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ガバナンスの観点からの中国地域統括会社の役割

APリスクアドバイザリー ニュースレター(2024年5月31日)

はじめに

昨今の中国における経営環境の変化の中で、事業会社から戦略・事業の見直しを含む様々なご相談を頂戴する機会があります。

同時に、こうした動きの中で地域統括会社が担うべき役割についても、議論が及ぶ事があります。地域統括会社に期待される役割は多岐に渡ると考えられますが、本稿ではその中でもガバナンスの観点から、中国における地域統括会社の役割について、事例を踏まえつつご紹介します。

 

地域統括会社の役割の現状

地域統括会社が設立された背景や定められた役割は各社によって異なるものの、特にガバナンスの観点では、人事、会計・財務、法務、コンプライアンス、IT、内部監査といったコーポレート機能の領域において、地域内の各事業会社等が日本本社の策定したグループ方針を遵守するよう管理・統制する役割を担っていることが想定されます。またこれに加え、事業戦略や計画の進捗状況について日本本社へ報告すること等を通じて、事業統括の役割も担う場合も想定されます。

経営環境の変化が速い中国においては、各事業会社が個別的に遵守すべき事項への対応を進める事は、難しい場合もあると考えられます。例えば、急速なデジタル化が進む中でサイバー領域のコンプライアンス対応や、自社商品や事業戦略に大きな影響を与えるルール変更への対応等について、各事業会社の限られたリソースの中で進めていくのは限界があると考えられるためです。

そういった状況の中で地域統括会社に求められる、グループとしての方針が遵守されるよう管理・統制する役割の中には、各事業会社が方針を遵守しているかを単に確かめるのみならず、遵守できるよう積極的に導くための関与も含まれることが重要と考えられます。

 

中国の地域統括会社が担うべき役割と事例

グループガバナンスを考える際、日本本社からガバナンスを効かせるという方法もある一方で、実務上はガバナンスを効かせるための前提となる現地のリスクに関する情報のきめ細かい収集が困難です。特に中国においては、中国固有の経営環境やデータ越境移転規制を始めとした固有の規制への対応が求められることも多く、他の地域と比較しても、地域統括会社の果たすべき役割がより重要と考えられます。

地域統括会社の機能や役割については各事業会社の状況によって個別に検討されるべき内容ではあるものの、ここでは地域統括会社がガバナンスの観点から、積極的に役割を果たしている事例をご紹介します。

  • コンプラアンス遵守の推進
    データ越境移転規制を始めとした中国固有のコンプライアンス遵守を目的として、統括会社自身が積極的に情報収集・対応に当たり、その内容を地域内の各事業会社に共有。また当該事業会社のコンプライアンス対応を支援。自社の知見や経験等を共有することで、グループ全体のコンプライアンス遵守の推進に寄与。
  • 自社商品に係るルールの情報収集、開発への関与
    日本で商品の研究開発を行い中国で販売する場合において、中国で求められる仕様や規制等の情報を研究開発段階から日本へ提供。商品を中国に円滑に展開することを見据えた効果的な商品開発に寄与。
  • 購買活動のモニタリング
    各事業会社の購買データの収集・分析を通じて、グループの購買管理部門として各社の購買活動のモニタリングを実施。中国固有の事業環境の理解に基づいたモニタリングを実施することで、非効率な購買取引や不正リスクの高い異常な購買取引を効果的に検出する態勢を構築。
  • 固有のリスクに基づく内部監査の実施
    地域統括会社が各事業会社を対象に内部監査を主体的に実施。経営環境や実務慣行等の深い理解に基づき中国固有のリスク評価を行った上で内部監査を実施し、また改善施策の議論も進める事で着実な改善に繋げる。

 

おわりに

地域統括会社がガバナンス態勢において果たすべき役割は重要です。一方で、人事、会計・財務、法務、コンプライアンス、IT、内部監査、事業統括といった領域毎に、地域統括会社の果たすべき役割を再検討するには時間を要し、またその効果も直ぐには実感し難い場合があると考えられます。そのような場合、特に中国においては事例に基づいた具体的な課題を起点として、早い環境変化にすぐに対応するためのガバナンス態勢構築を目指す事も有用と考えます。

デロイト トーマツ グループでは、高い専門性に基づく中国におけるリスク対応の円滑なプロジェクト推進を支援致します。詳しくは、デロイト トーマツのプロフェッショナルまでお問い合わせください。

著者:日下部 直哉

※本ニュースレターは、2024年5月31日に投稿された内容です。

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