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マレーシアにおけるSustainability制度動向について

APリスクアドバイザリー ニュースレター(2023年11月30日)

近年、マレーシア政府および各省庁から、再生可能エネルギーや産業ごとの計画が公表されている。そんな中、マレーシア政府は、「再生可能エネルギー戦略開発ロードマップ」に沿って、電力供給量に占める再生可能エネルギー比率を2050年までに70%(2022年12月時点では25%程度)に高めることを目標に掲げており、これにより、新たなビジネス機会を創出し、多国籍企業の投資誘致を目指したい考えである。このため、多くの企業がマレーシアの再生可能エネルギー市場への関心が高い状況であると同時に、マレーシアの日系企業において再生可能エネルギーへの転換に向けた取り組みを早期に進めていく状況にある。以下の図表はマレーシア政府および各省庁より公表さたれ計画および主な内容について取り纏めたものである。

参考:マレーシア政府および各省庁による公表資料

特筆すべきことは、持続可能エネルギー庁が公表した「再生可能エネルギー戦略開発ロードマップ」において、低炭素エネルギーシステムへの移行に際し、テクノロジー別に4つの柱(太陽光発電、バイオエネルギー、水力発電、新たなソリューション及び資源)と4つの実現可能な取り組みが、戦略的フレームワーク/ビジョンとして示されている点である。

参考:Malaysian renewable energy roadmap ( https://www.seda.gov.my/reportal/myrer/ )

「再生可能エネルギー戦略開発ロードマップ」においては、テクノロジー別の4つの柱において、それぞれ2025年に向けた主要なアクションと2025年以降の主要なアクションについて明記されている。ここでは日系企業の取り組みの多い太陽光発電を中心に記載している。

1. 太陽光発電

太陽光発電の柱は、既存のプログラムであるNEM(Net Energy Metering)やLSS(大規模太陽光発電)オークションなどをベースに構築されているが、新たなビジネスモデル導入の可能性を補完することも目的とする。

1,1 2025年に向けた主要なアクション

i. 屋上設置型の太陽光発電のための将来のNEMプログラムの評価の再検討や、送電網コストとシステム運用コストをより公平に社会化するために、エネルギーコストに徐々に収束するような買取価格の再検討を実施する。早期参入者にインセンティブを与えるために、NEM料金の引き下げと契約の免除を継続し、NEMプログラムの下で導入率の向上を支援する。

ii. NEMとLSSプログラムによって可能になったビジネスモデルに加え、新しいビジネスモデルを模索する。これには、コーポレートPPA(電力購入契約)、第三者のアクセスの枠組み、分散型発電の拡大、再生可能エネルギー証書(REC)を通じた環境属性の収益化が含まれる。

iii. 浮体設置型太陽光発電のような、土地利用の少ない近代的技術に焦点を当てたLSSオークションの検討を実施する。既存の系統接続設備を利用することに加え、既存の水力発電流域と水域の潜在的な実施可能性を評価し、大規模な土地要件に対処する必要がある。太陽光発電開発に適した場所を特定するために州政府の取り組みを強化し、それによって太陽光発電プロジェクトのリスクを軽減し、太陽光発電コストの低減を可能にする。

1,2 2025年以降の主要なアクション

i. 競争力のある価格設定のために、太陽光発電オークションを改善・継続する。オークションの形式は、進化する技術的進歩や世界のベストプラクティスに合わせて定期的に見直される

ii. 企業による直接引取またはさまざまな形態の PPA に基づく、太陽光発電枠の導入に向けた枠組みを検討する

iii. 既存の屋上設置型発電プログラムを強化し、NEM のもとで電力会社以外の売電事業者を認める枠組みを検討する

iv. 政府の屋上設置型太陽光発電プログラムへの政府機関の参加を促進、奨励、増加させる

2. バイオエネルギー

バイオエネルギーの柱は、新しいビジネスモデル(オークションや入札プログラムなど)を通じて、既存のFiTの下でバイオマス、バイオガス、WTE(廃棄物発電)の展開を支援し、またバイオCNGやバイオマス混焼の潜在的な機会を模索することによって、バイオエネルギー発電容量を増加させることを目的としている。

