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アジアにおけるRPA(Robotics Process Automation)の活用と、検討すべきポイント
APリスクアドバイザリー ニュースレター(2022年8月5日)
2020年に始まったパンデミックを契機にリモートワークを余儀なくされた結果、各企業にて業務プロセスのデジタル化が推進されている。もっとも、その推進の程度には大きな差があり、紙の証憑をPDF化することまでで留まっている企業もあれば、デジタル化されたデータの各種分析への利活用の実現や、従来手作業で入力していた入力作業の自動化を達成している企業もある。ことアジアの日系企業においては、一部の先進的な企業を除き、前者(PDF化)のような限定的な導入にとどまっているケースのほうが多いように筆者は感じている。
本稿では、プロセスのデジタル化の先進的事例の一つである、RPA(Robotics Process Automation)技術について、アジアの日系企業において何が導入課題になっているのか、どのようにそれらの課題に取り組むべきなのかについて述べる。
RPA導入のメリットと課題
多くの方がご存知であると思うが、議論の前提として、まずRPAの導入メリットを整理すると、大きく以下の通りである。
- 業務効率の向上(手作業よりも処理スピードが速い、長時間稼働が可能)
- 正確性の向上(一定のルール通り処理するためヒューマンエラーがない)
- コストが安価(ライセンスフィーは人件費よりも安い)
上記メリットを念頭に、ことアジアでというと下記のような状況がRPA導入の議論のきっかけとなりやすい。
- ベテラン従業員の退職を控え、業務を形式知化する必要があるケース
- キーマンであった従業員が突然やめて日常業務に支障をきたし、業務を可視化、棚卸するケース
- 日本より厳しい感染症拡大によるロックダウンを契機として、プロセスのデジタル化、自動化を検討するケース
しかしながら、いざ検討をはじめても、実際には以下の実務上の課題に直面し、導入できないケースが散見される。
- コストメリットが見いだせない
- ロボに置き換えることができる業務がない
- 社内でRPAに対応できる人材がいない
では、これらの課題に対処しながら、導入メリットを享受する手段はないのだろうか。以下で、筆者の考える課題への対処の方向性について述べる。
考えられる課題への対処
1.コストメリットが見いだせない
特にシンガポールを除く東南アジアにおいては人件費が安価である傾向があり、このような意見を聞くことが多い。ロボットのライセンスフィーより多少人件費の方が高くても、ヒトの方ができることが多いためそちらを選びたい、という声も聞く。とりわけ相対的に小規模な拠点が多いアジアの日系企業においては、コスト面だけを見て導入するのは難しいかもしれない。
この点については、コスト面だけでなく、ヒューマンエラーをなくすことによる業務の正確性の向上や、業務効率の向上による従業員の時間の使い方の変革(高付加価値業務へのシフト)などを総合的に検討し、「妥当なコストでRPAのメリット全体を享受する」方向で議論していく必要があると考える。
2.ロボに置き換えることができる業務がない
この課題の背景としては、処理や帳票のパターンが複雑、あるいはデータ化されていないため人間が目視で対応する必要があるなど、RPAが得意とする単純業務がないという状況に基づくものである。確かに、仕入先ごとに帳票のフォーマットが異なる、さらに手書きの文字なども含まれると、その時点でRPAによる自動入力などは難しい。しかしながら、技術の進歩によりOCR技術と組み合わせることで、帳票フォーマットのバリエーションや手書き文字への対応をRPAで実現しているケースもある。
また、特定の担当者が抱えていてブラックボックス化されていただけで、複雑と思われていたが実は標準化が可能であるケースも存在する。ロボに置き換えることができる「業務がない」のではなく、「見つけられていない」だけの可能性も考慮すると、業務プロセスの棚卸・可視化が有効な場合がある。
3.社内でRPAに対応できる人材がいない
高度なIT知識がないと対応できないというイメージからくる課題である。しかし実際には、多くのRPAソフトウェア自体はユーザーインターフェースがかなりわかりやすく作られているため、コーディングの知識がなくても簡易的な自動化であれば、RPAを組み立てることが可能である。もっとも、その上流工程である要件定義や、RPA完成後のさまざまなバリエーションを考慮したユーザーテスト、メンテナンスなども必要になってくるので、しっかりと機能するRPAを構築するためにはシステム開発全般に通ずる知識や経験が必要になってくるのは否めないが、それらをはじめからすべて自社で賄う必要はない。はじめはベンダーの支援を受けながら、社員がツールへの習熟やトラブルが起こった際の対応ができるようになるよう、人材育成を進めていくようなアプローチがよいだろう。
終わりに
以上、プロセスのデジタル化の一つであるRPAを取り上げて、アジアにおけるRPA導入上の課題と、対処の方向性について述べさせていただいた。
もし、日本の本社からデジタル化の検討を求められているものの、何から手を付けてよいかわからない、自社では必要性を感じない、海外は日本とは状況が異なるため対象外等の理由で、これまで業務プロセスの改善/デジタル化に十分踏み切れていない場合には、ぜひ現在の状況を是とはせず、適用可能性を考えてみていただきたい。
上記に関連するデロイト トーマツのサービス
- 業務プロセスの改善/可視化
- RPA導入アドバイザリー(人材育成含む)
- 独自開発の人工知能「Deep ICR®」を中核としたAI-OCRソリューション
詳細は各拠点デロイト トーマツ グループ担当者までお問合せいただけましたら幸いです。
著者:椙下 翔太
※本ニュースレターは、2022年8月5日に投稿された内容です。
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