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多様化するグループにおける本社・地域統括会社の在り方と東南アジアにおける経営論点

APリスクアドバイザリー ニュースレター(2022年11月29日)

外部環境の変化が激しさを増す中で、多くの企業がグローバル展開の加速を進めており、企業集団の性質も多様化・複雑化が加速してきています。そのような環境下において、多くの日系企業では本社・統括機能の在り方の再考を通じ、東南アジア地域の成長を支えるガバナンス・経営管理基盤の構築を図る動きが顕著になってきています。

本ニュースレターでは、昨今の本社・統括機能の在り方に関する論点整理および今後取り組むべき経営論点についてご紹介いたします。

日系企業型の経営管理の課題と課題解決のポイント

東南アジア地域における日系企業型の経営管理の課題として、(1)事業推進とリスクマネジメントの分離、(2)コーポレート部門の距離感・事業ポートフォリオ管理の不在、(3)「効果検証」の弱さ、が挙げられます。昨今、ステークホルダーからは利益追求のみならずリスクマネジメントへの期待も高まる一方、こういったリソースや組織構造上の問題に直面していると考えられます。

具体的には、事業推進とリスクマネジメントの分離やコーポレート部門の距離感・事業ポートフォリオ管理の不在においては、事業推進は事業部・カンパニー側、リスクマネジメントはコーポレート側に分離されているケースが多く、利益追求活動と内部統制活動の関係が対立的に捉えられるためにリスクマネジメントが形骸化してしまう傾向にあると考えられます。また、事業中心の積み上げ型の計画になることで将来を見据えたポートフォリオでの計画策定が行えていないケースも散見されます。

さらに、「効果検証」の弱さにおいては内部統制も制度対応という意味合いが強く、コーポレート部門が方針決定・展開を行うものの、それらの適切性についての「効果検証」が行われていないケースが散見されます。加えて、リスクマネジメント・内部監査部門の組織内での位置づけも中途半端もしくは弱い位置づけとなっていることが多い状況にあります。

このような状況も鑑み、強い地域統括機能を設計・整備していくためには、(1)プロセスガバナンスの推進・域内グループ会社への提供サービスの拡充、(2)人に依存したガバナンスモデルからの脱却、(3)地域軸での事業ポートフォリオ管理、に取り組むべきと考えられます。

具体的には、プロセスガバナンスの推進・地域グループ会社への提供サービス拡充について言えば、間接業務など重複のある機能・プロセスもある中で、事業部の壁・標準化のばらつきを理由に集約が進まないケースが多く、仮に地域統括機能が支援をしたとしても本社出先機関としての方針展開に留まることから、事業会社側がメリットを感じないケースが多い状況にあります。つまり、地域統括機能として、域内標準プロセスの整備やシェアードサービスの提供、人材育成など通じた低コスト・高品質の業務インフラの提供に取り組む必要性があると考えられます。

ガバナンスモデルに関しては、大半の統括機能は事業に遅れて作られるという背景もあり、権限委譲が進んでおらず、役員を配置したとしても事業部・事業会社への発言力が弱い状況にあります。改めてガバナンスレベルの維持・向上を図る上では、地域統括機能として、情報収集基盤の整備・リソースの拡充によるパフォーマンスマネジメント・リスクマネジメントの統合および推進をリードしていく必要性があると考えられます。

地域軸での事業ポートフォリオ管理に関しては、3年程度の時間軸で見た収益計画が優先されるため、長期的な目線での経営環境分析や時間を要する施策は織り込めず、地域戦略は、各事業会社の計画を単純に合算したものになっているケースが多い状況にあります。地域統括機能として、事業軸とは異なる時間軸での事業評価や、メガトレンドなど長期的なリスク把握・インテリジェンス機能を発揮していく必要性があると考えられます。

以上を踏まえれば、従前のように、全ての機能を有し、本社の代わりに地域全体の管理を志向する地域統括会社の在り方(小さな本社型)では非効率や達成不可能な状況になることが想定され、より特定機能に特化したサービス提供機能会社や域内のリスク管理高度化に向けたインテリジェンス機能・CoE機能を有する地域統括機能への変革が求められてきていると考えられます。

 

統括会社の在り様は、事業ステージや外部環境の変化を通じて、変容しつつある。コロナ感染拡大後、物理的な距離というメリットがなくなったため、機能見直しの議論が再燃している

地域統括会社の機能設計のトレンド

東南アジア地域における経営論点

前述では、本社を含めた地域統括の在り方についてご紹介しましたが、以降は実際にどのような経営環境・論点につき議論がなされ始めているのかという点につきご紹介させていただきます。
 

