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【2023年最新】アジア/SEA進出日系企業におけるリスクマネジメントの実態について(シンガポール)
APリスクアドバイザリー ニュースレター(2023年2月16日)
アジア/SEA地域の最新リスクトレンド
多くの企業様はもうすぐ年度末を迎えられると思いますが、2022年度はどのような1年だったでしょうか。後ほど本ニュースレターの調査結果でも触れますが、COVID-19に対するリスク認識が落ち着きつつある一方で、為替変動やインフレなど、不確定要素の多い1年だったと思われる方が多いのではないでしょうか。
これらの不確実性は現在も継続していると考えられますが、来年度の事業マネジメントに織り込むべきリスクは何か、皆さま今一度棚卸をされたいことと思います。私たちデロイト トーマツ グループでは、アジアに進出している日系企業の皆さまに対し毎年リスクサーベイを実施しており、今年も沢山の示唆に富む結果が出てまいりました。本ニュースレターでは、上記サーベイに基づいた2023年最新のアジアのリスク状況をいち早く皆さまにお届けいたします。なお本サーベイは2部構成(第1部「アジアにおけるリスクマネジメント概況の調査」、第2部「アジアにおける不正の発生状況の調査」)となっており、今回は第1部のリスクマネジメントのポイントに焦点を絞ってお伝えいたします。
本文では、アジア/SEA(South East Asia)地域としての観点だけでなく、金融ハブや地域統括会社としての位置づけを踏まえたシンガポールとしての観点など、多面的な分析を致しました。新年度に向けた最新のインプットとしてご活用頂ければ幸いです。
【2023年最新】アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントの実態調査
調査目的
本調査では、アジア地域 (インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム、ミャンマー、中国、台湾およびインド) に進出している日系企業におけるリスクマネジメントの対応状況、不正への取組み状況を把握し、現状の基礎的データを得ることを目指します。その結果の開示を通じて、アジア進出日系企業の皆さまにおける「リスクマネジメント」の認識を高め、日系企業の経営に貢献することを目的としております。
※本文では、上記10か所のアジア地域をオールアジアと記載し、うち7か国(インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム、ミャンマー)をSEAと記載しています。
調査対象企業
9か所のアジア地域(インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム、ミャンマー、中国および台湾)に進出している日系企業の関係会社 (地域統括会社含む)を対象に調査を実施しました。今回の回答は、過去最高の720名の方よりご回答を頂きました。
調査方法
Webによる調査を下記の期間において実施しました。
調査期間:2022年10月10日~11月18日
調査項目
調査は2部に分けて実施し、第1部ではアジアにおけるリスクマネジメント概況を、第2部ではアジアにおける不正の発生状況を調査しました。
調査回答者
業種別回答数では、製造業が全体の約半数(48.6%)を、次いで卸・商社が19.2%、金融が6.7%を占めています。回答企業の売上規模では、50億円未満が全体の約半数(49.3%)を、50億円以上500億円未満が35.7%を占めています。回答者の部署としては、経営者が全体の約半数(48.3%)を、次いで経理・財務部の方が30.3%を占めています。
アジア/SEAにおけるリスクマネジメント状況
優先着手が必要な上位3リスク
オールアジアにおける結果としては、これまで2年連続で首位にあったパンデミックに対するリスク認識が一気に低下し、状況は落ち着きつつあります(2020年39.8%、2021年33.8%、2022年11.9%)。一方でSEAにおけるリスク認識では、人材流出、人材獲得の困難による人材不足リスクが首位となり(31.8%)、2位は原材料ならびに原油価格の高騰で31.0%、3位は市場における価格競争で20.6%との結果となりました。その他注目すべき点としては、為替変動リスクは前年より10ポイント以上上昇し19.9%、人件費高騰リスクは約5ポイント以上上昇し、19.5%となりました。
またアジアには金融のハブとしてのシンガポールが存在しており、オールアジアにおける金融セクターの業種別観点で本調査項目を確認すると、人材不足に関するリスクは同様に1位であるものの、その割合は43.8%とSEAの結果よりも10ポイント以上高い結果となりました。さらに同セクターにおける2位はサイバー攻撃・ウイルス感染等による情報漏洩(31.3%)、3位がグループガバナンス不全(22.9%)となり、SEAとは異なる傾向となりました。
次に地域統括会社が多いシンガポールに回答を絞って本項目を確認すると、金融セクター同様にSEAよりも人材不足に関するリスク割合が10ポイント以上高く(43.9%)、同国では2年連続1位となりました。2位は原材料ならびに原油価格の高騰でSEAと同じ順位ですが、同国には相対的に地域統括機能が多いからか、その値はSEAより10%ほど低い20.6%となりました。更にSEAと異なる傾向としては、サイバー攻撃・ウイルス感染等による情報漏洩(18.7%)と、グループガバナンスの不全(16.2%)がトップ5にランクインする結果となりました。こちらも同国に地域統括機能が多いことが影響したと考えられ、金融セクターの結果とも同様の傾向がみられることから、地域統括機能および金融業が多いシンガポールならではの結果になったと考えられます。
今後1年程度を見越して優先着手が必要と思われる施策
