ナレッジ

中国市場におけるサプライチェーンリスク管理―サードパーティリスクへの対応

APリスクアドバイザリー ニュースレター(2023年11月30日)

サプライチェーンを検討していく中で、品質・コスト・納期といった観点での分析は一般的に行われており、また最近ではこれにサステナビリティの観点を加えた、いわゆるQCD+Sといった切り口で分析が為される場合もあります。一方で、サプライチェーンにおけるリスクの観点からの分析は、必ずしも行われていない、又は優先度が高く位置付けられていないことも多いと考えられます。

リスクの観点を踏まえずにサプライチェーンを検討すると、当初想定していなかったリスクの顕在化によって、思わぬ形でサプライチェーンが毀損したり、場合によっては企業に甚大な被害を及ぼしたりする事も考えられます。

そこで今回は、リスクの観点も含めたサプライチェーン検討の重要性を紹介すると共に、その中でも特に中国においてリスクが高いとされる、サードパーティーリスクの管理について紹介します。

 

リスク観点からのサプライチェーン検討の重要性

今日の日本企業、特にグローバルに展開している企業は、非常に複雑なサプライチェーンの中で事業を進めています。しかし、ともすると、その都度最もコストの低い取引先を選定する、といった場当たり的な対応の繰り返しでサプライチェーンが構成されている事もあるため、先ずはその全体を可視化し、その上で、全体のリスクを把握していく事が、基本的な進め方となります。

可視化を行うことで、自社に直接的に関連するリスクだけでなく、サプライチェーン全体でのリスクを棚卸する事が可能となります。ビジネスモデルによって異なるものの、例えば開発、仕入、製造、販売、アフターサービスといった流れで顧客に製品を販売している場合、その各サプライチェーンの中でリスクを洗い出す事となりますが、実際に、それぞれが行われている地域、相手、規模、取引形態等の情報を記載した上で、その切り口からの分析を進める事となります。

下図は地域の視点に特に焦点を当てた場合のサプライチェーンリスクを検討する際の例です。イメージしやすいものとして、例えば特定の地域のみに発生しやすい自然災害等がある場合、当該自然災害が起きてもサプライチェーン全体が止まらないよう、安全在庫を確保したり、大体取引先を予め想定したりする等の対応が必要と考えられます。またこれに加え、一般には中々後回しにされ易い、不正リスクの程度や様態についても、地域毎に特色がある場合が多く、可視化の後に深い知見に基づいた対応が必要となります。

(サプライチェーンリスクの検討にかかるフレームワークについては、次月でも詳しく取り扱います)

 

 

中国で特に重要となるサードパーティーリスクの管理

このような状況の中で、中国に進出している日系企業が特に留意すべきと考えられるのは、サードパーティーに係るリスク、とりわけ不正に係るリスクの管理と考えられます。下図の通り、中国はアジアの他の地域と比べても不正リスクが高い水準にあります。取引先と共謀した不正も多く、サードパーティーリスク管理の観点から、未然にこれを防ぐ、或いは定期的に見直し不正の兆候を掴むことで、当該不正に起因する企業が被る損失を低減することが重要となります。

一般に、取引先と共謀した不正は、社内で完結する不正と比べ、不正そのものを捉えて発見する難易度が高い傾向にあります。そのため、取引先の評価を通じて、その兆候を発見することが重要となります。これは例えば、社内資産の横領等であれば、施錠管理の強化や定期的な資産の棚卸等を通じて、未然にこれを直接的に防ぐ、或いは不正が行われたとしても、比較的直ぐに発見することも可能です。一方で、仕入先と共謀して高値で仕入れ、キックバックを受領するといった不正の場合、契約自体は適切に締結されており、またキックバックを受領している状況を直接的に示す取引先担当者とのやり取り等は個人端末を使われる事が多いため、証拠を入手することは困難となる、といったことが考えられます。

本稿では対応策として重要なサードパーティーの適切なリスク評価、特にその代表例として、仕入先の評価と販売代理店の評価について紹介します。

(以前のニュースレター「アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査(中国)」も併せてご参照ください)

 

仕入先の評価

仕入先に対しては、仕入代金の支払いとして出金を伴うため、企業にとって直接的に経済的な損失を被る可能性があるという点において、不正のリスクが特に高いと言えます。典型的には、仕入先の担当者と企業の購買担当者が共謀していたり、そもそも仕入先が購買担当者の息のかかった会社であったりすることも事例として考えられます。このような仕入先との取引の場合、前述の通り取引価格を高く設定してキックバックを受領していたり、支払期日やキャンセル権等の取引条件を企業にとって不利なものに設定していたりすることが想定されます。