3. 水力発電

水力発電の柱は、水力発電容量の導入と運用の加速化を支援することを目的とする。

4. 新たなソリューション及び資源

新しい技術とソリューションの柱は、2025 年以降の新しい再生可能エネルギー資源の導入を支援し、VRE 普及率が高い場合のシステム安定性を維持するためのソリューションを探ることを目的とする。

5. 各戦略的な柱のアクションプランの実施をサポートする4つのイニシアティブ(実現可能な取り組み)は以下の通りである。

5.1 既存の電力規制と市場慣行を将来的に改善し、民間セクターの参入を促進し、コーポレートPPAやサードパーティアクセス(TPA)の枠組みの可能性を探る等により、顧客において再生可能エネルギー電力の選択を可能とする。具体的には、既存のグリーン料金やRECの仕組みも改善し、電力会社や義務者からのRECの直接調達を可能にする。

5.2 グリーンファイナンスへのアクセスを改善し、エネルギー転換における再生可能エネルギー導入を加速させるという政府の意向に見合った資金フローを増加させる。このイニシアティブには、既存の財政的・非財政的インセンティブを強化すること、融資のための新たなインセンティブを模索すること、金融機関との継続的な関わりと円滑化を図ることが含まれる

5.3 再生可能エネルギー中心の社会を推進するための意識と将来の態勢を整備する。このイニシアティブには、人材育成、将来のエネルギーセクター移行支援、再生可能エネルギーにおける技術革新強化の取り組みが含まれる。当該技術革新は、 4IRイニシアチブに沿って、分散型エネルギーシステム、高度計測インフラ、自動配電、仮想エネルギー取引、スマートグリッドの導入によるエネルギーセクターのデジタル化からなる。

5.4 系統管理(太陽光予測、ディスパッチ、系統・配電コード)を改善するため、需要管理、蓄電池システム統合を含むスマートグリッドの実現可能な枠組みを検討することにより、システムの柔軟性を高める。これには、グリッドバランシングサービスの組織化された市場を創設することも含まれ、第三者は革新的な系統管理ソリューションを提供できるようになることで、新たな経済活動を創出することも検討される。

マレーシア市場における太陽光発電の優位性

マレーシアの再生可能エネルギー市場の中で、特に太陽光発電が注目されている。第一に、マレーシアは赤道近くに位置し、年間を通じて日照量が多いため、豊富な太陽資源を享受している。この自然の優位性は太陽光発電設備にとって強力な基盤となり、再生可能エネルギーの選択肢として非常に現実的なものとなっている。太陽光発電技術のコスト低下は、そのコスト競争力を大幅に向上させ、投資家やエネルギー消費者にとってますます魅力的なものになると考えられる。また政府は、太陽光発電開発を促進するための支援政策やインセンティブを実施している。NEMのような制度により、消費者は太陽光発電システムを設置し、余剰電力を送電網に売ることができる。同時に、固定価格買取制度や税制優遇措置により、太陽光発電プロジェクトへの投資が奨励されている。また、技術の進歩も太陽光発電の隆盛に重要な役割を果たしており、業界はソーラーパネルの効率と全体的な性能の大幅な向上を目の当たりにし、コスト削減と発電能力の向上を推進している。 

マレーシア政府の支援政策

政府は再生可能エネルギーの成長を促すため、固定価格買取制度の確立や、再生可能エネルギー生産者に安定した長期契約を提供する電力購入契約など、様々な政策措置を実施し、この分野への投資を促しており、民間融資を奨励し、再生可能エネルギー部門への民間参入を強化する意向である。グリーン技術融資制度、グリーン投資税制、グリーン所得税免除など、現在行われている政府の優遇措置に加え、太陽光発電を初めとした再生可能エネルギーのさらなる成長を支える制度改革の実施に重点が置かれている。 

