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中国における脱炭素およびESG開示の動向と対応

APリスクアドバイザリー ニュースレター(2022年9月20日)

中国における脱炭素の動向と政策

地球温暖化を背景に脱炭素に向けた動きが世界の潮流となっており、多くの国が2050年までのカーボンニュートラル達成を目標に掲げているが、中国においても、2020年9月に習近平国家主席が第75回国連総会において、いわゆる「2060目標」を正式に世界に向けて発表した。これは、2030年までに温室効果ガス排出量のピークアウトを目指し、2060年までにカーボンニュートラルを目指す」という目標であり、当該目標公表後、3段階での到達目標の発表(~2025年:⾮化⽯燃料割合20%。 ~2030: ⾮化⽯燃料割合25%。 ~2060年:⾮化⽯燃料割合80% )、第14次5カ年計画に基づく具体的な計画(グリーン及び低炭素エネルギーへの移行を加速することが明文化)の発表等、世界最大の温室効果ガス排出国である中国においても、トップダウンで脱炭素に向けた動きが加速している。このような脱炭素への目標を達成するための主な施策として、火力発電の比率を下げ風力・水力発電等の比率の向上および水素エネルギーの活用等によるエネルギーの代替、技術革新による製品消費電力の削減・エネルギー効率の向上、炭素除去技術の推進等がある。また、2021年7月には全国炭素排出権取引所が始動しており、まずは重点排出事業者である電力事業者を対象に余剰排出量や不足排出量の売買が開始されている。今後の規制の対象は、炭素排出の主要産業である電力産業からその他の高排出産業へ、そして全産業へと拡大する事が想定されている。

 

中国のESG開示の動向

このような世界的な脱炭素の動きの加速に合わせ、企業の気候変動関連の情報開示についてもTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づく開示等を中心にその充実が図られてきた。ESG開示に係る国際的な開示基準については、基準設定主体や基準が乱立している状況であったが、2021年11月に設立されたISSB (国際サステナビリティ基準審議会) を中心に他の設定主体との統合・合意が進んでおり、2022年中にも統一化された気候変動関連の開示基準が公表される予定となっている。

中国においては、ESG開示に関する統合された法令はなく、半期および年次報告書でのESG情報開示の奨励に留まっている状況にあり、グローバルな統一基準の作成を担うISSBの活動・イニシアチブに積極的に参加し貢献する意向を示している。具体的には、金融機関・企業・専門サービス機関・研究機関等から構成されるサステナビリティ報告ガイドラインに関する5つの研究グループの設立によるISSB専門グループの強化、副会長への立候補やISSBアジア・オセアニア地域事務所の北京での設立誘致を始めとしたISSB機関への積極的な参加、発展途上国や新興国の利益の代弁および中小企業や上場企業向けの開示促進を意図した文書化支援等に財政部が中心となって乗り出している状況である。


【中国 ESG開示の現状】

中国 ESG開示の現状
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上記動向を踏まえた在中日系企業の対応

上述した中国での脱炭素の政策・動向を踏まえ、電力、石油化学、化学、建材、鉄鋼、非鉄金属、製紙、航空の8重点事業に属する中国の国営企業を中心に、カーボンニュートラル達成に向けた自社の排出量測定、削減に向けた計画・対応が中国で始まっている。在中日系企業からも、中国事業における排出量の見える化、削減計画の策定、再生エネルギーの確保に向けた施策等に関するご相談が増えてきており、今後さらに本格化してくるものと想定される。また、上述したESG開示の観点からも、ISSBによる統一化された気候変動関連の開示基準公表に伴い、開示範囲の明確化により海外連結子会社も明確に開示対象となった場合には、在中日系企業においても、日本本社の要請により中国での関連情報の収集、またそれを行う体制の整備、情報の正確性を担保する内部統制の整備等がより明確に求められることが想定される。


【ISSB 気候変動関連開示基準のプロトタイプ】

ISSB 気候変動関連開示基準のプロトタイプ
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出所:金融庁サステナビリティ開示資料

下図のアプローチ例にある通り、カーボンニュートラルに向けては事業戦略、パートナーシップといったビジネス観点のみならず、リスクマネジメントや情報開示の観点も含めた取り組み全体に関するロードマップが必要となる。デロイト中国においても、カーボンニュートラルに関するプランの作成・実行(温室効果ガス排出量の見える化、削減に向けたロードマップの作成、削減施策等)、気候変動シナリオ分析、TCFD等の開示対応、 等これまで数多くの支援を行ってきている。 脱炭素に向けて明確な指針を示す中国における今後の脱炭素の動向、及び在中日系企業において検討すべき課題について、本稿が皆様の理解の一助になれば幸いである。


【カーボンニュートラルへのアプローチ例】

カーボンニュートラルへのアプローチ例
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本稿に関連するデロイト中国のサービスのご紹介

  • カーボンニュートラル計画策定
  • 温室効果ガス排出量の検証
  • 気候変動シナリオ分析
  • TCFD等の気候変動関連開示対応

詳細は各拠点デロイト トーマツ グループ担当者までお問合せいただけましたら幸いです。

著者:加藤 宗一郎
※本ニュースレターは、2022年9月20日に投稿された内容です。

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