こういった仕入先の有無を洗い出すためには、仕入先を個別に評価していく事が重要となりますが、その際にはデータ・アナリティクスの技術を用いた分析が有用となります。一般に取引先は膨大となることから、マニュアルでの確認は限界があるためです。具体的な手法として、例えば仕入先マスタの情報を分析し、以下のような仕入先有無を確認することが考えられます。

  • 特定の仕入先に取引が過度に集中している
  • 資本金が極端に少ない、小規模な取引先である
  • 名称が異なり、別の仕入先マスタとして登録されているが、住所が同じ取引先である

もちろん、上記の特徴に合致した仕入先が検出された場合でも、直ぐに不正な取引を行っている事を直接的に示す訳ではありません。ただ一方で、例えば過度に集中している特定の仕入先は本来支払う必要のないマージンを得るための会社であるリスクがあり、また小規模な取引先は購買担当者の親族が経営している会社であるリスクが考えられます。また住所が同じ会社は、名称こそ異なるものの実態としては同じ会社で、両社から見積もりを取得することで、見せかけ上の相見積もりを行っているといったリスクも想定されます。

このように、仕入先を用いた不正を想定した上で、想定される不正のリスクシナリオに基づき、その特徴を有する仕入先の有無を確認することが、不正の兆候を捉えていく事が重要となります。

(以前のニュースレター「デジタルコントロール:中国における実務紹介〜オペレーション、内部統制のデジタル化 購買活動へのデータ・アナリティクス適用の事例」も併せてご参照ください)

 

販売代理店の評価

販売代理店の場合も、仕入先同様に、データ・アナリティクスの技術を用いてバックグラウンドの分析を行う事が有用です。価格や納期、決済期間といった取引条件を不公正に設定したりするリスクを検出するために、販売代理店を評価することが重要となります。

また、仕入先の評価とは異なる、販売代理店固有の論点として、レピュテーション毀損のリスクの重要性や、リベート計算の正確性検証の必要性等が挙げられます。

販売代理店は商品の会社の看板を掲げている事が多く、販売代理店で発生したコンプライアンス違反は、当該商品の企業のレピュテーションを毀損する可能性が高い傾向にあります。そのため、例えば販売代理店の評価においては、以下のような項目の有無も確認することが考えられます。

  • 過去の訴訟記録
  • 過去の報道の情報
  • 個人情報の取り扱い
  • 贈収賄や汚職に関する研修の実施状況

上記は公的機関による情報開示のデータベースからの検索や、地域情勢の理解に基づいた主要報道機関からの情報収集が必要となります。また、個人情報の取り扱いや研修の実施状況については、対象会社に対する当該調査への協力が契約書に明記されていない場合は、その依頼や調整が必要となる他、具体的に求められる水準を設定した上で、これに合致しているかどうかを、リスクの観点から確認することが重要となります。

リベート計算の正確性についても、対象会社に対する当該調査への協力が契約書に明記されていない場合は、その依頼や調整が必要となります。また一般に企業と販売代理店は利害相反の関係にあることから、企業外部の第三者が間に入り調査を行う事が、双方が納得し今後の取引関係を円滑にする上でも重要となります。実務上は、販売代理店が販売した数量を示す具体的な証憑の確認や、状況に応じて在庫の実地棚卸への立会等を行う場合もあります。

 

まとめ

サプライチェーンの検討時には、いわゆるQCD+Sといった切り口の他に、リスクの観点からの分析が、より安定的な事業運営に重要となります。特に中国に進出している日系企業においては、不正リスクも考慮したリスクを適切に評価することが重要となります。

リスク評価時には、各サプライチェーンの状況に応じた適切な評価が重要であり、中国のリスクに関する深い理解や、デジタルを活用した的確な分析が必要不可欠と言えます。また、リベート計算の正確性確認等のように、企業外部の第三者による関与が、互いの利害調整の観点からも求められる場合もあると考えられます。

デロイト トーマツ グループでは、中国固有のものを含めた企業を取り巻くリスクに関する深い理解や、これに基づいたデジタルを活用した的確な分析による、円滑なプロジェクト推進を支援致します。詳しくは、デロイト トーマツのプロフェッショナルまでお問い合わせください。

著者:日下部 直哉

※本ニュースレターは、2023年11月30日に投稿された内容です。

アジアパシフィック領域でのリスクアドバイザリーに関するお問い合わせは、以下のメールアドレスまでご連絡ください。

ap_risk@tohmatsu.co.jp

お役に立ちましたか?