2024 年度マレーシア国家予算案における優遇税制

2025年までに全エネルギーの70%を再生可能エネルギーで賄うという野心的な目標を達成するうえで、企業にとって最大の障壁となるのは、クリーン エネルギーへの移行に伴う経済的負担である。当該取り組みを支援すべく、2023年10月13日にマレーシア政府より公表されたマレーシア国家予算案において、企業への優遇税制処置を織り込んでいる。

グリーンテクノロジーに関する優遇税制 (GITA)

グリーンテクノロジーに関する優遇税制に関する見直しは以下の通りである。

GITA プロジェクト (事業目的)

適格プロジェクト

GITA (%)

相殺される法定所得の%

優遇期間

Tier 1

i. グリーン水素

100%

100% or 70%

上限10年(5年 + 5年)

Tier 2

i. 統合的廃棄物処理

ii. 電気自動車充電施設

100%

100%

5年

Tier 3

i. バイオマス発電

ii. バイオガス発電

iii. 小型水力発電

iv. 地熱発電

v. 太陽光発電

vi. 風力発電

100%

70%

5年

2024年1月1日から2026年12月31日までにMIDA が受理した申請

GITA 資産 (自社使用目的)

適格資産

GITA (%)

相殺される法定所得の%

優遇期間

Tier 1

i. 財務大臣により承認されたリストに基づく資産

ii. 二次電池電力貯蔵システム

iii. Green Building

100%

70%

Malaysian Green Technology and Climate Change Corporation により認証された2024 年1 月1 日から2026 年12 月31 日までの適格資本的支出

Tier 2

i. 財務大臣により承認されたリストに基づく資産

ii. 再生可能なエネルギーシステム

iii. 効率的とされるエネルギー

60%

70%

 

GITE 太陽光発電リース

Tier

法定所得に対する免税割合

優遇期間

>3MW - ≤10MW

70%

5年

>10MW - ≤30MW

70%

10年

2024年1月1日から2026年12月31日までにMIDA が受け取った申請が対象

低炭素エネルギーシステムへの取り組みの必要性

近年、企業に関わる多くのステークホルダーも、再生可能エネルギーや気候変動に強い関心を示している。それに伴い、マレーシアにおける日系企業においても、各社およびグループ全体の取り組みが必要な状況となっており、企業が低炭素に取り組むことは、ESG投資を行う投資家・金融機関からも重要視されている。また、近年自然災害による被害は甚大化、広域化しており、自然災害時におけるサプライチェーン寸断の影響も大きい傾向にあるため、気候変動が企業の持続可能性を脅かすリスクとなっているのと同時に、自社だけでなく関係するサプライチェーンにも排出削減を求めるなど、再生可能エネルギーや環境に配慮した事業運営を取引条件の一つにする企業も増加している。

このような経営環境下において、再生可能エネルギーや気候変動への取り組みを進めることは、自社を取り巻く様々なステークホルダーからの低炭素の要請、法令や社会的なルールに対応することで、環境対策に適切に取り組んでいる企業であることを証明できると同時に、取引先や投資家、顧客からの信頼を幅広く得ることができ、企業価値の向上に貢献すると考えられる。また、サプライチェーンを構築する上で競争優位性を有すること、脱炭素社会への転換によって新たに生まれる多くのビジネスチャンスを獲得し、企業の事業拡大に活かすことができる側面もあると考える。

しかしながら、企業が再生可能エネルギーや気候変動への取り組みを進めるうえで、経済的負担が最大の障壁になると考えられるため、グリーンテクノロジーに関する技術融資制度、投資税制、所得税免除など、現在行われている政府の優遇措置等の優遇政策を活用しながら、当該取り組みを進めていく状況にあると考える。

 

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  • カーボンニュートラル計画策定
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著者:岡本 保治

※本ニュースレターは、2023年11月30日に投稿された内容です。

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