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東南アジアにおける地域統括会社が考慮すべきガバナンスの高度化・効率化におけるデジタル化のポイントについて

APリスクアドバイザリー ニュースレター(2023年6月29日)

■はじめに

以前のニュースレターでは「地域統括会社が内部統制や内部監査において考慮すべきデジタル活用のポイント」を解説しましたが、今回はより広い範囲で(地域内経営に資する)ガバナンスの高度化・効率化に向けたデジタル活用のポイントを記載します。ここではガバナンスを「企業経営において公正な判断・運営がなされるよう管理・統制する活動」と定義します。

地域統括会社が行う域内のガバナンス強化の前提として、東南アジアで活動する企業は非常に多くの環境変化に対応しないといけないためガバナンス強化の対象領域も非常に広く、複雑であることに留意する必要があります。

例えば、デロイト トーマツが実施した最新の「アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査」で示された下記のようなリスクを念頭に置いて、ガバナンス高度化・効率化への対策を検討することが望まれます。

■地域統括会社に求められる機能とは

このような環境変化に耐えるため、地域内の各社へ適切にガバナンスを効かせるためには、経営に重要な影響を与える可能性のあるリスクをより早く、的確に捉え、将来的に想定される影響度合いを見極めながら必要な手当てを講じることが重要です。しかし、日本の本社では東南アジア以外の多くの地域のリスク情報をきめ細かく収集することは困難であるケースが多く、また東南アジア地域内の各社がその機能を個別に持つこともリソースやスキル面で現実的ではないことが多いと考えます。このため、地域統括会社の位置づけや求められる機能は会社ごとに異なるものの、地域統括会社がこのような機能を果たすことに対する期待値は高まっていくはずですし、実際にそのような声を聞くことが増えている印象があります。

 

■地域統括会社におけるデジタル活用の余地(ガバナンス高度化・効率化に向けた)

上記の通り地域統括会社への期待値が高まっている一方で、地域統括会社でもリソースやスキルが限定的であることが多いため、地域経営に影響を与える情報を収集し、地域横串の視点で対策を立案・各拠点にフィードバックしながらガバナンスを高度化するためにはデジタルを上手に活用することが効果的な手法の一つであると考えます。

地域内のガバナンス強化のためのデジタル活用の対象は下記の3つが考えられます。

  1. 社内外で起きている事象の情報収集
  2. 情報収集結果を踏まえた影響予測
  3. 影響を最小化するための管理策導入

1については、対象とする情報の種類に合わせて市販の専用ツールを導入することや、市販のシステムをベースに自社独自でデータを集計・統合・分析するような機能を実装することが求められます。

最近は下記のようなテーマごとに基本的な機能がパッケージ化されたツールも増えています(前回のニュースレター「地域統括会社が内部統制や内部監査において考慮すべきデジタル活用のポイント」でもその一部をご紹介をしています)。

<デジタル活用の対象例>

  • 地域内で発生している事故やインシデント報告・集計
  • 二酸化炭素排出量の報告・集計
  • サプライヤーの経営状況、事件事故・人権侵害の有無、経営層の不祥事等の情報収集
  • 自然災害や政変、紛争等が与える原材料の調達への影響予測
  • 従業員の属性や勤務状況、スキル情報集計
  • 従業員の不正リスク、内部統制の運用状況把握
  • サイバーセキュリティリスク発生状況把握
  • ITシステム導入状況やその投資効果の実現状況把握
  • 個人情報を含む機密情報の保有状況把握 等

例えば、ESGやサステナビリティを背景に注目が高まっているサプライチェーンリスクについては、下記のような取引先の評価ツールなどが提供されています。

これは取引先の活動に関して、様々なリスク情報を外部から収集し、ダッシュボードとしてリスク情報を視覚的に提供するものとなっています。

このツールを活用することで取引先単位に担当者が外部情報を検索することやその結果をレポートする業務を自動化し、常に最新の情報サプライチェーンの全体像を把握することが可能になります。より多くの時間をこの結果に基づく意思決定や取引先とのやりとりに担当者が集中することができるようになります。

また、2の将来予測機能ですが、ツールによってその機能性や期待効果等は千差万別ですが、一部のツールは最近話題の生成AIの機能なども取り込みながら、リスクが与える将来的な影響の予測機能を強化しつつあります。

自然災害が与える自社の部品供給網への影響などについて予測の精度高めるような取り組みも加速していることから、当領域でのAI活用については今後の推移が注視されます。

3については、業務上の承認やアラート、モニタリング機能等を実装することで、異常な取引やユーザーの振る舞い、外部の変化など捉えることでガバナンス上の問題点を予防、発見し、適切な担当部門が遅滞なく効果的な対策を講じられるような支援機能の実装が可能です。

これはERPなどの基幹システムに機能を実装するケースや、個別の業務システム・ツールで実装するケースもありますが、特に現在マニュアル業務の中ですり抜けているリスクや、発見のために多大な工数をかけているリスクを対象に検討することが望まれます。

 

■東南アジアにおける課題

しかし、ガバナンスの高度化・効率化に対するデジタル活用では、東南アジアの事情から下記のような課題について留意する必要があります。

  • 拠点ごとにシステムが違う…拠点の立ち上げ時期や買収・統合、合弁等の事情でシステムが異なる
  • データ定義違う、データ品質が低い…データの定義・粒度などが異なり容易にデータを扱えない
  • 地域内にデータ利活用できるスキル、リソースがない
  • 業務の自動化に抵抗を示す社員がいる
  • デジタル活動に対する予算が限定的で費用対効果が見込みにくい
  • 東南アジアにおける導入実績が乏しい
  • 国によっては導入・運用のサポートを提供できる会社がいない、あるいは限定的である

自社のシステム・データ的な特性に関する課題については、導入するソリューション側の仕様や導入手法も含めて対策を検討する必要があります。

 

■最後に

上記のような課題がある中で地域統括会社としては、域内のガバナンスの高度化・効率化に資する領域を見極め、自社の要件を明確にしながら適切なデジタルのソリューションを検討する必要があるため、場合によっては専門家を上手に活用しながら検討されることが望まれます。

いきなり多額の投資をすることへのリスクを回避するため、始めはSmall startで仕組みを構築し、成功例を積み上げるようなアプローチも多く見られることから、まずは気になる領域についての情報収集から始めてみることをお勧めします。

著者:森本 正一

※本ニュースレターは、2023年6月29日に投稿された内容です。

アジアパシフィック領域でのリスクアドバイザリーに関するお問い合わせは、以下のメールアドレスまでご連絡ください。

ap_risk@tohmatsu.co.jp

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