【東南アジアにおいてもデジタル化/サスティナビリティ等のグローバルトレンドが影響】

以前から東南アジアという一括りで論じられることの多い地域ではありますが、実際には国毎に経営環境が異なるという点が当該地域の特徴と言えます。そのような中、昨今では、サスティナビリティに対する消費者の関心の高まりや、各国におけるテクノロジー/データ関連規制の整備進展など、東南アジアにおいても他地域と同様のテーマに対する関心が増大傾向にあり、東南アジアではこのようなアジェンダは将来的なものである、という整理にはできない環境に変化してきていると言えます。

 

東南アジアは国・地域ごとに異なる多様な経営環境であるが、デジタル/サステナビリティというグローバルトレンドの波に飲み込まれ、更に複雑性・多様性が増している

東南アジア地域の経営環境 昨今はデジタルによる変化が顕著

【増大する経営リスク】

そのような中、日系企業に目を移しますと、COVID-19発生以降の渡航制限等に端を発した内部統制の形骸化、人材確保難・組織の空洞化、非効率なオペレーションに伴う収益性の低下に拍車がかかることに加え、昨今の為替変動に伴う資本コストの高まりなど、多くの課題が山積しつつある状況にあり、今まで以上に地域統括にかかる期待は大きくなりつつあると考えられます。

 

外部環境が目まぐるしく変化する中で、日本企業の海外拠点において多くの課題が顕在化しつつある

日本企業の海外拠点が直面する経営課題

【在東南アジア日系企業が取り組むべき4つのテーマ】

前述の通り、東南アジアにおいてもサスティナビリティやデジタル化等のグローバルトレンドへの対応が求められ始めており、これら潮流変化に伴い、日系企業が解決すべき経営課題も広範且つ難易度が高いものになりつつあると考えられます。このような厳しい経営環境下において継続的な企業価値維持・向上を図る上では、大きく4つのテーマに取り組むべきと考えられます。

  1. デジタルによるコントロールの強化:
    デジタル化を通じたオペレーションの効率化・高度化に取り組む企業が多いことは事実です。但し、効率化・高度化のみを追い求めた結果、統制ポイントが不適切になり、結果的に不適切な事象が発生しているケースも増えてきています。加えて、COVID-19発生やビザ取得難に伴う人材獲得も困難な状況を鑑みれば、デジタルと人の融合を通じたモニタリング機能の実効性強化が必要と考えられます。
  2. サイバーセキュリティへの対応:
    従前まで、テーマ性や現地側でのケイパビリティ/リソースの問題もあり、本社において取り組むべきものとして認識されがちなテーマでしたが、昨今現地側でも各種インシデントが発生しています。最悪の場合にはサプライチェーンの維持も困難になるリスクを秘めていることから、現地側での対応が急がれている状況にあり、本社との連携を通じ事業継続性を維持・担保する態勢整備が必要と考えられます。
  3. ESGの推進:
    サイバーセキュリティへの対応と同様に本社において取り組むべきものとして認識されがちなテーマでしたが、特に現地側では製造機能を有する企業も多く、サプライチェーン自体の透明性確保を図っていく必要性があることに加え、今後段階的に開示が進む非財務情報の開示に向けて、地域内に散在且つ電子化されていない情報をどのように集約/活用していくかという検討が必要になると考えられます。
  4. オペレーションモデルの変革:
    内部統制の形骸化、人材確保難といった課題に対処することに加え、地域としての収益性維持・向上を図るためには、グループ間での業務集約や必要に応じた外部リソース活用を通じたオペレーションモデルの変革は必須と考えられます。上記を検討していく上で、地域統括機能として求められる機能の見極めも併せて検討していく必要があると考えられます。

 

継続的な企業価値の向上に向けた取り組みが必要となっている

在東南アジア日系企業が考えるべき「4つのテーマ」

本稿に関連するデロイト トーマツ グループのサービスのご紹介

  • 地域統括機能設計支援
  • グループガバナンス設計支援
  • デジタルを用いたガバナンス構築・オペレーション変革支援
  • リスクマネジメント・内部監査態勢構築支援
  • サプライチェーンマネジメント態勢構築・強化支援
  • ESG関連支援(デジタル活用を通じた非財務情報収集支援、等)

詳細は各拠点デロイト トーマツ グループ担当者までお問合せいただけましたら幸いです。

著者:大橋 正朋
※本ニュースレターは、2022年11月29日に投稿された内容です。

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ap_risk@tohmatsu.co.jp

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