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海外拠点ERP導入におけるテンプレートアプローチの課題
APリスクアドバイザリー ニュースレター(2022年2月28日)
日本においても多くの企業で利用されているERPパッケージ、SAP。2020年に2年のサポート延長が発表されたものの、今なお多くの企業が利用しているSAP ERPのサポート期限が切れてしまうこの問題が、「SAPの2025年問題」として話題となっている。以降、コロナ禍におけるリモートワーク推進等を基にした政府のIT推進施策とも相まって、自社のERPの「あるべき姿」について改めて検討を行った企業も数多くあるだろう。その中で、従来のシステム導入プロジェクトにおける課題を解決すべく、「テンプレートアプローチ」を選択し、海外拠点も含めたプロジェクトが組成されることも日本企業においてはしばしば見られたが、本稿ではその「テンプレートアプローチ」の抱える課題について取り上げたい。
テンプレートアプローチとは?
製造業におけるGxP対応や、会計領域におけるIFRS対応など、複数企業間で類似した対応が必要となる事例は多い。テンプレートアプローチとは、各業界におけるベストプラクティスをシステム導入に取り込む方策で、テンプレート化されたシンプルな業務フロー・KPI・パラメータ等の“枠組み”の中で、適宜自社の強みも加えながらも、可能な限りシンプルな枠組みを定義・活用することで、要件定義からシステム開発までシステムの設計を行うものである。多くの企業がシステム開発において労力を割いてきた要件定義を効率良く進められる点や、同じ領域でビジネスを展開する企業間での横串対応が取れる安心感も功を奏し、近年当該アプローチを採用しているプロジェクトも多い。
テンプレートアプローチの抱える課題
テンプレートアプローチを採用したプロジェクトに参画した経験を基に、筆者が当該アプローチの課題として認識したものはいくつかある。その中でも特に「海外拠点におけるテンプレートアプローチ」の課題について2点取り上げる。
1.テンプレート利用への抵抗
独自の法規制の多い中国や、SAPを筆頭としたERP活用経験値が高いヨーロッパに拠点がある場合、そもそも日本基準で作られたテンプレートがテンプレートとして活用しづらく、結局従来のウォーターフォール型のシステム開発として要件定義から着手することになるケースがある。テンプレートそのものに対する展開前の検討が不十分というケースもあるが、日本本社が主体となるプロジェクトの場合、海外拠点のメンバーに既存の業務フローを変更してまでテンプレートに沿った業務を要求しきれない、という推進力の弱さが根本原因となることもしばしばである。これに起因して、テンプレートが全く顧みられなくなり、最終的には用を為さなくなるリスクが高まることになる。
2.テンプレートに定義されていないフローの大量検知
1点目との関連性が高いが、テンプレートアプローチを取ることでテンプレートに含まれないフローが大量に検知され、当該フローをERPでどの様に実装するか?という、もはや別プロジェクトの立ち上げが必要となるケースがある。こちらも定義済みのテンプレートが真にERPシステムの活用方法として理にかなったもので、かつプロジェクト推進の力も強ければ何ら問題はなく、「むしろテンプレートを用いたことで正しくFit&Gapが分析できた」、という見方もできるが、実際にはテンプレートの不備が検知されることも多く、最終的に必要な工数を鑑みた際には、「従来のウォーターフォール型の開発と比して効率が悪化した」、というケースもある。
これらの課題が生じないようにするには以下の3点が不可欠である。
①各業界におけるベストプラクティスを正しく踏まえたテンプレートの定義
②プロジェクトメンバーの導入対象のシステムおよびテンプレートに対する深い理解
③海外拠点メンバーのコミットメント
特にコロナ禍という状況を踏まえても、プロジェクトメンバー相互の深いコミュニケーションを基にしたプロジェクト推進は、在りし日と比べると格段に難しくなっている。プロジェクトに参画する自社のメンバーのみならず、プロジェクトを管理するコンサルティング会社、システム提供元のERPベンダーなど、多くのステークホルダーがいかに緊密に連携できるかが、上記3点の対策の要となるだろう。
東南アジアにおける当該アプローチの課題
なお東南アジアにおいては、1点目の課題に関連し、現地語対応の必要性に迫られるケースが多い。現地語を使用したフォーマットに対する現地ユーザの強いこだわりが表面化することもしばしばである。その場合、極力開発工数がかからないようにテンプレートに寄せたシンプルなフォーマット定義を行う方法以外にも、既存の部門間をまたぐ業務フロー分析が可能なアナリティクスツールの1つであるプロセスマイニングなどを活用し、業務を可視化し、プロジェクトメンバーや現地ユーザと「利用頻度・ユーザ数を考慮した際に、本当にそのフォーマットは必要なのか?」というデータを用いた本質的な議論を行うことも打ち手となる。このような打ち手を講じるメリットとしては、導入段階からデータに基づいた有意義な議論ができるという点のみならず、後続フェーズにおいて、新たな業務フローを検討する際の良質な判断材料を持ち、テンプレート化が容易となるため、他拠点での横展開に用いやすい点が挙げられる。
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著者:内池 文香
※本ニュースレターは、2022年2月28日に投稿された内容です。
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