを企業のブランドイメージに合わせてカスタマイズすることで、顧客に対して一貫したブランド体験を提供し、ブランド認知度を高めることができます。一方、アバターの音声や表情等の振舞いのチューニングはこれまでになかった作業となり、その部分の工数は増えることになります。
② 振分け・差配自動化
AIは問い合わせの内容や緊急度に基づいて適切に担当者を割り当てるため、業務の負荷が均等に分散され、スタッフの疲労を軽減できます。自動差配により、手動での振り分け作業が不要となり、人的リソースを削減することができます。これにより、コスト効率の高い運営が可能となり従業員の満足度向上を図ることができます。またAIは同時に多数の問い合わせを処理できるため、繁忙期や予期せぬ問い合わせの急増にも柔軟に対応でき、追加の人員を必要とせずに運営することが可能となります。AIはプログラムに基づいて一貫した基準で問い合わせを差配するため、すべての顧客に対して均一なサービスを提供することができ、自動化された差配により人為的なミスを減少し、正確な対応が可能となります。
顧客からの用件の振分け、差配自動化の導入の際は、現状の振分けルールの粒度や正確性等に問題が無いか、緊急性が高い問い合わせ・サービス等の特殊要件の有無を確認しながら実施することが必要です。
③ 回答方針の検索・生成
AIは大量のデータを瞬時に分析し、適切な回答案を生成することができます。これにより、担当者は迅速に顧客に対応でき、待ち時間を大幅に短縮できます。またAIが回答案を提供することで、担当者は一から回答を作成する必要がなくなり、業務負荷が軽減されます。これにより、より複雑な問題解決に集中できます。AIが多くの問い合わせに対する回答案を迅速に提供することで、必要な人員数を削減でき、コスト効率の高い運営が可能となります。迅速かつ正確な回答を提供することで、顧客の満足度が向上します。特に、緊急性の高い問題に対して迅速に対応できることが重要です。
生成AIを活用した回答案を作成する際は、どこまでハルシネーション等の回答の誤りを許容できるか、回答作成に求められる即時性・リードタイムをどう設定するか、例えば電話対応時に音声認識後2~3秒後にサジェストを求める設定にする等の検討が必要となります。また、顧客情報利用に関わるAI活用コンプライアンス、ガバナンスの検討も必要となります。
AIを活用して問い合わせに対する回答案を生成することには、多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。効率化や生産性の向上、一貫性と正確性の向上、コスト削減、顧客満足度の向上といった利点を最大限に活用しつつ、導入コストや技術的課題、複雑な問い合わせの処理における限界などの課題に対処することが重要です。バランスの取れたアプローチを採用することで、コールセンターのサービス品質を向上させ、顧客の期待に応えることができます。
今回ご紹介したAIを活用したコールセンター業務の自動化や平準化について、ご質問やご意見がございましたらどうぞお気軽にお問い合わせください。
著者:川門 正幸
※本ニュースレターは、2024年8月5日に投稿された内容です。
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