ナレッジ

ESG時代のグループガバナンスの在り方

APリスクアドバイザリー ニュースレター(2022年10月3日)

デジタルの急速な浸透は、社会を複雑化させ、先行き不透明さの増大、既存の業界の垣根を超えたビジネスモデルの誕生、サイバー空間の拡張に伴う重要性の高まりなどを引き起こしている。パワーバランスは人々の価値観に影響を与え、短期的な経済成長だけでなく、環境・人権などへの配慮を含む中長期的視点での豊かさを重視するようになっている。そのような社会構造の変化は、企業を取り巻く経営環境における不確実性・リスクを高め、資本コストの上昇を通じて、資本生産性の低下・企業価値の毀損を招く可能性がある。そのため、ステークホルダーが、ESGの観点から企業の持続的成長の可能性を把握・見極めようとしている。実現すべきゴールが多様化している今日、ゴールを達成するための仕組みである「ガバナンス」の在り方を再考すべきタイミングともいえるだろう。ガバナンス改革は、これまでもコーポレートガバナンス・コードや非財務情報の開示などを含めて様々な方向性が示されて、企業も取り組みを進めてきているが、「Comply or Explain」のアプローチのもと、可能な限りComplyし極力Explainを避けるという形式なコンプライアンスで済ませているという姿勢の企業が多いのも事実であろう。そのような姿勢は、リスクをテイクし、持続的な企業価値の向上を支えるガバナンスにはつながらないのではないだろうか。

企業を取り巻くリスクを把握・評価するリスクマネジメント部門や内部監査部門などは平時ではその重要性が認識されず、十分な人員が配置されないという日本企業の状況もあり、新たな法規制の誕生・インシデントの発生のたびに新たなルールを定め、優先順位付けがなされないまま、一律にそのルールに基づきグループ全体を統制するというモデルが取られてきた。その結果、要求対応事項は日増しに増加する一方、一つずつの取り組みは形骸化するという事態に陥っている。不確実性の増加する社会では、ゴールやリスクが変化するため、事前に合理的なルールや責任の所在を定めておくことがそもそも困難であり、失敗を許容しつつ、組織全体で継続的に学習し、アップデートするというサイクルを組織内に浸透させていく必要がある。企業集団内の関係性についても、本社をピラミッドの頂点とした垂直的な中央集権的な関係から、グループ間でより水平的に連携していくという自律分散の関係へと変化していくだろう。資本の力によるグループガバナンスから、積極的な対話や開示による相互信頼や共感をコアにグループを束ねていくとスタイルへのモデルチェンジが必要になってくる。無論、企業が直面するリスクは、一企業だけで対応できるものだけではなく、業界・地理的制約を超えて組織横断的に対応すべきものが出てきている。組織横断的な連携において、その基盤・前提となるものは何であろうか。それは「信頼」であり、組織の価値観・ゴール・取り組みを外部に積極的に開示し、対話を行い、透明性を確保しておくことであると考える。変化の激しい環境下では、形式的かつ消極的な規制対応という姿勢は、組織の体力を奪うだけで、リスクをテイクし収益機会を獲得していくことにつながらないだろう。不確実性への耐性を有したガバナンス、つまり、失敗を許容しつつ、組織全体で継続的に学習し、アップデートするというサイクル・仕組みを有した組織へと変革していく必要があるだろう。

ガバナンス強化はマネジメントが中心になり、組織横断的に議論を進めていくべきテーマと言えるが、日本企業においてはガバナンスの議論は経理部門・内部統制部門・リスクマネジメント部門・内部監査部門に丸投げされるケースも目立つ。リスクマネジメント部門や内部監査部門は、これまで期待される役割が高まっている一方で、機能の重要性が認識されずに十分な人的リソースが投下されていない、IT投資も後回しにされ効率化も進まないという状況が見受けられる。そのため、伝統的にヒトの勘・経験やマニュアル作業によるオペレーションが目立つが、デジタルを取り入れ、ヒトの良さとデジタルの良さを組み合わせて、実効性と効率性を高めていく取り組みが急務である。グループガバナンスを継続的にモデルチェンジしていくためにも、リスクマネジメント部門や内部監査部門といったリスク管理を専門とする組織が、「外部環境の分析をしながら、自社のガバナンスの実効性を評価し、迅速にアップデートする」というサイクルの推進役になることが期待されている。

変化の激しい時代においては、「コーポレート機能の見直し」・「データ・デジタルの活用」・「サイバーセキュリティの強化」・「サードパーティーリスク/サプライチェーンリスク管理」・「コンプライアンス態勢の強化」などがガバナンス改革の重要な論点になり得る。各論点については、10月から開始するウェビナーシリーズ「東南アジアにおけるESG経営」での解説をご視聴いただけると幸甚である。

本稿に関連するデロイト トーマツ グループのサービスのご紹介

  • グループガバナンス設計支援
  • デジタルを用いたガバナンス構築支援
  • リスクマネジメント・内部監査態勢構築支援
  • サプライチェーンマネジメント態勢構築・強化支援

詳細は各拠点デロイト トーマツ グループ担当者までお問合せいただけましたら幸いです。

著者:蓑和 秀夫
※本ニュースレターは、2022年10月3日に投稿された内容です。

アジアパシフィック領域でのリスクアドバイザリーに関するお問い合わせは、以下のメールアドレスまでご連絡ください。

ap_risk@tohmatsu.co.jp

お役に立ちましたか?