前項目では優先着手の観点からリスクを振り返りましたが、本項目では1年程度といった時間軸の観点を加味して考えたいと思います。前述のリスクに対し、短期的に打つべき施策はどのようなものが考えられるでしょうか。本項目以降は、オールアジアの結果に着目して記載いたします。
オールアジアにおいてはコスト削減(27.9%)、企業戦略の見直し(26.8%)、内部統制強化(23.1%)が上位3位を占める結果となりました。これらの項目は昨年も上位3位に入っており、引き続きの優先課題として認識されていると考えられます。その他トップ5には、新商品・サービス開発(19.7%)と人材育成計画の見直し(19.2%)が初めてランクインしました。
金融セクターでは内部統制強化が41.7%で1位となっており、オールアジアより約20ポイント高い結果となりました。2位は企業戦略の見直し(37.5%)、同率3位は新商品・サービス開発と危機管理体制強化(29.2%)の結果となり、こちらもオールアジアより約10ポイント高い結果となりました。
シンガポールでは昨年に引き続き、企業戦略の見直し(31.1%)と内部統制強化(28.3%)がトップ2となりました。そのほかでは業務プロセスの標準化(20.8%)とサイバーセキュリティ強化(19.8%)が昨年同様トップ5に入り、給与処遇の見直し(24.5%)とコスト削減(18.9%)の順位が3つ以上昨年より上昇する結果となりました。
上記施策の実行において現地側で不足・もしくは改善に取り組んでいる機能
今後1年程度を見越して優先着手すべき施策については明らかになりましたが、それではこれらの施策を実行するうえで、現地側で不足している、もしくは現在改善に取り組んでいる機能はどのようなものがあるでしょうか。来年度に向けて自社のリソースのみで対応が可能か、今一度ご確認頂ける良いタイミングかもしれません。
オールアジアおよびシンガポールでは似た結果となりました。オールアジアでは1位がデジタル推進機能(39.0%)、2位が地域戦略立案機能(37.2%)、3位が新規事業開発機能(28.3%)となり、昨年からトップ3の構成機能は変化がありませんでした。4位はコンプライアンス推進機能(27.4%)、5位はセキュリティ推進機能(23.5%)、6位は統合リスク管理機能(21.3%)との結果になりました。
シンガポールではトップ3まではオールアジアと同じ項目が含まれており、1位が地域戦略立案機能(45.3%)、2位がデジタル推進機能(40.6%)、3位が新規事業開発機能(24.5%)となりました。ついで4位以降はコンプライアンス推進機能(22.6%)、統合リスク管理機能(20.8%)、セキュリティ推進機能(17.9%)と、こちらもオールアジア同様にガバナンス関連の順位が上位にランクインしました。
金融セクターの観点では、1位がデジタル推進機能(47.9%)となり約半数の方がデジタルに強い関心を示されるとともに、同率2位では地域戦略立案機能(35.4%)に加え、コンプライアンス推進機能(35.4%)がランクインしました。前項目の質問等とあわせ、金融セクターにおいてガバナンス関連に関する高い関心が確認できました。
総括および今後の対策
アジアにおけるリスクマネジメント状況
オールアジアではCOVID-19に対するリスク認識が低下した一方で、SEAでは人材流出・人材獲得の困難による人材不足リスクが首位となり、原材料・原油価格の高騰、市場における価格競争等、インフレ関連リスクが上位に浮上しました。また為替変動や人件費高騰についても高いリスクとして認識されている状況です。
金融セクターの観点では人材不足に関するリスクは同様に1位であるものの、その割合はSEAの結果よりも10%以上高く、この状況は地域統括会社が多いシンガポールでも同様の傾向にありました。
上記の状況を踏まえると、人材不足が最重要のリスクとして考慮すべき状況になってきたと考えられます。特にシンガポールでは2年連続で人材不足リスクが最優先で着手すべきリスクとなっており、人材リスクそのものが企業の競争優位性に影響を与える大きなリスクとなっています。一方で、人材不足解消のために中途人材にのみ好待遇を提示すると、既存社員の給与等の大幅な改善はすぐには困難な場合も多く、既存社員の不満蓄積による士気やモラルの低下、退職等の新たなリスクが発生しかねない状況になっています。これらのバランスや、人材不足な状況でもいかに事業を進めていくかが重要になってきます。
今後の対策
本ニュースレターでは最新のリスクサーベイ結果をご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。アジア/SEAは各国・地域ごとに歴史的背景やビジネス慣習、規制や法律が異なるエリアであり、リスクサーベイの結果も各国・地域ごとに異なる結果となりました。今回はアジア/SEA地域としての観点だけでなく、金融ハブや地域統括会社としての位置づけを踏まえたシンガポールとしての観点など、多面的な分析とともにホットトピックをお届けいたしましたが、詳細をご希望の方はご連絡を頂戴できれば幸いです。
また今回のリスクサーベイ結果を踏まえ、各社様にとっての重要リスクを再検討頂いたあとは、その対策の実装が重要になります。アジア/SEA各国の法律や商習慣を踏まえたインプリメンテーションは、非常に困難かつ負担の大きいものになると考えておりますが、私たちデロイト トーマツはアジア/SEA各国に駐在員を配置し、日系企業の日本本社と各国拠点の双方を、ONE TEAMで支援することが可能です。ご関心がある方は気軽にご連絡を頂戴できれば幸いです。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
著者:渡辺 佑己
※本ニュースレターは、2023年2月16日に投稿された内容です。
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